ロンドン・テロと「市民記者」-1
「メディアのターニングポイントだ」
(7月8日付けのガーディアン紙の1面。市民が撮った写真が使われている。)
七月七日のロンドンの同時爆破テロは、英国で本格的に「市民記者」が活躍する機会ともなった。
爆破事故が起きた地下鉄車両内から、カメラ付き携帯電話で画像を送ってきた人もいれば、七月二十一日に起きたテロ事件の実行犯二人が逮捕される様子をビデオで撮り、これを民放テレビ局が独占放映したケースもある。
しかし、問題も表面化している。例えば、今後何らかの事故があったときに、画像を撮ったり送ったりしているよりも、現場から逃げること、あるいは傷ついている人を助けることの方が大事ではないのか?また、何らかの怪我をして横たわっている人を写真に撮るとき、撮られたほうのプライバシー問題はどうなるのか?さらに、いつか必ず起きるだろう、「やらせ」の画像と本物の画像を、どうやって区別するのか?現在のところ、なんら決まった結論はなく、どんどん、人々は画像や情報を送り続け、既存メディアがこれを喜んで使っている、という状態だ。
英紙の報道、分析を見てみたい。
七月十一日付の「メディア・ガーディアン」は市民記者の特集をトップにした。BBCのニュース部門のディレクター、ヘレン・ボーデン氏は、市民がジャーナリストとして画像や情報を送ってきたテロ発生当日の様子を、「新しい世界」が開けた、と述べている。
ガーディアン紙は、「メディアの民主化」が現実となった、している。
ボーデン氏は「爆発が起きてから数分後には市民から画像が送られてきた。テロ発生から1時間で受け取った画像は50だった」。
午前中に起きた爆破テロの様子を伝える、市民が携帯から送ってきた現場の画像(車両内の様子、動画など)は、BBCの午後10時のメイン・ニュース枠で放映された。BBCオンラインのサイトでは、事故現場を通りかかった市民が撮った画像が掲載された。ボーデン氏は、事故などの際にBBCに画像や情報を送ることが自然な行為の1つとなってきている、という。
市民がこうして画像・情報を送ってくるという事態は、メディアにとって「良いことだと思う」。「メディアと視聴者との間に大きな信頼感があるのを示していると思う、かつてなかったほど、親密な関係になっている。BBCニュースのチームと視聴者とがさらに近い関係になった」。
BBCでは、通常から、オンラインサイトを通じて、市民からのニュース画像や写真を募集している。テロ発生当日には、平均3つの静止画像を含むメールが300通と、30の動画が、yourpic@bbc.co.ukのアドレスに送られてきたという。
バスの爆破事件が起きたのはロンドンのタビストック・スクエア近くだったが、無残な姿になったバスの姿の画像が送られてきたのは、爆破から45分後で、このときの画像は翌日のガーディアン紙とデイリー・メール紙の1面で使われた。携帯電話からの動画のいいくつかは、テレビ局が市民から受け取って20分後には放映される、という超スピードだった。
民放のITVニュースのエディター、ベン・レイナー氏は、視聴者から生々しいビデオ画像をテロ当日受け取り、中にはあまりにも鮮明に事故の様子が映っていたので、放映できないものもあったという。しかし、こうした動画を使うことで、迫力のある臨場感を与えることができた、という。「一般の人に関係のあるような事故の場合、こうした速報性のある画像がいきる」。
携帯から送られた画像と、目撃者からの情報を集めたネットサイトが立ち上げられ、既存メディアでは太刀打ちできないほどの迫力のある情報を出していた、とガーディアン紙は指摘している。
衛星放送スカイ・ニュースのエディター、ジョン・ライリー氏は、キングスクロス駅とラッセル・スクエア駅で起きた地下鉄爆破テロの様子を伝えたビデオ画像を昼の12時40分に受け取り、これを午後1時のニュース枠の中で放映したという。
「信憑性に問題はあったが、携帯電話はニュースの民主化に役立つと思う。通常、既存メディアの報道陣は、事件が起きてから現場に向かう。しかし、現場にいる市民から送られた画像は、今起きているニュースをリアルタイムで伝えることができる」。
あるベテランのBBCのジャーナリストは、自宅で午後10時のニュースを見ていた。市民が送ってきた映像が使われているのを見て、「メディアのターニングポイントだ」と感じたという。
世界中の1220万のブログをチェックするウエブサイト、テクノラティは、テロの発生日、ブログの書き込みが30%上昇した、と報告している。