新聞業界

モノづくりにはお金や時間がかかる

 先月21日に、「日本のメディア関係者との会話で見えてきたもの -本気の議論をするには?」というエントリーを出した。


 この中で、「本気の議論」がネット上でさらに深まるためには(=もっともっと、面白み、深みを出すためには)どうしたらいいかという流れになり、以下のように書いた。

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 例えば新聞・雑誌の論考・意見が、ネット空間にもっと出てもいいのではないかと思う。具体的に言うと、例えば新聞の解説記事が、多くの人が読めるように=つまりは、無料か廉価で=どんどん出ればどうかと思う。

 経営上の理由があることは承知しているのだけれども、ネット空間の言論の更なる充実化、厚みを出す1つの方法として、解説面に出ているような記事が、どんどんネットに出て、これが一定の量になることが必要ではないかと思う。
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 英国の新聞や放送メディア(=BBC)がネット上で無料で記事(過去記事、解説記事含めて)を出す状況が長い間続いており、これが大いに議論やソーシャルメディアの活況につながった状況を踏まえての説明だった。

 しかし、ロンドン大学でメディアの多元性を研究中の山田隆裕さんからメールを頂き、「単純な無料化は質の低下につながる可能性も考慮しなければならない」のではないかという趣旨のコメントを頂いた。

 そこで、自分が「ジャーナリズムの生成にはお金と時間がかなりかかる」ということを、見逃していたことに気づいた。

 以下は山田さんのご指摘の主要部分である。

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 ネット空間の言論については、同様の問題意識を持っておりますが、その言論空間にお金を支払う仕組みが確立していない ことが一つの問題としてあると思っています。新聞、雑誌、テレビにおいてジャーナリズムが発展したのも、綿密な取材、高度な分析・議論、編集を資金面から支える仕組みがあったからこそで(だからこそ別 に記事にされていますBBCのワールドニュースも質の向上のために収入を上げることを目標とされていると理解しています)、現在の(無料で見られる)ネッ ト空間にはそういったことに対して資金面から支える仕組みが確立していないことも 、今後のネット空間における言論の更なる充実化に向けて、課題になっているのではないかと感じています。

 資金面で支えられていない取材、分析には限界がありますし、現在の新聞や雑誌、テレビが無料でネット空間に公開することになっても、それが新聞・テレビ の経営基盤を不安定にすることにつながるのでは、そういった取材、分析等に対する資金の流れが滞り、これまでの新聞、雑誌、テレビにおける言論の質の低下、ひいては言論全体の質が下がるのではないかとも懸念しております。


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 「資金面で支えられていない取材、分析には限界」があるーこれはしみじみ、自分でも感じている。

 山田さんからは、言論空間のみでなく文化面で起きていることとして、音楽家佐久間正英さんのブログ(昨年6月のエントリー)をご紹介いただいた。「無料」あるいは「なるべく安く」という流れ・要求が、日本の音楽を文化として向上させることを難しくしていることについてのエントリーだ。

 音楽家が音楽を諦める時


 BLOGOSサイトには、佐久間さんのインタビュー記事も:

 音楽プロデューサー・佐久間正英氏が語る「音楽業界の危機的状況」

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 現在、ネット上でさまざまな情報が無料で出ており、簡単に情報発信もできるようにもなった。これはこれで素晴らしいのだけれども、きちんとしたものを作ろ うとすれば、やはり相当の時間やお金がかかる。ここをカットしたら質が下がってしまう。この点 を書き手+読み手でもある人(自分を含め)や、メディアの将来に興味のある人は忘れてはいけないと、改めて思った。
by polimediauk | 2013-02-06 00:49 | 新聞業界

ジャーナリズムの話いろいろ+欧州事情も


by polimediauk