小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

日本のメディア界に欠けているもの

ネットは新聞を殺すかブログ http://kusanone.exblog.jp/でも紹介された、毎日新聞に掲載されたネットジャーナリズムに関する特集がおもしろい。

3回の特集のそれぞれにおもしろさがあるが、私が一番心に残ったのが、3回目で、韓国のオーマイニュースの代表の人が、韓国の状況について話した個所だった。

http://www.mainichi-msn.co.jp/it/net/news/20050614org00m300067000c.html

新聞業界、メディア界などがこれからどうなってゆくのか?テクノロジーの発展の観点から考えるのもいいだろうし、ビジネスとして考えるのもいいだろう。

しかし、推論のゲームとしては楽しいが、新聞を読む側、テレビで報道を見る側からすると、どうももっと切実で重要な問題があるのではないか、と時々思う。

それは、前にも似たようなことを書いたが、「必要な情報の欠如」と「国際問題に関する国民側のやや低い関心・切実感の欠如」が、テクノロジーの発展以前の問題として、存在しているような気がするのだ。

例えば後者だが、自分自身、日本に住んでいた頃は世界情勢に関して関心が低く、知識として知っていたとしても、どうにも切実感が少なかった。

例えばイギリスにいると、それはBBCのせいかもしれないし、あるいは過去の植民地化の歴史のためかもしれないし、または様々な人種の人が身の回りに住んでいるせいかもしれないが、例えばイラクのことにせよ、フランスのことにせよ、様々な国際問題などが、非常にリアルな感じがする。人々は常にイラクがどうした?EUがどうなる?アフリカの飢餓問題はどうするんだ?といったことに、それぞれ関心を抱いていて、情報がふんだんに提供されており、議論があったり、会話の話題になったりする。例えば、イラク人などに実際に会ったことがあったりなどする〔在英イラク人は約30万。)

日本の新聞を読んでいて、読むだけでは不思議とは思わなかったが、それを例えば仕事で英語に訳すなどの作業をしたときに、情報が足りないことが多々あって、かなりつけたさなければならないこともあった。

日本にたまに帰って、人と話すと、様々なことに関して、片側の、あるいは一部の情報しか提供されていないようなケースに度々遭遇した。また、逆に自分が国際関連のトピックに関して話し出すと、相手の情報や関心がかなり少ないか、低いことにも気づいた。

日本の新聞、雑誌での国際報道が少ない、と言っているわけではないのだが、国際報道に限らず、結果的には十分に情報が与えられていない国民ができているような気がしてならない。

テクノロジーでなく、会社の経営の仕方云々でもなく、何かが、欠けている。提供する側に問題があるのか、受け取る側の問題なのか?「言わぬが花」という部分を大切にする国民性も関連しているのかどうか?(もうこんな考え方は古いだろうが。)

繰り返しになるが、この情報格差(と私が感じる)の原因が、受信料は払うものの、ほとんど無料状態で国民が情報を享受できるBBCが日本に存在しないせいなのかどうか?

まだ答えは出ていないが、考え続けている。

非常に前置きが長くなったが、私がはっとした、韓国オーマイニュースの方のコメント部分は以下。(ご関心のある方は、是非全文をご覧ください。)

 オーマイニュースは韓国の特殊性にも基盤を置いているが、優先されるのはインターネットの特性だ。双方向性、空間が無限。自分が聞いたニュースを直接伝えたいというのは人間の基本的な欲望で日本人もアメリカ人も持っている。まず韓国で起きたが、プロレタリア革命がロシアで起きたように、歴史的にもっとも起きやすいところで起きたのだ。まず韓国で起きたが日米どこでも起こりうる。社会環境が違うから、(国により)若干モデルを変える必要はあるだろうが、オーマイニュースのモデルは既にスタートしている。

 重要なのは既存メディアが市民のニーズを満たしているか。韓国は満たしていなかったので、オーマイニュースのような代替メディアが出た。日本ではニーズをどのくらい満たしているか。もうひとつ、市民に準備ができているかも重要だ。オープンにしても参加がなければ意味がない。韓国は南北に分断され、戦争が起きたら自分の命にかかわる。(政治に)関心をもたざるをえない。日本の若者は政治に関心を持つ準備ができているかだ。

by polimediauk | 2005-06-17 22:03 | 新聞業界