再度のロンドン・テロ
ロンドンで、21日の昼から午後にかけて、また爆破事件があった。
私がそのニュースを知ったのは午後1時20分頃。ロンドン市内のシンクタンク英王立国際研究所で、過激派イスラムに関する講演が予定されており、スピーカーとなる博士を囲むランチに出ていた。主催者の一人と話をしていたら、プレス担当の人が入ってきて、「話をさえぎって申し訳ないが、今三箇所で爆破があるという予告があった」と言った。〈実は既に爆破事件が起きていたが、その時は予告だけだと思っていた。〉一瞬、沈黙になった。「ちょっと失礼」といって、何人かが自宅に携帯で電話をかけだした。
午後1時半に講演会場に移る際にも、「予告だそうですけどね」という感じだった。実際に爆破があったことを知ったのは、テレビを見てからだった。
講演が終わったのは午後3時頃で、研究所に来るときには地下鉄ピカデリーサーカス駅を使っていたが、既に閉鎖されていた。出口に数人いる警察官が、困っている乗客にどのバスを使ったら目的地にいけるのかをアドバイスしていた。
私も少し歩いてバスに乗ったが、非常に混雑していた。英国のバスは基本的にエアコンが入っておらず、窓も少ししか開かないので、中が暑い。
警察の車がサイレンを鳴らして走り回り、警察官も数が多い。バスに乗っていると外の様子が良く見える。もし爆破が起きていたら、数百メートル先で誰か傷を負った人がいるかもしれないな、と思った。空気が非常にびりびりしているような感じだった。物騒な、一種異様な雰囲気があた。毎日のようにこういう状態が発生している国に生きている人は、一体どうなるのだろう、と思ったりした。
実際の講演はマーハ・アッザムという人の「過激派イスラム:脅威を定義する」というもの。アッザムさん〈女性〉はアルカイダのイデオロギーの研究などが専門の1つ。
前回のロンドンテロは英国で生まれ育ったイスラム教徒が実行犯とされているが、何故先進国に住む若者がこうしたテロを起こすのか?に関して、博士の分析は:
―西欧の一般大衆の目を引きたい
―一種のカルトになりつつある。受難者として注目される。
―アイデンティティーを探している若者性質が、イスラム教にアイデンティティーを感じる。
また、イスラム教過激派の一部が、テロで西欧に打撃を与える、何らかのインパクトを与えることに成功できることが分かり、道を見つけた、と感じていることを背景としてあげた。
質疑応答の最後のほうで、「英国で生まれ育ったイスラム教徒」という若い男性が、「英国政府が悪いからテロが起きた、と責めるつもりはないが、今回の事件をきっかけに、英国自身も何らかの意味で自分の行動を省みる、という議論があってもいいのではないか。どうしてこうした議論がでないと思うか?」と聞いた。
何故か、博士はこの点を明確にしなかった。
後でこの男性に声をかけてみると、「自分は普通のビジネスマン」だという。「今回のテロの後で、その原因を在英イスラム教徒のコミュニティーに見つけ出そうとする報道ばかり」であることに、不満だと言う。「ムスリムコミュニティーにもそれなりの反省点はあるが、一方で、英政府側が外交方針などをいったん考えなおす、何故こんなことになったのかに関して自分自身を振り返る、といったことをしてもいいのではないか。自分は英国のイラク攻撃をすごくいやだと思った」。
王立研究所は、2,3日前に、イラクなどの外交政策が今回のテロ攻撃に関連ある、とする報告書を出している。これは新聞各紙に大々的に報道された。この報告書に限らず、イラク戦争が今回のテロを起こしたとは言えないが、背景要因としてはあったという見方が強くなっている。「自分の都合の良い理由で中東の政府とつきあってきた歴代の英政府のダブル・スタンダード」を、ロンドン市長ケン・リビングストン氏が、今週のBBCの朝のラジオ番組で指摘している。
21日に起きたテロの情報だが、爆破未遂犯を捕まえることに警察当局は全力を集中させている。一部の地下鉄は動かないが、バスは全て運行する。