小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

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EU外相らが、トルコのEU加盟交渉協議で合意


イスラム教徒の大国を仲間に入れるか、どうか

 EUとトルコといっても、日本からするとそれほど身近に感じられない話題かもしれないが、イスラム教徒ではない人々(多くの欧州に住む人々や日本人の多くも含め)がイスラム教徒の人たちとどう付き合ってゆくべきなのか、を考えるとき、様々な示唆に富む。世俗分離はしているとはいえ、国民の90%以上がイスラム教徒であるトルコを、キリスト教世界と同一視される欧州が、どう扱うのか?異なる価値観や文化に対して、寛容であるかのようなイメージを与えてきた欧州だが、こと「イスラム教」となると、また違った反応を示すようだ。すると自分自身にも、思わず問わざるを得なくなる。果たして、自分は、どこまで異質なものを受け入れられるのか?トルコ受け入れに難儀するEUを笑うのは簡単だが、果たして、どうなのか?また、国土の大部分がアジアにあるトルコが入った欧州は、果たして、欧州と呼べるのか?

 BBCを中心とした英メディア報道によると、http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/4305500.stm
緊急外相理事会のためにルクセンブルグに集まったEU外相らは、4日、トルコがEUに加盟するための交渉手続きや条件を示した枠組み文書の内容について合意に達したという(日本時間の夜中の零時ごろ)。オーストリアは、EUが正規の加盟国になるための交渉ではなく、「特権的パートナーシップ国」(準加盟国)になるための交渉にしてはどうか、と主張していた。しかし、白熱した議論の後、オーストリアはこの案を取り下げたようだ。

 加盟交渉協議に関する枠組み書類はトルコ政府に届けられ、トルコ側がこれを受け入れるかどうかを待っているところだ、という。

 オーストリアの言うような「特別なパートナーシップのある国」は、正式加盟国よりは一段低いステータスとなる。トルコ側は、あくまでも正式加盟のための交渉開始だと主張してきた。

 トルコ政府が4日の枠組み書を受諾すれば、加盟交渉が来週から本格的に始まることになる。時事通信と共同通信によると、EUは、昨年12月にトルコとの交渉開始で合意したが、トルコは昨年5月にEU加盟を果たしたキプロスの承認を拒否し続ける姿勢を示し、これにEU諸国の一部が反発。EUの欧州議会がトルコにオスマン帝国末期の1915年から17年にかけて起きたアルメニア人虐殺の事実を認めるべきだとする決議を採択していた

 オーストリアは準備されていた加盟交渉開始の枠組み書類の書きかえを求めてきた。オーストリアが強硬姿勢をとっているのは、国民がEUの拡大に関して懐疑的であること、トルコの加盟に関して、大衆紙が否定的な記事を出して続けてきたこと、現トルコ政府が孤立していること、外国人嫌いとイスラム教徒嫌いが国内に存在していること、それにオスマン帝国に支配された過去を持つからだ。

 当初の加盟交渉の枠組み書類では、協議の最終的目的はトルコが正式加盟国になることだ、としていた。オーストリアはこれに反対し、「優先的パートナーシップ」の地位を提唱していた。

 オーストリアだけでなく、欧州のほかの国でも、トルコのEU加盟に対する深い反対の声が国民の中に存在している。理由は人口7000万を超える大きな国家であること、貧困度の高さ、国民の大多数がイスラム教徒であることなど。

 もし加盟交渉が開始されると、加盟までには10年ほどかかると見られている。

 今年5月から6月に発表された、ユーロバロメター調査によると、トルコのEU加盟に賛成する国民の割合は、多い順からハンガリー、英国、ポルトガル、スペイン、EU平均、ギリシャ、ドイツ、フランス、キプロス、オーストリアとなっている。
by polimediauk | 2005-10-04 01:21 | 欧州のメディア