小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

米新聞関係者にインタビュー 読売オンライン  + 英論調の懸念ごと

 知っている人は知っているとは思うが、今、読売オンラインで、「米国メディア事情」という特集記事が掲載されている。

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20050928nt01.htm

 米新聞業界の概観と、ニューヨーク・タイムズのウェブサイトのレオナルド・アプカー編集長や米国新聞協会のジョン・キンボル事務局次長などにインタビューしている。内容は、メディアの将来に興味のある人にとっては、非常に参考になる。直接見ていただきたいが、個人的におもしろいと思ったのは、記事(文字)だけでなく、インタビューのビデオクリップが入っている点だ。字幕付き。これこそウエブができることの1つ、と思った。NYタイムズ、米新聞協会などの考え、インタビューした人の言葉をそのままで伝えている。

 以前から、ある事件、出来事に遭遇したとき、あるいは誰かを取材したとき、これをそのまま、丸ごと、その場にいない人に伝えることはできないものか、と考えていた。テレビカメラ、あるいはビデオカメラで現場で撮って、それを流せばいい、ということに究極的にはなるのだろうし、実際、テレビ局に働いている方はそれを実行しているのだが、私が考えていたのは、言葉はかたいが、情報の(さらなる)民主化、ということだった。

 自分が何かの情報を得たとき、それを、できるだけ生の形で出すことで、多くの人の間で、共有できないものか?と。そうすると、自分の情報が(大げさに言うと)社会の情報になってゆくのでは、と。・・・こういうことは、既に既存の雑誌、新聞、テレビなどがまさにやっているのだろうし、これをブログやネットニュースなどでもやっているのだろうが。

 「米国メディア事情」のビデオクリップを見ていたら、まるで自分がそこにいて、取材をしているような感じがした。行ったこともないのに、NYタイムズのオフィスにいるような。臨場感が楽しい。

 別件で、雑感だが、11日の英時間昼ごろ(日本時間午後8時ごろ)から、ブレア英首相の毎月の定例会見が英首相官邸で開かれる。内外のジャーナリストからの質問を受けるために、毎月1時間強の時間を割いている。おそらく、イラクからの撤退問題に関しての質問が出る。「イラク政府が英国を必要としている限り、イラクに英軍をおく」と言って逃げ切る可能性は高いような気がするが・・・。

 もう1つ、気になっているのが、イスラム教徒の国民に対する英メディアの論調の移り変わりだ。

 一ヵ月半ほど英国を離れているが、日本に来る直前から、論調が変な風に進んでいるなあとやや感じていた。

 例えばだが、BBCの看板ドキュメンタリー番組「「パノラマ」が、穏健派といわれる英ムスリム協会の指導者の徹底批判を中心にした番組を、8月、放映した。いつもはバランスのとれた、優れたドキュメンタリーを作る枠として、高い評価を受けており、私もいつも感嘆して見ていたが、この回に関しては、偏っているように見えた。実際、ムスリム協会の指導者の「指導力不足」のおかげで、若いイスラム教徒の青年たちがロンドン・テロを起こした、という声は少なからずあったと思う。指導力不足が理由なのかどうかに関して、様々な意見があるものの、こうした番組の主張が正しいか、正しくないかは、いったん置いておくとしても、一視聴者としてみていたときに、いつもは冷静なナレーター(プレゼンター)のジョン・ウエア氏が、かなり感情的になっている様子であることに、いささかショックを受けた。(ムスリム協会はBBCに抗議をし、BBCはこれを受けて調査を開始。「偏向していない」とする報告書をかプレスリリースかを出した。BBCは、こうした時に、トピックがセンシティブであればあるほど、「偏向していない」とする傾向が強い。悪しき傾向だ。EU報道など、プライドがそれほど傷つかないトピックの場合は、「偏向している」とBBCの経営委員会経由で報告書を発表する時もある。いずれにせよ、額面どおりには決して受け取らない基本スタンスが必要だ。)

 つまり、英社会全体に、イスラム教徒に対する否定的な見方が(大手メディアの中にも)強くなってきているのではないか?

 英社会は「・・・こうだ」と、一つの見解にまとめられるほど単一化はしていないとは思うが、メディアがどう報道するか?を注意してみていないと、社会全体がある種のムードで一杯になり、それが「事実」とほぼ同義語になる可能性も出てくる。

  中旬ごろ戻る予定だが、イスラム教徒に対する論調の変化(もしあれば)を注視したいと思っている。

 

 

 

 
by polimediauk | 2005-10-11 10:55 | 新聞業界