小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk
プロフィールを見る
画像一覧

伊雑誌「Colors(カラーズ)」が問う「ニュースって、何?」

 イタリア・ペルージャで開催された国際ジャーナリズム・フェスティバル(4月24-28日)で印象に残ったセミナーやワークショップの一部を紹介したい。

***

c0016826_18254790.jpg
 

 その1つは、イタリアの季刊誌「COLORS」(カラーズ)による様々な実験だ。同誌は斬新な写真と深みのある記事で知られる。

 フェスティバルの初日、編集長のパトリック・ウオーターハウス氏が「ニュースを作る」と題されたプレゼンテーションを行った。同氏によれば、22年前に「カラーズ」が創刊されたときは「グローバリゼーション=多様性=良いこと」という考えがあったという。しかし、今は、「疑問符がついている」。

 毎回、人種、エイズ、宗教など人間にとって大きなテーマを取り上げ、議論を発生させてきた「カラーズ」は、最新号でニュースに注目した。「ニュースを作る」がそのタイトル。ニュースとは何か、ニュースを分析して見よう、というわけだ。

 最初のページにあるのが英大衆紙デイリー・メールの紙面。英国の新聞は企業が送ってくる広報文書(プレス・リリース)に依存するようになっているが、「カラーズ」は、ある日のデイリー・メールの紙面から、プレス・リリースに依拠した記事を取り去って見た。大きな穴が開いた紙面となった。ある紙面は90%近くが、プレス・リリースを基にしたものだった。

 一体、ニュースって何なのだろう?プレス・リリースを書き換えたもの、といえなくないだろうか、という問題提起である。

 2005年4月、イスラム武装集団が、イラクで拘束されている米兵の姿をウェブサイト上で公開した話も紹介されている。兵士の頭には銃が向けられている。武装集団は、米軍によって拘束されているイラク人受刑者を解放しなければ、この米兵士を銃殺すると脅した。

 しかし、実はこの米兵はプラスチックの人形だったー。インターネットの出現でうそのニュースを作ることがより簡単になった、とイタリア人の教師トマッソ・デ・ベネデッティ氏は語る。同氏は英国のベストセラー作家JKローリングや元ローマ法王ベネディクトが死んだと嘘のツイートを流したことで知られている。

 一方、2011年3月11日、日本を大津波が襲った後で、石巻日日新聞が出した「号外」は、紙に手書きで書いた新聞だったー。ネットが発達した現代社会だが、いざと言うときに役立ったのは紙の新聞だった。

 「ニュースは事実を伝えるもの」、「事実とは誰にとっての事実なのか?」、「私たちは先進的なネット社会に生きている」-もろもろの既成概念を問い直し、視覚的に揺さぶりをかけるのが、今回の特集だ。

 ウオーターハウス編集長は、「カラーズ」がある事象を分析するときのアプローチ方法を説明した。

 「視覚化する」、「客観化する」、「モノを通して見る」、「地理情報を加える」、「分解する」、「仕組みを説明する」、「人間の特有性を大事にする」など。

 発想を刺激する「カラーズ」だが、資金繰りはどうしているのだろう?編集長は、衣料メーカーのベネトンが資金を出しているという(ベネトンのリサーチセンター、ファブリカが担当)。

 これで少し納得がいった。ベネトンといえば、度肝を抜くような広告の数々で知られている。例えば、2011年、ローマ法王ベネディクト16世(当時)とイスラム教指導者アフマド・アル・タイーブ師がキスしている合成写真を用いた広告を出し、物議をかもした

 どうやって私たちはニュースとつきあうべきなのだろう?

 ウオーターハウス編集長に会場で聞いてみた。c0016826_18274556.jpg 編集長は自分をアーチストという。以前にファブリカ社で編集にかかわっていたが、いったんやめて南アフリカ・ヨハネスブルクに。プロジェクトに応じて「カラーズ」にかかわるようになり、現在は編集長になった。

 雑誌を見ると、世界中のさまざまな出来事を俯瞰していることが分かる。どうやって世界で何が起きているかを把握するのだろう?毎日、どうやって情報を取得するのだろう?

 「私たちは情報がありすぎる社会に生きていると思う」と編集長。「目利きとなる情報フィルターを持つことが重要になってくる」。

 「カラーズ」に入ってくる情報は、イタリアにある編集部の10人のスタッフ、世界中にいるジャーナリストやリサーチャー、アーチストなど、これまでに「カラーズ」で仕事をした人から入ってくる。

 編集長自身も地元で手に入るニュースに目は通すが、「情報がありすぎるぐらいだ」と繰り返す。

 「肝心な点は、アイデアを見つけること。自分が何を探しているのかを頭において、情報を見ることだ」という。

 フェスティバルの開催中、「カラーズ」は、「ニュースを作る機械」をリパブリッカ広場の一角に置いた。

c0016826_1828836.jpg

 最新号の特集「ニュースを作る」をフェスティバルで紹介したことにあわせ、表紙に描いた「ニュースを作る機械」のイラストを実際に作ってみたのだ。ビデオカメラやラジオ、マイクロフォン、拡声器、録音機、ブラウン管などを組み合わせた、奇妙な格好の機械である。

 その仕組みの一部を簡単に紹介すると、利用者がツイッターで@colorsmachineにメッセージを送ると、文章が音声に変換され、拡声器がこれを発声する。その音声を録音機が録音し、ブラウン管に映し出す。これをビデオカメラが撮影し、再度文字に変換するー。最後に、手前にある装置が、元のツイッターのメッセージと、ニュースを作る機械が生み出した文章とを印刷する。この機械の「編集」過程を経て手にしたメッセージはオリジナルのメッセージとは大きく異なっていることが多い。

 例えば、「今、この機械に向かって叫ぶことを楽しんでいる」が、「今、娘を持っている」に変わっていた。


c0016826_18282548.jpg
 この機械を作ったアーチスト、ジョナサン・ショムコさんは「最初のメッセージが様々な媒体を通してまったく違うものに変わっていくことを示したかった」という。最新のデジタル技術を使い、人的要素を一切排した媒体でも、結果として「間違った、あるいは不正確な情報になった」。教訓は、「新聞や雑誌などの既存メディアであれ、機械であれ、何かを媒体として出てきた情報を鵜呑みにしてはいけないということだ」。
by polimediauk | 2013-05-11 18:19 | 欧州のメディア