入国審査待ちに長蛇の列 ヒースロー空港混乱は誰のせい?
「英国ニュースダイジェスト」最新号のニュース解説面に、ヒースロー空港での長い入国審査待ち問題について、書いている。
http://www.news-digest.co.uk/news/news/in-depth/8985-long-queues-at-heathrow-airport.html
以下はこれに若干補足したものである。
***
ロンドン・ヒースロー空港で、先月、入国審査の待ち時間が2-3時間にも及ぶ事件が起きた。長蛇の列に並んだ乗客は、待ち時間の長さに痺れを切らし、審査官に向かって野次を飛ばしたり、皮肉をこめてゆっくりと手を叩いたといわれている。
乗客の多くは、水や食事を取る機会がなく、立ったままで待つ苦汁を強いられた。長蛇の様子を携帯電話などで撮影する乗客もおり、この模様が広く知られると、「まるで動物扱い」、「人権無視」などの大きな批判が出た。
英国の空港での入国審査は、英国と「欧州経済地域(European Economic Area)」と呼ばれる、欧州連合諸国に数カ国をを含めた地域のパスポート保持者と、日本も含まれるそのほかの国のパスポート保持者とを分けて、作業が進む。今回、大きな影響を受けたのは、主に後者だ。7月末からのロンドン五輪では、海外から多くの関係者や旅行客がやってくると予想され、「これでは五輪に対応できない」と野党労働党議員らが声をあげた。
窮地が混迷を極めたのは、何故このような遅延が突然生じたのかについて、当初、理由がはっきりとしないことであった。
ダミアン・グリーン移民問題担当閣外相は、4月30日、下院において、「主として悪天候による飛行ダイヤの乱れ」を原因とした。また、「メディア報道は数字を誇張している」として、EEA以外の旅客の場合、待ち時間は1時間半、英国及びEEAの場合はこれより「はるかに少ない時間だ」と述べた。
空港を運営する会社BAAにしてみれば、天候の変化を予測できなかった自分たちの責任と言われたも同然であった。早速、BAAは自己の調査結果を発表し、入国審査を担当する、内務省所属の英国国境隊が目標とする、EEA以外の国のパスポート保持者の審査を「45分以内に終了する」が、4月は十分に満たされなかったと報告。最長の待ち時間は30日に発生し、ターミナル4で3時間待ちというケースがあったという。BAAは、入国審査の管理者=政府に責任がある、とした。
大手航空会社BAなどを傘下におくインターナショナル・エアラインズ・グループの最高経営責任者ウィリー・ウオルシュ氏は、報道が誇張とする政府の説明は「おかしい」と指摘。異様に長い待ち時間の様子を目にした海外の投資家が「英国への投資をとりやめるかもしれない。経済に打撃だ」と述べた。
―大幅人員削減の影響か
待ち時間長期化の理由の一つは、英週刊誌「エコノミスト」によれば、パスポートチェックの厳格化だ。2007年、過度の混雑状態となった場合、チェックを簡素化することを政府や関連団体の当局らで合意がなされていたという。しかし、半年前にこれが政治問題となり、英国国境隊のトップが辞任に追い込まれている。
現場の非効率も遅延の理由だ。審査用デスクがすべて埋まっていることは珍しく、虹彩を読み取るハイテク・スキャナーも「壊れていることが多い」。
最も大きな原因となったのは、人員削減だ。政府は各省庁に2015年までに20%前後の歳出削減策を課しており、国内に勤務する入国管理官約8500人は、15年までに5000人に削減される予定という。
オズボーン財務相は「緊縮財政策を撤回しない」とBBCの取材に応えており、ロンドン五輪のつつがない遂行に、省庁の歳出削減策やぎりぎりの人員による審査などが、影を落とす現況となっている。
ー関連キーワード:UK Border Agency (UKBA)、英国国境局。
内務省に所属する国境管理のための一元的機関として、2008年発足。職員数は約2万3500人で年間予算額は約22億ポンド(約2830億円)。2015年までに約5000人を削減する予定だ。主な業務は①海外でのビザ発行など、外国から英国への入国審査、②パスポート確認や税関での物品の流入を国境地点で管理(UK Border Force:英国境隊が担当)、③難民申請の処理、不法滞在者の撤去など。国境局の活動は、独立チーフ・インスペクター、ジョン・バインが監視役として検証する体制となっている。