英、EU憲法に関する国民投票を中止へ
EU憲法の批准に関して、来年の春にでも国民投票を行う予定をしていたイギリスが、これを中止することになりそうだ。ストロー外相が、明日、議会で発表するらしい(BBC他、各紙)。
フランスとオランダの国民が「ノー」票を投じたので、既に憲法は死んだ、という見方・流れができており、ブレア英首相は最近まで休暇中だったものの、首相の腹心のピーター・マンデルソン氏(EUの委員でもある)が、「ポーズボタンを押す時だ」と発言するなど、「もうだめだ」「国民投票をしても仕方ない」という声がイギリス国内でも圧倒的になった。
結局、「欧州統合の中心だったあのフランスが」、そして「最初からの加盟国であるオランダでさえも」、憲法を国民投票で批准しなかったのだから、「もう仕方ないのだ」、という論理だ。
私は、若干眉唾の思いで、流れを見ている。
それは、イギリスは、というかブレア政権は、フランスを結構だしに使うのだ。都合の悪いときに、「フランスがそういったからこうなった」と。〔逆に、フランスは、「イギリスがこうだから・・」ということを言っている「らしい」が、本当だろうか?)
その代表的な例が、イラク戦争開戦までの過程だ。イギリスは国連安保理の新決議を出してもらい、これを盾にイラクへの武力抗議をしようと考えていた。
しかし、フランスは、首をたてに振らなかった。新決議を出すための意思決定がなされる前に、「フランスは、どんな妥協案を出しても、OKとは言わないことが分かったので」、交渉は決裂した、というようなことを、英国のグリーンストック国連大使〔今は退職)は記者会見で語った。
その後も、事あるごとに、英政府は、「国連での新決議が欲しかったけれど、フランスに阻まれた」と、フランス=悪人説をしょっちゅう持ち出すことになった。
「新決議なしの武力攻撃は、国際法の違反になるのではないか?」など、イラク戦争の合法性に関する議論が、一旦、ふっとんでしまった。「とにかく、フランスが悪い」ので、「やむを得ず、新決議なしに、武力攻撃に入らざるを得なかった」・・・というような論理の流れだった。
どうも、今回も、あまりにもパターンが似すぎている。
英国民はEUに対する反感が強いので、国民投票をしたら、ノーが多くて、ブレア首相は面目を失ってしまう可能性が高く、できれば、「他国に先にノーといってほしい」という気持ちがあるのだった。このもくろみは、結局、成功しそうだ。
〔参考)
2003. 03. 18 読売新聞
対イラク新決議修正案撤回 米英大使、仏の拒否権「脅し」と非難
◆「安保理の連帯」崩れる
【ニューヨーク=勝田誠】米、英、スペイン三か国が十七日午前、国連安全保障理事会の非公式協議の開催前に、今月七日に安保理に提出した対イラク武力行使を容認する新決議修正案を採決にかけず、取り下げる方針を発表した。米英は取り下げ理由として、常任理事国のうちのある一か国が、拒否権行使の「あからさまな脅し」(ネグロポンテ米国連大使)をかけ続けたためと説明したが、これがフランスを指すのは明らかだ。〈本文記事1面〉
米英などと仏の確執は最終的な局面で、決議案取り下げ、米英による安保理決議無しでの武力行使という事態を迎え、アナン事務総長が訴え続けた「安保理の連帯」にとって、最も厳しい結果となった。
英国のグリーンストック国連大使は、決議案取り下げの理由として、各国に対する最後の数時間の外交折衝にもかかわらず、常任理事国のうちの一か国が「いかなる条件であっても最後通告には反対する」として、拒否権行使の姿勢を崩さず、英国の妥協案を拒否したためと説明した。
英大使はさらに、英国が〈1〉イラクの姿勢を試す信頼できる最後のテストの実施〈2〉現実的かつ厳しい期限設定〈3〉テストで不可と判定された場合、安保理決議1441(昨年十一月採択)に基づく「深刻な結果」、つまり、武力行使を認める――という妥協案を試みたが、常任理事国一か国に拒否されたと述べた。これも、フランスを指すのは明らかだ。
これに対してフランス外交筋は、現在の新決議修正案が「たった四票しか賛成票を取り付けていないのは事実。国際社会全体が同案を支持していないのに、わが国を非難するのには驚いた」などと語った。
一方、米国のネグロポンテ国連大使は「投票すれば、接戦だったはずだが、ある常任理事国によるあからさまな威嚇により、票読みも最も重要なことでなくなったことが遺憾である」と声明を読み上げた。