英国の原発の今 「クリーンなエネルギー」の行方は?(「英国ニュースダイジェスト」より)
原発における英国の立ち位置を検証してみた原稿を、「英国ニュースダイジェスト」に出している。最新号のニュース解説には、原発の場所や稼動年が入った地図がついているので、ご覧いただけたらと思う。
http://www.news-digest.co.uk/news/news/in-depth/8732-nuclear-energy-in-uk.html
以下は、本文部分に若干補足したものである。
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英国の原発の今
―「クリーンなエネルギー」の行方は?
原子力の民事利用の規制・監督団体「原子力規制庁」(Office for Nuclear Regulation=ONR)は、昨年10月、東日本大震災による原発事故が英国の原子力産業に与えた影響について調査報告書を発表した。福島原発の被害状況を査定した上で、ONRは、福島の事例によって英国の原子力産業のこれまでの方針や今後の計画を変える必要はないと結論付けた。
その根拠として、事故が発生した福島原発では軽水炉型の原子炉が使われていたが、①英国ではガス冷却型であるため、同様の経緯での危機に発展しにくい、②ほぼ10年ごとに各原発が安全性の点検を監督団体から受けている、③規制・監督団体が原子力業界から独立している上に、原発推進策をとる政府からも独立している、③大規模な津波や地震が発生する確率が低い、などを挙げている。
報告書は、最終的に「英国の原子力施設に、基本的な安全上の弱点があるとは思えない」とした上で、換気、予備の電力設備、使用済み核燃料棒の処理、洪水発生時の対策などを常に見直し、必要あれば改善させるよう推奨した。
私たちが原子力と呼んでいるのは、ウランやプルトニウムの核分裂、放射性物質の崩壊、重水素・トリチウムなどの核融合により放出される核エネルギーだ。原子核反応により発生するエネルギーは、化石燃料の燃焼などの化学反応により発生するエネルギーに比べて桁違いに大きい。
1940年代、英国の科学者たちは原子力を主に軍事目的で開発していた。英国最初の原子炉は、1947年、英南部オックスフォード州ハーウェルに設置された。世界初の商用発電の開始は1953年で、イングランド東北部カンブリア地方に設計された施設ウィンドスケールのコールダー・ホール原発(マグノックス炉―関連キーワード参照―を使用)であった。その後、より効率的でより出力の大きな原子炉の調査・開発が進んでいった。
現在、英国では原子力が国内の電力供給の中で約19%をカバーしている。ちなみに、日本はこの割合が30%近くに上る。
原発事故も経験済みだ。1957年にはウィンドスケールで火災が発生し、大量の放射線汚染物が拡散された。2005年にはセラフィールドのソープ核燃料再処理施設のパイプの隙間から20トンのウラニウム、160キロのプルトニウムが漏洩した。
―原子力=クリーンなエネルギー
近年、地球温暖化への懸念が強まる英国では、原発は二酸化酸素を排出しないクリーンなエネルギーとして受け止められてきた。歴代の政府は「事故発生率が低い」点も原発の利点として挙げた。環境擁護運動の推進者たちは、核廃棄物の最終保管場所が決定していないことを問題視し、英国保守層の国民の多くは、英国が誇る田園の景観を損なう風力発電用施設の建設こそが大問題だと訴えてきた。
原発の長い歴史を持つ英国は、初期に導入した国であるからこその悩みを持つ。原子炉の稼動期間は大体40年ほどだが、その後、効率や出力の面で機能が向上したにもかかわらず、国内に旧型の原子炉を多く抱えているのだ。
今後、次々と旧型原子炉は稼動停止となる時期を迎える。現在稼働中の原子炉の中で、2024年以降も稼動予定なのはサイズウェルBのみ。この原子炉も2035年を最後に稼動停止となる。
原子炉は建設計画から施設の完成までに10年から15年かかるため、2020年代以降、継続して原発を利用するのであれば、緊急に建設に着工しないと、電力出力に問題が生じる可能性がある。政府は新規原子炉の建設をすでに決定しているものの、福島原発事故以降、世論には逆風が吹き出してきた。
電力生産に穴を開けないためにも、風力発電などの再生エネルギーの生産に政府としては力を入れたいものの、景観などの面から建設予定地の地元民からの反対運度が起きている。3月11日、東日本大震災の1周年記念日、新規原発建設予定地ヒンクリー・ポイントで、住民らによる建設に反対する抗議デモが起きた。
福島原発事故の後、英国は欧州他国とは異なり、原発計画を大きく変更させなかった。しかし、「原発=国の将来を託すに値する、安全な、環境保護の面でも正しいエネルギー供給源」という楽観論は少々あせたように見える今日この頃だ。
―関連キーワード:Magnox:マグノックス炉。
核分裂で生じた熱エネルギーを、高温の炭酸ガスとして取り出す仕組みを使う、英国が開発した原子炉のタイプ。名前の由来は、超高温に耐えうるマグネシウムの新合金「マグノックス」を使用したため。主に核兵器に使用する濃縮ウランを生み出すために設計されたマグノックス炉は、1956年、英コールダー・ホールで初稼動した。世界最初の商用原子炉で、これを原型として、多くのガス冷却型原子炉が実用化された。日本発の原子力発電所である東海発電所にも導入されている。コールダー・ホールのマグノックス炉は2003年稼動停止。47年間の長期にわたる稼動だった。