小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk
プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る

ロンドンテロと市民記者 3 お金を儲けた人


たまたまそこにいた・・・

 去る7月7日、ロンドンで爆破テロが起きたが、同月21日にも、死傷者は出なかったものの、同様の手口のテロがあった。後者のテロの実行犯とされる人物のうちの二人は、住んでいたアパートのバルコニーで警察に逮捕されたが、この時の様子を、マチュアのカメラマンが偶然にも捕らえ、後、ITVニュースで独占放映された。

 ロンドン・テロは、ちょうどアメリカの2001・9・11のように、英国で市民ジャーナリズムが本格化する1つの機会となったが、事件・事故が起きた時には、携帯で写メールをするよりも、傷ついている人を助ける、自分自身の身の安全の為に現場からの退去に専念するなど、他に集中するべきことがあるのではないか?という疑問の声が後にあがった。また、市民がとりこんだ映像やレポートを、そのまま既存メディアが「ただで使う」ことにも、これでいいのか?という問いも表明された。

 大部分の市民が無料で情報・映像をメディアに提供したものの、大金を手にした人もいる。それが、ITVニュースで放映された、テロの容疑者二人の逮捕の映像を提供した人物だった。この話を、8月8日付のガーディアン紙とインディペンデント紙が書いている。ガーディアンの方は写真を撮った人物に話を聞いた。

 
レンズの後ろにいたのは、バラの写真を撮って郵便葉書にし、これを近くのマーケットで売っていた、アマチュアの写真家ニック・ソフォクレウス(Nick Sophocleous)さんだった。

 ソフォクレウスさんは、その日、ロンドンの北ケンジントン地区にあるピーボディー・エステートと呼ばれる住宅地の一角にあるアパートに滞在していた。ガールフレンドがここに住んでいたからだ。このエステートの他のアパートに、まさか手配中の容疑者たちが住んでいたとは全く知らなかったという。

 「その日の朝もいつものように何をするでもなくすごしていたら、外出していたガールフレンドのハンナから電話があって、警察がエステートの周囲を取り囲んでいて、立ち入り禁止になっているのでアパートに戻れない、というんだ。そこで窓のところに行って外を覗いてみると、確かに警官がたくさんいた」

 警察が実行犯を捕らえようとしているという報道が継続的にあったので、ソフォクレウスさんは、本能的に何かが起きる、と感じたと言う。しかし、ビデオカメラを手にしてみると、バッテリーがなくなっていたことに気付き、いらいらしてしまう。充電器を見つけるために、あらゆる引出しをあけ、椅子やテーブルが転がるのも構わず、部屋中を探し回った。

 「急に外が静かになったんだよ。それで20分間だけ充電することにした。すごくいらいらしたね。世界中でも最高に劇的なことが外で起きそうになのに、充電器を見ていることしか出来ないんだから」

 「充電を終えて、カメラのスイッチを入れたとたん、二人の男(容疑者たち)が部屋の外に出てくるのが見えた。全くの偶然だった。必死に男たちの姿をカメラにおさめようとしたけど、頭部がどうしても画面からはみだしてしまう。自分を落ち着かせるのに懸命だった」

 逮捕のドラマが終わると、アパートから出ることができなかったので、BBCと(ITVニュースを作っている)ITN,そしてスカイ・ニュースにメールを送ったという。メールには、「段々すごいことになるテープがある」と書いたという。

 一番高い金額をオファーしたのはスカイ・ニュースだったが、ソフォクレウスさんはITNを選んだ。スカイ・ニュースはメディア王ルパート・マードック氏が所有しているが、マードック氏が大嫌いだからだ。ITNからは6万ポンド(約1200万円)もらうことになった。ITNは大衆紙のデイリーメールとこの資金を負担した。

 ITNは立ち入り禁止になっている場所ぎりぎりのところに小型トラックを止めた。アパートのドアを開け、監視をしている警察官がちょうど反対側に目をむけた瞬間に、外に出て、バルコニーに腹ばいになり、トラックがある方に体を進めたと言う。

 テープを持ったソフォクレウスさんはトラックに乗ってITNのスタジオに到着する。

「スタジオに入ると、本当の興奮状態が起きているような雰囲気があった。夕方のニュースの時間になって、スタジオ内は急に静かになった。放映が終わると、全員が拍手をしてくれた。あんまりみんなが誉めてくれるので、これ以上誉められたら、自分のエゴが巨大になりすぎて、外に出られなくなるんじゃないか、と心配になるぐらいだった」。


 
 

 

by polimediauk | 2005-09-14 17:13 | 英国事情