小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

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ロンドン五輪⑫ 終盤戦へ  その経済効果とは?

c0016826_317515.jpg 夏季ロンドン五輪がいよいよ終盤戦に入った。「その後」を考える時期が到来したともいえよう。果たして、五輪招致はロンドンや英国全体にとって、どんな経済効果をもたらすのだろうか?

 「英国ニュースダイジェスト」最新号の筆者記事に補足したものが以下である。

***
 

 7月上旬に発表された、大手銀ロイズ・バンキング・グループによる調査報告書「ロンドン2012の経済効果―オリンピックとパラリンピック」の中から、要点を拾ってみた。

The Economic Impact of the London 2012 Olympic & Paralympic Games http://www.lloydsbankinggroup.com/media/pdfs/lbg/2012/Eco_impact_report.pdf


―GDPへの波及効果は165億ポンド

 報告書が調査対象としたのは、ロンドンが五輪開催地と決まった2005年から、2012年の開催から5年後の「遺産」(レガシー)期間を含む、2017年までの12年間だ。この間に、GDPにして165億ポンド(約2兆円)が新たに生み出されるという。

 この金額の中で約57%が開催のため施設建設に由来する。五輪に絡んだ観光業が12%、大会運営・開催費が6%、24%が閉会後のレガシー関連の建設業による。

 一方、ロンドンおよび英国全体で6万2200人分の雇用が生み出されるという。

 LOCOG=ロンドンオリンピック・パラリンピック組織委員会の調査によれば、五輪施設建設で雇用された人の中で、元失業者だった人たちの居住地域は、以下のように分かれた。場所、人数(全体に占める割合)の順だ。

ロンドンーグリニッチ 244(8%)
ロンドンーハックニー 397(13%)
ロンドンーニューアム 671(22%)
ロンドンータワー・ハムレッツ 397(13%)
ロンドンーウオルサム・フォレスト 427(14%)
ロンドンーバーキング・アンド・ダゲナム 122(4%)
他のロンドン地域 739(26%)

 合計は2997人だ。

 経済が潤うのはロンドン(約60億ポンド)ばかりでなく、そのほかの地域(約105億ポンド)も好影響を受ける。

 報告書によれば、大会施設の建設を担当した五輪実行委員会(ODA)が英国の建設業サプライヤーと交わした800件の契約の中で、ロンドンのサプライヤーであった場合が25%であったのに対し、残りがロンドンの外のサプライヤーであった。また、経済効果の発生場所も41%は大会施設が建設されたロンドンや南東部となったものの、他の地域も恩恵を受ける。

 経済効果の発生場所を地域別に見ると、以下のようになる。

ロンドン41%
イングランド南東部9%
イングランド北東部7%
イングランド東部6%
スコットランド6%
ウェスト・ミッドランズ6%
ヨークシャー&ザ・ハンバー 6%
南西部6%
イースト・ミッドランズ5%
そのほかの地域8%

―観光客は1000万人以上増加

 2017年末までに、観光業は20億ポンドのGDPを生み出す。そのうちの3%は五輪開催前、49%が開催中、48%が閉会後である。

 約1000万人が五輪観戦を目的としてロンドンを訪れると予想されており、そのうちの12%(約120万人)は海外からの旅行客だ。結果として、2017年までの訪英者の中で、追加で1080万人が観光や五輪関連ビジネスで訪れると予想されている。混雑したロンドンを嫌って、国内のほかの地方を訪れる人も増える見込みだ。

 五輪ビジネスで利を得るのは大企業だけと思うのは間違いだ。ロンドン五輪組織委員会(LOCOG)によると、LOCOGと契約を交わした企業の中で、72%が中小企業なのだ。

 複数の調査によれば、大きなイベントを開催した場合、その国の国民の中に「幸福感」(feelgood factor)が生まれる。そのイベントに参加した、あるいはイベントの近くにいた、イベントを開催できたことによるプライドなどが理由となる。

 調査報告書はこうした幸福感が消費につながる場合もあるとし、国民一人当たり少なくとも165ポンド相当の贈り物をする可能性がある、と計算する。

―大会が生み出す本当のレガシーとは

 この報告書は12年間という長期スパンでの推測だが、一部では「楽観的過ぎる」という批判が出た。

 また、「それほど期待はできない」という調査も各種出ている。

 しかし、広大な自然公園となるオリンピックパークの出現、土地の再利用、住宅・雇用の機会の提供など、さまざまな環境が大きく変わったことは確かだ。

 元失業者で五輪施設建設のために雇用された人の場合、人生が変わったともいえる。

 閉会後はオリンピックビレッジ内に3000戸前後の低価格の住宅ができる。これは近辺の住民の生活水準を上げ、さらには、報告書によれば、「健康状態の改善、医療費の減少、犯罪の低下」につながる可能性があるという。

 私は、五輪開催による、英国にとっての良い影響を挙げるなら、

 ①スポーツ振興(今回の大会で金メダルを取った英選手の中で、4年前の北京五輪で触発されたという人が結構いる。また、青少年にとっても「やってみたい」と考える人は少なからずいるだろう。スポーツおよび教育機関が予算をもっと増やそうとすることも想像できよう)

 ②先の「幸福感」(feelgood factor)―これは数字でははかることができない、さまざまな波及効果があるだろう

 ③大きな公園ができた(これも幸福感につながるはずだ)

 ④英国の強みが増えた

 などの点が少なくともあるだろうと思う。

 ④についてだが、環境面に配慮しながら競技施設を建設し、競技運営のみならず、競技後のレガシーまで計画して実行した英国流五輪開催のやり方は、1つのビジネス・モデルとして、また都市計画の1つとして世界に広める価値があるだろうと思うー少なくとも、英国関係者はそうするだろう。強みを増やしたという点で、ここが最終的には「経済効果」になるのではないかと思う。

―関連キーワード:Olympic budget:(ロンドン)五輪の開催予算。

 招致の際に提出した予算は約240億ポンド(今年7月末計算で約2960億円)だったが、後に警備費などを入れて膨らんだ。2007年に再計算した額(93億2500万ポンド)を発表し、開会までに予算内の92億9800万ポンドに収まった。財源は中央政府(62億4800万ポンド)、ロンドン市(8億7500万ポンド)、宝くじ(21億7500万ポンド)。使途は会場用地のインフラ整備、五輪競技施設の建設、警備費、交通費、公園設置、メディア・センター建設など。
by polimediauk | 2012-08-09 03:17 | ロンドン