ヘンリー英王子の裸の写真がお騒がせ事件に ―「報道の自由」?
***
ヘンリー英王子の裸の写真がお騒がせ事件に ―「報道の自由」?
五輪の余韻がまだ残る8月末、英国民は大きな衝撃に見舞われた。
ゴシップ記事が満載の米国のウェブサイト「TMZ」が、英国の王位継承順位第3位のヘンリー王子(=ハリー王子)の裸の写真を、22日早朝(現地時間は21日夕方)、掲載したのである。ラスベガスでの友人たちとのパーティーのひとコマで、1枚は股間を手で隠して裸で立つ王子とその後ろには裸らしい女性の姿が映っていた。もう1枚では、後ろ向きになっている裸の王子がもう一人の裸の女性を後ろから抱きしめていた。裸の写真はインターネット上のさまざまなウェブサイトに再掲載された。
ネット上では誰でも見れる写真だったが、BBCや主要新聞を含む英国のメディアはTMZによる掲載を報道する一方で、実際の写真そのものは掲載しなかった。
22日午後、写真提供会社スプラッシュ・ピクチャーズがメディアに連絡を取り、王子の写真を買わないかと声をかけだした。王室はこの写真が本物のハリー王子のものだと認めたものの、掲載をしないよう要請した。報道苦情委員会(PCC=メディアの自主規制団体)も、掲載すれば個人のプライバシー侵害にあたると各紙に伝えた。
各メディアは個々の判断で掲載しないことを決めた。現在、大衆紙ニューズ・オブ・ザ・ワールド(昨年廃刊)での電話盗聴事件をきっかけに、新聞界の倫理と慣習を見直すための調査をレベソン委員会が行っている。この委員会の存在が「報道自粛」につながったという見方もある。
大衆紙サンは社内のスタッフを使って、写真の中のハリー王子と女性と同じ格好をさせ、この写真を8月23日付1面のトップにした。一瞬、本物のハリー王子ではないかと錯覚させた。
翌日、サンは掲載には「公益性がある」、「報道の自由の問題だ」とし、今度は本物の写真を1面に載せた。掲載にあたり、サンは編集幹部による動画を作り、「すでにインターネット上ではこの写真が出ている。紙のサンを読む約800万人の読者に機会を与えたい」と掲載理由を説明した。
サンによる写真の掲載後、PCCに対し、850件に上る苦情が殺到した(補足:9月上旬時点では約3800件)。サンを発行するニューズ・インターナショナル社の親会社の会長ルパート・マードックは「英国には自由なプレスがないことを示したかった」とツイートでつぶやいた。
ジェレミー・ハント文化・メディア・スポーツ大臣(当時)は、サンの報道に「公益があったとは個人的に思えない」が、「政治家が新聞の編集長に何を掲載するかを指図するべきではない」と述べた。
写真の掲載について、政治家の中でも意見が分かれた。「王子は税金を活動の原資としている、だから写真の掲載には公益性があった」、「公益や報道の自由の問題ではない。すべて金が理由だ」など。王子の警備体制に不備があったと指摘する評論家もいた。
ハリー王子は以前にも、仮装パーティーでナチの制服を着て参加し、ひんしゅくを買ったことがある。チャリティー事業に熱心に参加し、軍人としてのキャリアも積むハリー王子だが、今回の件で評判に傷が付いた。しかし、複数の世論調査では、プライベート空間で羽目をはずしたハリー王子に「好感を抱く」と答える人が大部分だ。
今回の事件は、インターネット時代、王室の一員でも私的な情報を門外不出とするのがいかに難しいかを示した。また、日本人にとっては、王室の情報がここまで公にされてしまうこと、王子への国民的な好感度が依然として高いことなど、英国は日本と比較して随分とオープンな国であることを感じる事件であったともいえよう。
9月4日、ハリー王子は、難病の子供とその家族を支援する団体が主催する賞の授賞式典に出席した。写真流出後、初めて公の場に出たことになった。
王子はあいさつで、「人前に出るのを恥ずかしがってはいけません。私は思い切ってそうします」と言って来場者を笑わせたそうだ。
その前日には、エリザベス女王の次男アンドリュー王子が、慈善団体の募金集めのため、ロンドンの高層ビル「シャード」の外壁をロープを使って降りる行為に挑戦した。その高さは310メートルほどで、欧州で一番高い高層ビルといわれている。7月、外壁の工事が完成したばかりだ。
私はこの様子をテレビで見ていたが、本当にすごいなあと驚嘆した。アンドリュー王子が壁を垂直に降りる姿を見ていると、ハリー王子の「へま」のイメージが、次第に消えていく思いがした。
―ヘンリー(ハリー)王子のプロフィール
正式な名前はヘンリー・チャールズ・アルバート・デイビッド。通称ハリー王子。父チャールズ皇太子と母故・ダイアナ妃の次男として、1984年9月15日生まれ。27歳。王位継承権順位第3位。陽気で楽しいことが好きな人物として国民から慕われている。年少時からタバコやお酒に手を出し、10代半ばでアルコール依存症で治療を受ける。勉強嫌いのため、2005年、サンドハースト王立陸軍士官学校に入学。卒業後は近衛騎兵連隊に所属した。2007年末からアフガニスタンで航空管制官としての任務を遂行。アパッチ軍用攻撃型ヘリコプターの操縦士。スキーやサッカー、ポロなど、スポーツ好き。チャリティー支援も熱心で、兄ウイリアム王子とともに2009年、慈善団体を立ち上げた。パーティーでの行きすぎた飲酒や悪乗りが乱闘騒ぎに発展したことも。ジンバブエ出身の恋人チェルシー・デービーとの交際が2007年頃に破局となった。結婚の気配はない。
―世論調査
*ハリー王子の行動を容認できますか?
はい:68%
いいえ:22%
分からない:10%
(YouGov調査、8月23日、24日)
*サン紙がハリー王子の裸の写真を掲載したのは正しい行為だったと思いますか?
はい:25%
いいえ:61%
分からない:14%
(YouGov調査、8月24日)
―関連キーワード:
Succession to the throne:王位継承、王位を王位継承者に譲ること。英国では王位継承にかかわる法律で定められ、国王の直系子孫、男子優勢、長子先継、プロテスタント信仰であること、カトリック信徒と結婚した場合は継承権を放棄などの条件がある。エリザベス女王の後、現在の継承順位は1位が長男チャールズ皇太子、2位が皇太子の長男ケンブリッジ公・ウィリアム王子、3位が次男ヘンリー王子、4位がヨーク公アンドリュー王子(女王の次男)、5位がベアトリス王女(アンドリュー王子の長女)など。法律は一部改正中で、近い将来、男子優勢の廃止、カトリック教徒と結婚しても継承は可能となる。ケンブリッジ公爵夫妻に女の子が生まれた場合、エリザベス女王の次の女性君主誕生の可能性がある。