小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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イラク 現場の記者の声


状況はひどくなるばかり。解決策・・・いまのところ、なし

 バグダッドからみた国内の状況はどうなっているのか?

 9月17日の英時間朝7時から始まった、BBCラジオ4の看板ニュース番組「TODAY」が、イラクの内情を二人のジャーナリストから聞いている。両者ともにバグダッド在で報道を続けている。

 文章にすると雰囲気が伝わってこないが、後半、インディペンデント紙の特派員との一問一答になると、あまりにも状況が悪いので、トーンが段々暗くなってゆく。質問をするほうは、驚き、だんだん落胆してゆく。答えるほうも、やや間をおきながら言葉を発するようになり、「かなり絶望的な状況」であることを伝えている。

 以下はその内容:

 ニュース・プレゼンターのジョン・ハンフリーズ氏が聞く

ハンフリーズ:今週もイラクではたくさんの死傷者がでています。250人が亡くなったことになります。なくなったのはほとんどがシーア派でした。いよいよ、最も恐れていた「内戦」がイラクではじまったのでしょうか?安全保障問題の特派員ゴードン・コレラが報告します。

コレラ特派員:毎日様々な名前のもとで戦いが続いていますが、シーア派の住民による、スンニ派にたいする聖戦、というゴールはかわりません。少なくとも、(スンニ派の過激派「イラク聖戦アルカイダ組織」を率いる)ザルカウィ容疑者はそういっています。ザルカウィ氏は、アメリカのハリケーン・カトリーナに触れ、あのハリケーンで米軍がうまく機能できなかったのは、イラクで疲れ果てたから、と言っています。そして、イラク国民の大部分であるシーア派に対する全面的な戦いを開始する、としています。

先週から続いている惨事を見ていると、(イラク国民の間で)内戦が起きているともいえるでしょう。しかし、それは必ずしも正確ではないかもしれません。第一、ザルカウィ氏はヨルダン人であって、イラク国民ではありません。自爆テロを行う人々の多くも外国人です。しかし、目的は内戦を起こすことなのです。イラクを分裂させ、スンニ派をとりこむことです。イラクの反乱者たちの中で、ザルカウィ氏をはじめとする外国人は、数の上では10%ぐらいと見られています。残りの90%はイラク国民です。主にスンニ派で、米軍の駐留に抗議する人たちです。しかし、こうした人々の暴力の度合いは限られています。

ザルカウィ氏はスンニ派をとりこみたいと考えていますが、まだそうなってはいないようです。政治と暴力は密接に関連しています。ザルカウィ氏は交渉には応じません。しかし米政府やイラク政府が望んでいるのは、スンニ派の住民たちを暴力から切り離し、政治の場に組み込み、ザルカウィ氏を孤立化させることです。今後の新憲法草案への国民投票で政治的高まりを作ることができれば、反乱を抑えることができるのです。終わらせることができなくても。

しかし、政治が失敗すれば、ザルカウィ氏は宗派の違いによる偏狭さを表に出してコミュニティーを分断化し、暴動も激化し、本当に内戦になってしまいます。多くの内戦は国家をコントロールするための政治の戦いの果てに起きています。ザルカウィ氏のこれまでを見ていると、国民同士の対立はかなり激しいものになりそうです。

ハンフリーズ:さて、1978年からイラクを報道してきたのがインディペンデント紙のパトリック・コッコバーン記者です。現在はバグダッド特派員です。BBCの記者の分析はあたっていると思いますか?

コッコバーン:そう思います。状況は毎日悪くなっています。全面的な内戦とはまだいえないかもしれませんが、バグダッドの一部では、内戦と呼んでいい状態になっています。そう感じます。

ハンフリーズ:内戦の定義は、市民が他の市民と戦う状態ですね?

コッコバーン:そうです。戦う、というより、互いを殺しあっている、という意味ですが。バグダッドでは、特に西や南のバグダッドでは、暗殺だけでなく、シーア派住民が、住んでいる場所から追われたりなどといったことが起きており、スンニ派が固まって住む地域ではそういうことが起きています。

ハンフリーズ:民族浄化のようなことですか?それともこの言葉は強すぎますか?

コッコバーン:いいえ(強すぎるということはありません)、もし該当する地域に住んでいる人だったら、確かに民族浄化でしょう。自分の友達が殺されて、自分も出て行け、といわれるといった状況ですから。民族浄化、といっていいでしょう。大げさなことは言いたくはありませんが、これはほんの始まりだ、ということです。たくさんの死体がでてきていますし、多くの人が、生まれ育った土地から、追い出されています。

ハンフリーズ:現地に住んでいるということで、私たちより状況が分かっているでしょうけれど、状況は悪化している、ということでいいですね?それ以外にいいようがない、と。

コッコバーン:はい、残念ながら、亀裂は深くなっています。他の勢力も活動しています、最も影響力があるシーア派最高権威アリ・シスタニ師が、宗派の違いによる争いを止めるような発言をしています。例えば、「もしシーア派の人口の半分が殺されたとしても、復讐をしてはいけない」といっています。こういうことを言うのは重要です。しかし、バランスは日を追うごとに変わっています。

ハンフリーズ: 政治的盛り上がりがあれば、状況は変わるんですよね?BBC特派員が言っていたように?

コッコバーン:変わればいい、とみんなが望んでいます。もうすぐ、10月15日に、新憲法草案の国民投票があります。もしこれが承諾されれば、国内に約500万人のスンニ派アラブ住民を怒らせることになります。もし承認されなければ、クルド人やシーア派住民が怒ります。従って、この国民投票で国全体が一つにまとまることはない。国家的な和解が達成されるようなことも入っていませんし。

ハンフリーズ:つまり、新憲法には、両グループを統一させるようなことが書いていないわけですか?そうおっしゃっているんですか?

コッコバーン:憲法自体には、そういうものはありません。スンニ派のアラブ人たちは、憲法の中の連邦制の概念に反対しています。スンニ派は投票しないかもしれない、投票すること自体が憲法を認めたことになるから、など言う人もいますし。でも、これもどうなるか不透明です。全体的に、市民に話を聞き、また政治家などに話を聞いても、この憲法が何をもたらすかに関し、うんざり感があるようです。

ハンフリーズ:気がめいるような質問ですが、何ができるんでしょうか?できることはあるんでしょうか?解決策はあるのでしょうか?

コッコバーン:今のところ、完全な解決策、というものはありません。人々ができる最善の道は、これ以上事態が悪化しないようにすることです。これ以上地上で起きるひどい自爆テロをなくすこと、仕事がのどから手が出るほど欲しい日雇いの人がやっているのが自爆テロです。政府も、今朝、南西バクダッドで、200-300メートルおきにチェックポイントを作るなどやっていますが、自爆テロ犯をとめるのは、非常にむずかしい。

ハンフリーズ:ということは、かなり悲観的な意見を持っているということですね?

コッコバーン:残念ながら、かなり悲観的です。悲観的になりたくないのですが。死体の数を毎日見ていますし、その数が増えているのですから。


http://www.bbc.co.uk/radio4/today/listenagain/ の9月17日分より (7時33分から始まるクリップ。若干言葉の補足、省略あり。)

 なお、参考として、時事通信の記事を。

 英、イラク駐留軍削減計画棚上げ=内戦突入を懸念-日曜紙

 【ロンドン18日時事】18日付の英日曜紙サンデー・テレグラフは、イラクが全面的な内戦状態に入るのではないかとの懸念の高まりを受け、英軍がイラク駐留兵力を来年、大幅に削減する計画の棚上げを決めたと報じた。
 英軍はイラク情勢をにらみながら、状況が許せば、治安維持任務をイラク側に段階的に移管し、約8000人の駐留部隊を3000人程度まで削減する計画の策定を内部で進めていた。 
(時事通信) - 9月18日9時0分更新
by polimediauk | 2005-09-18 20:46 | イラク