小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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田中康夫氏会見 日本の戦争責任を問う新たな動きが


 新党「日本」代表の田中康夫氏の会見が、今日(7日)、東京・日比谷の外国特派員協会(FCCJ)であった。昼の12時からだったが、急いで駆けつけてきた、通信社の女性の話だと、この前に1つ都内で会見があり、長野知事としての話に終始していた、とのこと。

 これは外交問題をどうしても聞かなければならないと、周囲にいたほかのジャーナリストたちと話をしていたところ、田中氏が入ってきた。

 田中氏は今回立候補しないが、衆院選には新党から数名が立候補。氏は、長野県知事としては成功した人、ということだが、国政では何をしたいのか?「信じられる日本へ・新党日本」www.love-nippon.comという新たな政党を立ち上げている。日本の野党は、おおむね政策に現実感がないように(自民党支配が圧倒的であったため)認識してきたが、小さな規模の新しい政党であることから、どこまで「現実感」を与えながら政策提言をするのか?に興味が湧いた。

 昨日のライブドア堀江社長の場合もそうだったが、私自身、特に両者に思い入れがあるわけではない。ただ、両者ともにある程度年齢が若く、固定支持者も多い。日本が変るとすれば、こうした人たちが何を考え、これから何をしようとしているのか?が判断材料となるだろう。

 田中氏の会見内容は、80パーセントが長野県知事としての業績、改革方法を国政に適用したい、という彼自身の説明に加え、ジャーナリスト側が外交問題に関して聞いてゆく、という形となった。私個人の観察では、作家としてスタートした田中氏にとって、知事としての4年の経験が、一個人としても大きな収穫だったようであること〔従って、財政再建に関する発言内容にリアリティー、迫力がある〕、官僚主義打破以外の領域ではやや現状維持のような(つまり保守的な)考えをもっているようであること、外交〔他国とどうつきあうか〕や安全保障の分野では、昨日の堀江氏にもみられた、やや夢物語的な、理想論的な部分があるようであること、などが感じられた。

 しかし、さすが作家だと思ったのは、日本の論調の流れの変化を感じ取り、これを日本語の構造とからませて説明してくれた時だった。時代の雰囲気を真っ先に読み取る、感じ取る、分かるような人なのだろう。(この箇所は最後に出てくる。)

 さて、田中康夫氏は何を考えているのか?以下は今日の会見のスピーチからの抜粋である。

―新党日本を作ったのは、「信じられる日本」を取り戻すための政党を作ろうと思ったからだ。どこの既存政党の支持も受けない。
―勤勉な日本の人々が働いてきたおかげで、日本は物質的には豊かな国になった。しかしながら、小泉政権になった4年間で、170兆円も借金が増えた。これは、1時間で39億円の借金が増えたことになる。世界一の借金国になった.日本には目先の問題だけを解決しようとするポリティシャンばかりで、〔国家のことを考える〕ステーツマンが少ない。私は、集金のために生きることとは無縁の人々のための政治を、意識ある人のための政治を、知事としてやってきた。
-知事としては、大きな3つの目標があった。1つは財政の健全化で、2つ目は年金の再構築で、3つ目は、官僚主導の政治の打破だ。小泉首相が、郵政の民営化が通らなかったから、改革ができない、というのは不思議に思う。第一、郵政の民営化がないから借金が増えたのだろうか?小泉氏は、「郵政民営化で外交にもいい」とさえ言っている。
―自民党の、120のマニフェストの中で、年金に関する項目はない。小泉氏は、年金問題を時間をかけてやりたい、といった。そして、消費税は私の在任中はあげない、とも言った。じゃあ、次の首相の時にはあげるんですか、と聞いたら、次のことは次の首相が考える、といった。これでは、彼をステーツマンとは呼べない。
―現在の年金手帳には、入った日だけが書かれてある。若い人たちは、将来年金をもらえるのかどうか、不安だ。そこで、私は3つの年金を1つにする。国民年金は掛け金が大きいが、もらう額はほかの年金と同じなのだ。そして、スエーデンでやっている年金手帳を導入したい。これには、毎月の支払額が表記される。すると、最終的に、政府が資金援助する分をあわせて、どれくらいもらえるかが分かる。〔注:なかなかいいアイデアだとは思ったが、税金が高くて有名な北欧の国の話を例としてあげる度に、ドキッとしながら聞いた。税金はあげない、ということを、同時に言うので、計算上、一体どうなっているのか、心配になるのだ。〕
―増税はあるのか?ない。減税で経済は良くなり、増税では停滞する。アメリカの例もある。
―官僚は、増税すると、無駄なことにお金を遣う。民間企業は、サービスを提供し、その後でお金をもらうが、官僚は逆だ。サービスを提供する前に、予算の形でお金をもらう。
―長野知事になった時、財政破綻寸前だった。4年間で、累積赤字を547億円減少させた。4年連続、しかも、そもそも減らしたのは長野県のみ。〔この後、詳しく無駄の省き方を紹介。詳しくはホームページや他の新聞記事を参照していただきたいが、実は本人はここに一番力を入れていた。アイデアとしては素晴らしいのだが、小さな政党で実際に政策を実行に移すところまで行くのかどうか、一抹の不安も残るのだった・・・。〕


一問一答に移り、
「官僚で国会議員に立候補している人をどう思うか」
―官僚でも、個人/市民としての気持ちを持ちつづけているかどうかが重要。経験、男女、年齢、などの条件は関係ない。社会に対する態度が重要。

「小さな政党で、どうやって政策を実行していくのか?」
―永田町には数の論理がある。これに対して、長野県は質を高めるほうに力を入れた。自民党や民主党は百貨店のようなものだが、新党は路面にあるブティックのようなもの。パッション、ミッション〔使命〕、アクションだ。〔注―あまり答えになっていなかった。〕

「沖縄の米軍をどう思うか?イラクから自衛隊は撤退するべきか?」
―今まで、日本は米国の傘の下で、モラトリアム状態を続けてき。
―自分は、最初の湾岸戦争のときに、今は亡くなった作家の中上建二らとともに、戦争反対声明を出した。
―また、自分は「嫌米」という言葉を広めた人物でもある。親米でなく、反米でもなく、嫌米だ。例えば、だんなさんがぺちゃくちゃと音をたててご飯を食べているのを見た妻が、そんな食べ方はしないでといったら、夫が、「誰のお陰で食べられると思っているんだ」といわれ、嫌だなと思っても、離婚したりはしない、という感じだ。米国を認めているが、どこか違う、とも感じている。イコールパートナーとして、受容する。
-沖縄の基地は、偏りだ。自分は、専守防衛という考えを崩さない。台湾や中国との緊張関係があるから、沖縄にあれほどの基地があるのだと思う。日本はアジアのコーディネーターになるべきだ。

「自衛隊をどう考えるか?憲法9条は?日本は米国とイコールパートナーだとおっしゃったが、海外で日本をそんな風に見ているところは、ない。本当の意味でイコールパートナーにするべきだと思うか?」
―自衛隊に関しては、日本の戦争責任の言及に関して話したい。読売新聞の渡辺恒夫氏や石原都知事など、右といわれてきた人々が、保守論者たちが、危機感を持ちだしている。産経新聞でも、石原知事が、これまでとは違うトーンのことを言い出している。戦争の責任は誰にあるのか?というようなことを考え出している。
―日本には、「なんとなく」いう空気が存在してきた。しかし、今、イデオロギーや立場を超えて、危機感を持ちだしているということが、こうした人々の論調にあらわれている。日本の戦争責任は誰が負うべきか?ということに関しての危機感。新しい動き。
―日本の恒常平和を保つには、9条だが、今までのようなやり方ではなく、ソフトパワーでやっていく。「守る」というより、世界的に普遍的なものを伝えてゆく。9条の精神は遵守していくべきだ。〔注:残念ながら、もう少し詳しく聞きたいような部分だったが、時間切れとなった。やや分かりにくい抜粋になっているが・・。)
―移民は日本が開かれた社会になろうとする時に、必要。資源が無い国が、世界の商人としてやってきた。これで恩恵を受けてきたのだから、逆に移民を受け入れない理由が無い。
―日本語は、I think など必ず主語をつける英語とは違い、主語が無くても自分の考えが言える。責任の所在があいまいだ。「過ちは2度と繰り返さない」という時、誰がこの言葉に責任を持つのか?
―長野県では、内部及び外部資料に責任者のフルネームがある。日本の新聞では、名前がみよ字だけだ。例えば小泉首相など。ファイナンシャルタイムズなどをみると、フルネームだ。フルネームで仕事をすることが大事だ。

「勝つ見込みは?」
―25年間、作家としてやってきて、人々が自分をどんな風に見るのか、どういう顔の表情をして、どういう言葉を使って話しかけるか、などを観察してきた。これまで、何処に行けば私のいう事が潜在的に受け入れられるのか、分かる場所に書いてきた。今回の選挙は、これまでの選挙と比べても、高い反応があり、嬉しい戸惑いを感じている。民主主義を理想的なものと捕える人が、ネットをやっているだけでなく、実際に行動に移せば、支持が出ると思う。

―政治は、言葉で、人々を冷静に鼓舞するもの、社会を変えていくものだ。


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 後で、もらっていた、これまでのスピーチ集を読ませてもらうと、本当に、長野での4年間が、彼を変えたようであることが、分かる。非常に多くのことを体験し、見、人とのふれあいがあったようだ。やはり、何かしら、人に与えるものを持つ人であるように思える。(しかし、それでも、実際に何議席かとれたとして、その後、どうやって、小さな政党の政策を国政の場に反映させるのか・・・。長野県の知事というリーダーであればこそ、思い切った改革ができたが、小政党ではどうなるだろう?)
by polimediauk | 2005-09-07 16:06 | 政治とメディア