グーグルの広告ビジネスをざっと見る(3) フェイスブック、ツイッターとの戦いの行方とその未来は?
利用度低い国・地域も
これからの広告市場とグーグルの位置づけを考えてみたい。
広告市場の今後を占うキーワードは、デジタル、モバイル、動画の3つとされている。
プライスウォーターハウスクーパースの予測によると、デジタル広告市場は12年の1002億ドルが17年には1854億ドルに拡大する。そのなかで検索連動広告がデジタル広告に占める割合は、12年の43%が17年には41%に低下するものの、首位を堅持するという。シェアの低下は、広告主の間でモバイルや動画への関心が高まるからだ。
一方、ディスプレー広告はいかに目立たせるかという悩ましい問題が深刻さを増し、デジタル広告内のシェアは12年の29%が17年には27%に減る。動画広告は12年に前年比33%増を記録し、シェアは3・8%だったが、17年には6・5%に拡大する。もう一つ急拡大するのがモバイル広告で、17年には270億ドルに達し、ネット広告全体の15%(12年は8・3%)を占めるようになる。
グーグルは全世界の検索エンジン市場で圧倒的な地位にあり、ネット広告分野でも同様の存在感を持つ。これを追いかけているのがフェイスブックだ。
eMarketerによると、米国内のデジタル広告売上高のうち、グーグルは40%以上を維持しトップを独走している。2位のヤフーが徐々に比率を下げる一方、フェイスブックはシェアを増大させている。もちろんその差は2015年で見ても、グーグルの44・0%に対して、フェイスブックは8・3%とまだまだ大きい。しかしモバイル広告にしぼると、フェイスブックのシェアは2ケタ台にあり、その差が縮まっている。
グーグルの広告ビジネスの課題をあげるとすれば、クリック単価の下落、パソコンからモバイルへのシフト、検索連動広告のネット広告内での比率低下などであろう。
また、世界各国・地域での市場開拓も課題の1つだ。昨年10月、英オックスフォード・インターネット・インスティテュートはウェブサイト分析の専門会社米アレクサ社と共同で、世界各国の人気サイト調査の結果を発表した。それによると、グーグルは50カ国で最も訪問者が多いサイトとなった。フェイスブック(36カ国で訪問者が最多)、ユーチューブが続く。ユーチューブはグーグル傘下にあるので、合わせればグーグルが飛びぬけたトップともいえる。
しかし、グーグルは世界各国でまんべんなく人気があるわけではない。強いのは欧州諸国の大部分、北米、オセアニア地域に限られる。フェイスブックは中東、アフリカ北部で首位に立つことが多い。中国では百度の人気が高い。2010年、グーグルは中国当局による検閲を嫌って市場から撤退している。日本や台湾ではグーグルよりヤフーの人気が高く、ロシアもヤンクスが首位にある。
フェイスブックとグーグル、ツイッターの戦い
デジタル広告市場を誰が将来牛耳るようになるかについて、米ネット界では議論が沸騰しているが、最強のグーグル、これに続くフェイスブックのどちらが勝つかを米調査会社フォレスター・リサーチのネイト・エリオットが論じている(米サイト、All Things Digital、13年8月21日付)。
フェイスブックで「いいね!」を押す、ツイッターでつぶやく、米電子商取引サイト、アマゾンでレビューを書き込むー世界中で、こういった行為に興じる人が世界中に存在するようになった。このようなソーシャルメディア上の活動は、利用者がある人(あるいは人々)、製品、モノについての好みや結びつきたいという思いの表れだ。
自分は何(あるいは誰)について親しみ(アフィニティー=affinity)を感じるのかという情報がネット上に蓄積される一方で、何かを探しているときの情報が検索エンジンによって収集されている。
エリオットによれば、後者、つまり検索エンジンは人がこれからやろうと思うこと、つまりある意図(インテンション=intension)についての情報を集めていることになる。人が何を欲しがっているのかが分かれば、何を売れるかも分かってくる。「意図についてのデータをターゲット広告に使い、売上げを上げているのがグーグル」だ。
ところが、「親しみの感情」を貨幣化することは簡単ではない。その証拠は、グーグルは12年で約500億ドルの売上げとなったが、フェイスブックが50億ドル程度だったことだ。
大きく差がついた1つの理由は、親しみの感情は普通、何かを購買・所有・消費した後で生じるためだとエリオットは説明する。「既に持っているものに対する感情」だからだ。意図についての情報ほどには、短期間の購買行動に結びつかない。親しみの感情をマーケティングに使うためには、ブランド価値を育むなど、中長期の戦略が適しているという。
エリオットは、グーグルとフェイスブックのどちらが利用者について集めた情報をマーケティングに使う競争で勝つかを分析し、グーグルに分配をあげている。
その理由は
(1)「グーグルが広い範囲のアフィニティー・データを収集している」から。グーグルが収集しているのは検索を通じての意図の情報だけではない。傘下のユーチューブには毎月8億人が訪れ、500万人近くがユーチューブで視聴した動画をGメールを使って友人たちと共有している。グーグルの検索表示画面には様々な項目についてのレビュー、ブログ、ツイートなどが出てくる。不人気と言われるグーグル・プラスだが、2億人を超える利用者が自分が気に入った情報を載せている。
(2)「データに意味を与える点で、グーグルはフェイスブックよりも優れている」。ある情報についてさまざまな文脈を示す情報をあわせて出すーこれは検索エンジンとしてのグーグルの得意とする点だ。グーグルが持つ、ネット広告の配信インフラ、ダブルクリックは過去15年間、検索エンジンの利用者に検索項目に合致した広告を表示してきた。広告主には結果を分析するツールを与え、グーグルが持つデータを活用もさせている。
(3)「グーグルはブランドのインパクトを構築する広告ツールを持っている」。ブランドを強くアピールできる媒体をグーグルは既に持っている。例えば、ユーチューブで見たい動画が始まる前に流れる広告は100万単位の視聴者に届く。これは通常のテレビ番組並みだ。グーグルと提携するウェブサイトやGメール、ユーチューブの画面の一部にリッチメディアの広告を出す「グーグル・ディスプレイ・ネットワーク」もフェイスブックの同様のサービスと比較すると優れている、とエリオットは書いている。
ツイッターはどこまで伸びる?
グーグル、フェイスブックと比較すれば規模が大きく異なるツイッターだが、米国の900の広告主を対象として調査したところ、その将来に大きな期待が寄せられていることが分かった(米サイト、Investing、12月13日)。
米RBC Capital MarketsとAd Ageの調査によると、インターネットのトレンドである「モバイルでの利用」、「テレビに投入されていた広告費がネットに向かっている」がツイッターの広告媒体としての潜在的可能性を高めているという。
900の広告主の中で、71%が既にマーケティング目的でツイッターを使っており、今後一年間に広告をだすことを考えているという広告主が81%だった。すでにマーケティング用にツイッターを使っている広告主の60%が14年はツイッターを使っての広告・マーケティング費用を増やすと答えている。
RBC Capital Marketsの分析を担当したマーク・メハーニーは、ツイッターの魅力として「テレビとの相乗効果」を挙げている。
日本でもテレビ視聴とツイッターを結びつける動きが活発化している。昨年12月10日、テレビの視聴率を記録するビデオリサーチ社は、今年6月から、テレビ番組に関連するつぶやきを番組ごとに集計し、視聴率とは異なる指標を作ることを発表した。
最後に
本稿では大手広告会社としてのグーグルに焦点を当てたが、広告業で足場を固めながら規模を拡大させる同社は、「検索エンジンの会社」という呼び名では似つかわしくないほどに日々成長を続けている。
めがね型コンピューター「グーグルグラス」で多くの人の度肝を抜いたかと思うと、新たにロボット事業を発表し、次々と新たな発明を形にしている。技術革新を行う、発明企業という捕らえ方が現在最もふさわしいかもしれない。広告の仕組みばかりか、社会を変えていく企業といえよう。
もしアキレス腱があるとすれば、「ソーシャル」だろうか。フェイスブックやツイッターはSNSとして大きく伸びた。情報が膨大になったからこそ、友人、知人のお勧めというフィルターを経た上での情報に価値が高まっている。巨大になりすぎたグーグルに人々が警戒感を持つようになれば、必ずしも安泰とはいえなくなるのではないか。
余談
私自身は、何もかにもがグーグルでできてしまう世界・・・というのはどうにも奇妙な感じがしてしまう。なんだか、息苦しい。グーグルをしのぐような企業は出てこないものなのだろうか?これだけネットインフラで大きな位置を占めるようになったグーグルは、公共組織化するべきではないのだろうか?
英誌「エコノミスト」のデータエディターで、ビッグデータについての本を書いた米国人記者ケネス・クキエ氏に、そんな疑問をぶつけてみたことがある。クキエ氏はグーグルが公共組織化するべきとは「全然思わない」。公権力は常に不正を働こうとするからだという。市場の力で動く民間企業のほうがよっぽど信頼できる、とー。公共放送BBCが提供する幅広い娯楽や報道番組を視聴でき、無料診療を原則とする国民健康保険サービスがある英国に住む自分は公共サービスの恩恵を日々享受しており、民間企業の限界を感じてしまうのだけれどもー。
みなさんは、どう思われるだろう?
(長い記事の拝読をありがとうございました。)
(日経広報研究所が出している「日経広報研究所報」 2014年2-3月号掲載分の筆者記事に補足。)