オランダ ゴッホ事件を追う 「移民」の側面から-4
溝は深まるばかりか?

(テオ・ファン・ゴッホ監督を殺害したムハンマド・ブイエリ。BBCオンライン・AP)
七月、アムステルダムでテオ・ファン・ゴッホ監督殺害事件のムハンマド・ブイエリ被告(当時)の公判が開かれた。コーランを片手に法廷に現れたブイエリ氏は「イスラム教の名の下で」殺害を犯した、と述べた。「もし釈放されることがあったら、全く同様のことをするだろう」と発言し、傍聴席にいた市民を震撼させたという。(後、終身刑となる。)
ブイエリ氏はイスラム過激派組織ホフスタッドのリーダー的存在と言われている。オランダ警察当局は、同月中旬、このグループの捜査の過程で十七歳の少年がアムステルダムの自宅で爆弾を所持していたことを発見し、逮捕した。
少年はオランダ人と英国人との両親を持ち非西欧系の移民ではなかったが、十四歳でイスラム教徒になっていた。ロンドンの同時爆破テロの実行犯グループが自国で生まれ育ったイスラム教徒だったことで、オランダでも「不審な隣人」であるイスラム教徒が同様のテロを起こすのではとする懸念が強まる中、不安感がさらに増大する展開となった。
ワシントンに本拠を置く米シンクタンク「ピュー・リサーチ・センター」がロンドンでのテロ勃発から丁度一週間後に、イスラム教過激派に関する世界の十七カ国の人々の意識調査を発表している。五十一%のオランダ人がイスラム教に対して否定的な感情を持っていると答え、十七か国中のトップとなった。一方、調査に参加した欧米諸国の中で最も数値が低かったのが十四%の英国だった。
六月、拡大欧州連合(EU)の基本条約となるEU憲法をオランダは国民投票で否決した。EUの前身である欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の創設以来の加盟国オランダがEU憲法を否決した理由には拡大が旧東欧からの単純労働者を流失を招くのではという懸念やイスラム教徒が九十%以上で十月からEU加盟交渉が始まるトルコに対する忌避感があるといわれた。
ロンドンのテロ事件に関連して英BBCの番組「ニューズナイト」に出演した「服従」のファン・デ・ウエステラーケン氏は、イスラム教徒の移民と先住オランダ人との間の溝は「深まる一方だ」と答えている。
「移住と民族研究所」のファン・ヒールサム博士は、「その時代によって評判が悪い移民は必ずいる。スリナム共和国からの移民が『怠け者』だとして低く見られていたこともあった。今はイスラム教徒がターゲットになっているが、これも変わる可能性もある」としている。
(続く:次回はウエステラーケン氏のインタビュー)