小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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「新聞の新たな挑戦」-メディア・イベント2



「特ダネはまずネットで」: シカゴ・トリビューン

 以下は、昨日に引き続き、読売新聞が主催した「メディア・フォーラム:新聞の新たな挑戦」というイベントからの抜粋(9月28日開催。10月10日に読売紙上で全体の記事掲載。)

 読売新聞社長滝鼻卓雄氏がコーディネーターで、これに英タイムズ紙の編集長ロバート・トムソン氏、米ワシントン・ポスト紙発行人ボー・ジョーンズ氏、米シカゴ・トリビューン紙編集局長ジェームズ・オーシア氏、及び第2部では電通総研社長の藤原治氏がパネリストとして、それぞれの状況を報告。以下、一部の抜粋。

 (米英軍などの軍隊に、ジャーナリストが「埋め込み」型でついていく、というイラク戦争でとられた方式をどう見るか?)
 オーシア氏(シカゴ・トリビューン):これ以前には何もなかったので、埋め込み型・従軍記者というやり方はいいと思う。つまり、ジャーナリストが(都合のよいところも悪いところも)すべて見せてもらえるならば。しかし、これ以外の報道も組み合わせる必要がある。

 今回、イラクはものすごく危険で、埋め込みという形でないと殺される可能性もあった。

(信頼性に関してどう思うか。)
 ジョーンズ氏(ワシントンポスト):編集長にまかせることだ。良い編集長を選ぶのが、経営者の仕事であり、責任だ。

 トムソン氏(タイムズ):編集長がよい例を作るべきだ。タイムズでも訂正記事がたくさん出る。社内のレポーターたちが私のところに来て、何故間違いをしたかを説明したり、書かれたメモを読む。全部にじっくり目を通すわけではないが、働く側にとっても、目が行き届いているという印象を与えることができる。最近、フィードバック専用の編集者のポストを作ったので、もっと訂正記事が出てくるかもしれない。

 正確さ、透明性、正直であることが、タイムズのユニークなセールス・ポイントだと思っている。

(日本では、いったん1つの新聞社に勤めると、他の新聞社に行く、ということはないが。)
 ジョーンズ氏(ワシントンポスト): ワシントンポストの場合、一度勤めたら、ずっとポストで勤務する。外からは人をとらない。既に内部に才能がある人がいるので、外を見る必要がない、と考えている。

 トムソン氏(タイムズ):ロンドンの新聞紙上は非常に競争が激しく、新聞を行ったりきたりする。タイムズからインディペンデントなど。日本は企業のアイデンティティーの問題から、こうしたことが起きにくいのだと思う。

(苦情処理はどうしているのか?)
 トムソン氏(タイムズ): 毎日、何百通もの問い合わせがある。手紙よりもメールでの苦情・問い合わせが増えている。記者も間違った時は自らが申告する。

 オーシア氏(シカゴトリビューン): 編集長が苦情処理を調べ、訂正を出すかどうかを決める。チェックのためだけに新聞を読む人もいる。四半期ごとにこうした結果を報告書にまとめている。エラーがあれば、認め、訂正記事をだす。これでみんなが正直に仕事ができる。

 ジョーンズ氏(ワシントンポスト): 社内に苦情処理システムがあり、訂正記事は2ページ目に載せている。

 滝鼻氏(読売):4月から読者センターに苦情処理や問い合わせ専用の50名をおいている。これまでは、販売や編集、広告など、それぞれの部門がばらばらにやっていた。これを一つにまとめた。この結果、昨年は1日200件の苦情などがあったが、今は2000件に。ストレス高くなったと思う。

(ネットと紙の新聞、信頼性の違いは?)

 オーシア氏(トリビューン):ネットと紙のニュース報道の信頼性は、シカゴトリビューンでは同じ。紙を作る人がネットの記事を書いている。

 レポーターたちは、記事を書いた後、なるべく早くネットに載せたがる。特ダネは、まずネットで出す。朝まで待たない。かつては朝まで待っていた。しかし、ライバル紙がそのネタを報道するかもしれない。今は秘密というものは、もはや存在しない。ライバル紙がやらなければ、テレビがやる。しかし、どこよりも早く記事を出した後で、間違いだった、とはしたくない、と思う。

(特ダネ記事が、先にネットに流れていいのか?記者はどう思っているのか?あなた自身も数々の特ダネを出してきた記者として、どう思うか。)
 オーシア氏(トリビューン): 選択肢は他にない。

 読者が今まで聞いたことのない話を出す、という部分と、誰も知らなかったことを分析して書くこと、これがスクープだ。例えば死刑に関してのトリビューンの記事で、人々の考え方を変えた。読者があなたの仕事振りを評価してくれるのは、あなたがスマートで、情報を持ってくるからだ。

(どうやって若者を新聞に誘い込むのか?)
 オーシア氏(トリビューン):(前にも言ったが)レッドアイにボックスを作り、もっとこの記事に関して読みたければ、シカゴ・トリビューンを読むことを薦めているコーナーを設けている。また、日曜版は非常に厚い紙面構成になっているが、若者がこれを嫌っていることが分かった、と。小さいアパートに住むから、などの理由があった。

 しかし、本当の意味でどうやってとりこむか?は数年かかると思う。しかし、何もしないよりは、いい、と。

(短い通勤時間の中で、どれくらい読んでいるのか?)
 トムソン氏(タイムズ):フリーペーパーのメトロを私は3分半で読む、しかし、一般的には20-25分。通勤客は15-30分だ。

 ジョーンズ氏(ポスト):無料のエキスプレスは15-20分。ワシントンポストは30分。良いナビゲーションが必要だ。

 オーシア紙(トリビューン): レッドアイは15-30分だと思う。

 トムソン氏(タイムズ):ネットは開発途中だと思う。AOLやヤフーは、昔、ニュースを様々なところから集めた。今は質の高いプロバイダーになろうとしている。人々はいろいろなとこからニュースを集めることができると分かった。

 ヤフーは自分たちでジャーナリストを雇い、ニュースコンテンツを自分たち自身で作ることにしている。他メディアからひっぱって来たコンテンツは、弱いことが分かったのだと思う。

 滝鼻紙(読売):: 読売は、ヤフーに出しているが、損をしてない。ヤフーを検索して、その後読売のニュースに飛び、これで本紙をとる人が結構いる。接触することが購読につながっている。

(読売の若者戦略。値引き戦略は?)
 滝鼻氏(読売): 若者は携帯電話料金に月1万円ほどを使っている。新聞は毎月3900円だ。学生割引をして安くしても、果たして飛躍的に購読者数が増えるかどうか?新聞社が発信するニュースに近づいてきて欲しい。
―――抜粋終わりーー

 英国で新聞読者として住んでみると、これでもか、というぐらいの販売促進策を経験する。例えば、定期購読にすると、1部を毎朝購入するよりも安いのは予測できるととしても、週末にはCD,DVDなどがついてくるのは珍しくない。話題になるような人物が自伝やそのほかの書籍を出すとき、いずれかの大手新聞で先に抜粋を連載し、読みたい人は若干のディスカウントで本を買えるようにする、という手もよく使われている。日本の全国紙・朝刊紙に当たる新聞(タイムズなど)は、一部約100円から130円ほど。週末及び(金曜日で終わる)ファイナンシャルタイムズなどは、一部200円以上になるが。

 新聞紙上では、「紙の有力新聞の存亡の危機」が、頻繁に語られている。毎月の新聞発行部数もよく報道され、前月より上がったか下がったか、編集長はちゃんと仕事をしているのかどうか、など、が常に批判の目にさらされる。

 発行部数減少を止めるための苦肉の策として、インディぺデントとタイムズが小型タブロイド版になり(混雑する通勤電車の中でも読みやすい、手に持ちやすい、といった、単純な理由が大きいが、そんなことでも、部数が急増し、大型判のガーディアンは部数が落ちっぱなしだったことを考えると、とにかく、「何かやったほうが勝ち」だ)、ガーディアンも9月にはベルリナー判に。残るデイリーテレグラフは暗中模索中だが、大胆な紙面改革をしようにも、お金がない、と言われている。




 
by polimediauk | 2005-10-03 11:03 | 新聞業界