欧州新聞界ラウンドアップ 「グーグルとの付き合い方」、「無料紙」、「デジタル課金」 (上)

 読売新聞オンラインのデジタル面に、毎週火曜、欧州メディアのデジタル事情について書いている。関心のある方はご覧いただければ幸いである。

 来週は、5月27日に発売される、「BIG DATA」(邦訳版「ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える」、講談社)の共著者の一人に、本の内容とビッグデータの扱い方を聞いた話を出す予定でいる。

(1)「データ・ジャーナリズム」で未来を予言?
(2)メディア・アウトソーシングの新たな波
(3)既存メディアへの五つの提言
(4)東欧発の人気サービス「ピアノメディア」とは?
(5)データエディターとはどんな仕事?(上)


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 欧州新聞界の最近の傾向について、「グーグルとの付き合い方」、「無料紙」、「デジタル課金」をキーワードにして、隔月刊行の「JAFNA通信」(フリーペーパーの団体日本生活情報紙協会=JAFNA=発行)など複数の媒体に寄稿した。以下はそれに補足したものである。長くなったので、上下に分けている。

―グーグルから譲歩をひき出そうとする欧州メディア

 検索エンジンといえば、米英および欧州数カ国で圧倒的な位置を占めるのがグーグル。そんなグーグルに対する懐疑の目は、欧州で結構強いように思う。

 英国のメディアはどちらかというと、グーグルに自分たちのウェブサイトの記事を拾ってもらうためにはどうするか?を重視し、「どうせ駆逐できないのなら、協力してしまえ」という雰囲気を感じるが、ほかの欧州数カ国ではそれほど簡単に負けてはいない。

 昨年末来報道されているが、ベルギー新聞界はグーグルによる記事利用(グーグルニュースなど)に料金の支払いを求めている。2012年末、グーグルとの交渉で和解に到達。詳細は明確にされていないが、グーグル側はベルギーの新聞のこれまでの訴訟費用を負担し、かつ、500万ユーロ(約6億4000万円)分の広告を掲載するという。

 一方、フランスでは、今年2月、政府とグーグルが新聞・雑誌業界向けの支援基金を設置することで合意している。基金の規模は6000万ユーロ(約76億円)。この基金はフランスのメディアの電子化促進に使われる。

 フランスでは新聞界がグーグルによる検索の記事の見出しや一部の利用に対し、著作権の支払いを求めていた。これは実現しなかったが、グーグルからお金を引き出したという点では、フランス側のひとまずの勝利ともいえるのかもしれない。あるいは、著作権の支払いにならなかったという点ではグーグルが勝ったのかもしれない。玉虫色の結果である。

 3月には、ドイツで、新聞社などがネット上で出したニュースを検索サイトに掲載する場合、使用許諾や使用料の支払いを義務付ける改正著作権法が成立した。「グーグル法」とも呼ばれている。報道機関は、1年間、営利目的でニュース記事を公開する独占的権利を持つ。

 交渉は難航した。改正法案支持の与党キリスト教民主党の政治家や新聞界に対し、成立すれば多額の支払いが発生することを懸念するグーグル側による反対派との間で、意見が拮抗したからだ。

 法案は3月1日、連邦参議院(上院)が可決し、22日に連邦議会(下院)での可決を経て成立の運びとなった。法案支持派は「骨抜きになった」と不満を漏らす。というのも、改正法は非営利目的で個人がニュースを利用する場合や引用が短い場合には適用されないからだ。一体、「短い引用」とはどこまでを指すのだろう?譲歩を引き出しはしたものの、これも玉虫色の印象が出た。ドイツ新聞界側もグーグル側も、どちらも「勝った」と主張できるのだ。

 ドイツ新聞界は上院での可決後、法案が成立すれば「自社で生み出したコンテンツのウェブ上での商業利用に初めて決定権を持つことができる」と声明文で述べた。出版社は「検索エンジンやニュースアグリゲーター(他媒体で作ったニュース・コンテンツを集積=アグリゲート=して独自のサイトを作る)と、どのような合意の下に商業目的のコンテンツを提供するかについて自由に決定できる」。上記の条件を考えると「自由に決定」とまで言えるかどうかは疑問なのだが。

 欧州新聞界の話からは外れるが、米通信社APが自社記事の著作権を侵害されたとして、ノルウェーのオンラインメディア「メルトウオーター」を訴えていた件で、ニューヨークの裁判所は3月20日、AP側の主張を認める判断を下した。大手検索エンジンのみならず、ニュース・アグリゲーターと新聞社などコンテンツ制作者側との戦いはこれからも続くかもしれない。

 英国ではドイツ新聞界のような動きはあまり表面化していない。ロイター・ジャーナリズム研究所の調べによると、1週間でどの媒体でニュースを得たかと聞かれ、「新聞」と答えた人がドイツでは68%、英国54%、米国45%。「ネット」と答えたのはドイツで61%、英国82%、米国86%、テレビがドイツで87%、英国76%、米国69%、ラジオがドイツで68%、英国45%、米国33%となっている。

 ドイツのメディア利用者は米英と比較して印刷媒体からニュース情報を取る比率が高い。これを強みとして、新聞界が検索エンジンと戦うことができるーという解釈もできそうだ。

―無料新聞の流れ

 有料で買う新聞の体裁を維持しながらも、広告のみで経費を負担する日刊「無料新聞」(フリーニュースペーパー、あるいはフリーペーパー)がスウェーデンで創刊され、欧州から世界に広がっていったのは1990年代半ば以降だ。欧州の無料紙市場は創刊ラッシュ、バブル崩壊、安定化という過程を経て現在に至る。

 世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)の「世界新聞トレンド2012」によると、2011年、世界で約3600万部の日刊無料紙が発行されているという。

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(欧州無料紙市場の流れ:「ニュースペーパー・イノベーション」ピエット・バーカー氏提供)

―急激に拡大

 日刊無料紙「メトロ」がスウェーデン・ストックホルムで創刊されたのは1995年のこと。

 スウェーデン人のジャーナリスト、ペッレ・アンデションが「新聞は市民に討論の場を提供し、民主主義の核心につながる」という発想から、無料紙の発行を企画。投資会社キンネヴィークからの資金繰りで創刊を果たした。2000年からは同社傘下のメトロ・インターナショナル社(本社ルクセンブルク)が発行。12年にはキンネヴィーク社が投資規模を拡大させるために全株を取得し、現在に至る。

 メトロは欧州を中心にその発行範囲を拡大し、現在では欧州諸国のほかに北米、中南米、韓国、香港など世界23カ国・地域、150都市で840万部を配布する。1部を何人かが回し読みするため、1580万人を超える読者がいると同社は説明する。配布国の半分(11カ国)、配布部数の半分以上(471万部)が欧州だ。

 世界的金融危機の影響から08年には損失を出したものの、2011年には税引き後利益で2000万ユーロ(約24億5700万円)を達成した。近年は軸足を西欧諸国からロシアや中南米に移している。メトロとして発行していながら、所有者が変わった国もある(フィンランド、チェコ、ポルトガル、ギリシャ、ハンガリー、フランス、オランダ、デンマークなど)。

 スウェーデンのメトロに触発されて生まれた無料紙として、スペインでは「20 minutos(ミヌトス)」(「20分で読める」という意味、創刊1999年)、オランダでは「Sp!ts(スピッツ)」(同年)、英国では先のメトロとは別だが同名の「メトロ」(同年)などが先陣グループに入る。

 無料紙は駅構内のラックに積み上げられているか、入り口付近で配布員が乗客に手渡す形を取る。

 無料紙の発行は、

 ①大量の新聞を読み手に配布できる都市型交通機関

 ②これを利用する乗客=読み手

 ③毎日紙面を満たすほど集まる広告という3要素を持つ都市型ビジネスだ。

 ネットでニュースを読む人が増える中で、有料新聞の発行部数はどの欧州の国でも下降気味だが、駅内外で無料で配布される新聞はつい手にとってしまう人が多い。文章は簡素で、記事は短いものが中心となり、通常の新聞よりは読みやすいこともあって人気を博した。2007年ごろまで、欧州各国では無料紙の創刊ラッシュとなった。

 無料紙の市場参入に抵抗する国もあった。

 2002年、フランスでは出版労組員が無料紙の印刷を拒否したり、運送中の無料紙をセーヌ川や路上に投げ捨てる妨害行為が発生した。

 ドイツでは、1999年、ノルウェーのメディア大手シブステッドが無料紙「20ミヌーテン」をケルンで配布したが、大手新聞社数社が対抗する無料紙(アクセル・シュプリンガー社による「ケルン・エクストラ」、デュモン・シャウベルク社による「ケルナー・モルゲン」など)を発行した。2001年、負債を抱えたシブステッドが独市場から撤退すると、先の複数の無料紙は廃刊となった。

 オフィスビル、空港、航空機など一部で無料で配布される新聞はあるものの、ドイツには現在に至っても本格的な無料紙が発行されないままになっている。「新聞は買って読むもの」(ドイツ新聞発行者協会)という原則を貫いている。

 1990年代半ば以降はネットニュースの出現、拡大時期でもある。新聞社や放送局などのニュース・コンテンツの制作者側、そして新興検索エンジンなどが無料で読めるニュース・サイトを続々と設置した。無料新聞の拡大とともに、「ニュースとは無料で読めるもの」という概念が広まってしまったと筆者は見ている。

ー景気悪化、過剰供給から市場淘汰の波

 スウェーデン「メトロ」の創刊から18年経ち、ドイツを除く欧州各国では主要都市の駅前で複数の無料紙を配る配送員の姿が日常的な光景になった。

 無料紙の動向を記録するブログ「ニュースペーパー・イノベーション」によると、欧州での無料日刊紙の配布部数は12年末で約1600万部(27カ国、74紙)。日刊無料紙が国内で最多の発行部数あるいは最大の読者数を持つ新聞となっている国もある(スウェーデン、デンマーク、スイスなど)。2010年では、欧州の新聞発行・配布部数全体の15%を無料紙が占めた(同ブログ)。

 しかし、景気悪化による広告収入の減少や過剰供給による市場飽和などで、2006年以降、「無料紙バブル」は崩壊してゆく。英国の無料夕刊紙「ロンドンペーパー」(09年廃刊)、スペインの「ADN」(2011年廃刊)イタリア「City」(昨年廃刊)、オランダの「De Pers」(同)などが廃刊の憂き目にあった。

 06年、スペインの無料紙の部数は500万部に達し、有料紙も含めた日刊紙市場で50%以上を占めた(「ニュースペーパー・イノベーション」調べ)。36の無料紙が発行されていたが、12年、無料紙の部数は100万部(13紙)を切った。3大無料紙(メトロ、ADN、Que!)は廃刊となり、残る大手無料紙は「20ミヌトス」(67万部)のみだ。

 創刊ブームからバブルの崩壊まで栄枯盛衰はあったものの、無料紙が欧州新聞市場の一角を占めているのは事実だ。(「下」に続く。成熟した市場となった欧州・無料紙市場の今後と、「デジタル課金」と英国新聞市場を検証する。)
by polimediauk | 2013-05-24 17:42

ジャーナリズムの話いろいろ+欧州事情も


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