イラク フセイン元大統領は死刑にすべきか? BBC
「みんながこの男の死を望んでいる」の意味
イラクのフセイン元大統領に対する裁判の初公判が19日、イラクの首都バグダッドで開かれることになるが、有罪の場合、判決後30日以内に死刑になる可能性もある。死刑を妥当と見るかどうか、英BBCオンラインが識者と読者に意見を聞いた。
多くのイラク人は国民に大きな苦しみをもたらしたフセイン元大統領が、なるべく早く死刑になるべきだ、と思っているとBBCは指摘しながらも、一方では、死刑となった場合、一種の復讐と見なされ、新法治国家としてのイラクに国際社会が疑念を持つ可能性も出てくる、としている。
イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)のバハ・アルワキル氏は、「もし有罪になったら、早急に死刑にするべき」派。今回の裁判では、1982年、バグダッド北方のドウジェイル村で起きたイスラム教シーア派住民の虐殺事件で起訴されているが、もし全ての犯罪の裁判結果を待っていたら、この先「永遠に待つ」ことになるからだ。
「これまでに、元大統領の独裁政権下で、何百万人もの人々が犠牲になってきた。イラク国内で、家を焼かれたり、家族の誰かを処刑されたり、戦争で命を落としたり、身元不明になっていない家庭などないくらいだ。この暴君を殺すことで、正義が行われた、ということを国民に見せる必要があると思う。『新しいイラク』を作ろうとするなら、35年間もの間残忍な行為や犯罪を犯してきた男とその仲間たちが罪を負わずに済む様にできるわけがない」。
また、氏は、いまだに、フセイン元大統領を怖がっているイラク国民も多く、こうした人たちのためにも、死刑にすることが重要だ、と述べている。
毎日のように自爆テロや武装集団が引き起こす暴力事件で人々が亡くなっている中で、「フセイン元大統領が亡くなったからと言って暴力事件が一度に止まるとは思わないが、裁判が長引けば長引くほど、暴力事件は増える一方になると思う」。
一方、人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」の国際法担当のリチャード・ディッカー氏は、正義が実行されるためには、「例え被告がいかに残忍な犯罪に関わっていたとしても、弁護団は被告が無罪であることを証明するために活発な弁護を行うことに力を注ぐべき」とする。もしこれが正しく行われないと、国民の復讐心は満足させることはできるかもしれないが、裁判は政治ショー化してしまう。
死刑は、「人間の、生に対する権利を侵害する、残酷で非人間的な罰則だ。どれほどフセイン元大統領に憎しみを持っていても、だからといって死刑にしてしまう、というのでは、法治国家以前の古代の風習に戻ってしまう」。
有罪となっても、元大統領は控訴する権利を持つべきだし、もしこの権利が保障されないと、「イラクは何も変わっていない」と思われるだろう、と述べた。
BBCオンラインに寄せられた読者の意見の中から拾ってみると、
「イラク人がどうするかを決めるべきだ。私達西欧人が死刑を非人間的な行為だと見なしても、イラク人はまた別に考える可能性もある。西欧式の考えをイラク国民に押し付けてはいけない」(ドイツ)
「どんな人間も死刑になってはいけない。どんな宗教を信じていても、人間には一旦死んだ人を生き返らせる力を持っていないのだから、命を奪ってはいけない」(英国)
「問題は、裁判が合法でフェアかどうかだ。外国に駐屯している占領軍が、裁判を行えるなんて、一体どうしたことだろう。誰が米国にこんな権利を与えたんだ?米国はまずイラクを去り、イラク人に全権を返すべきだ。かつての独裁者をどうしたいのか、イラク国民に決めさせるべきだ。イラク国内の裁判所で有罪で死刑と結論づけたのならば、死刑が妥当だ。21世紀、国家の元首が犯罪を起こし、逃げ切ることはできないことを世界に示すことができる」(サウジアラビア)
「まだ裁判が始まっておらず、冒頭陳述も、弁護も聞いていないのに、死刑にするべきかどうかを問うなんて、本気なのか?」(英国)
「イラン人の私としては、イラクの法律に従って、フセイン元大統領を裁いて欲しい。しかし、英国、米国、サウジアラビアなど、この悪い男をイラン・イラク戦争の間に支援した欧米や中東諸国の政府も同時に裁かれなければ、真実が明るみに出ないと思う」(カナダ)
「みんながこの男の死を望んでいると思う。正義のためじゃない。後で本でも執筆して、いったい誰が最初に自分を助けてくれたのかを明らかにしたら、困るからだ。フセイン元大統領の手を染めている血は、米国、英国、そのほか、1960年代後半からこの政権を支援してきた多くの西欧の政府の手にもある」(タイ)
「クルド人としては、フセイン元大統領が国民に何をしたか知っている。元大統領は、信条や宗教に関係なく、たくさんの人々を殺してきた。どんな暴君でも正義の名の下に裁かれるべきだ。しかし、私は、フセイン元大統領は生き続けるべきだと思う。見つかったときのような小さなねずみの穴のようなところに入れておき、過去30年間苦しめてきた国民が平和に暮らしている様子を目撃するべきだと思うからだ」(英国)。
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今回の特別法廷の仕組み、問題点などを詳細に調べた報告書を、王立国際問題研究所が出している。(アドレスは以下。非営利利用は無料。保存しようとすると新しいアクロバットを買うようにメッセージが出る場合があるので、印刷するだけがいいかもしれない。)
http://www.chathamhouse.org.uk/pdf/research/il/BPtrialhussein.pdf
BBCの、公判に関する簡易な説明は
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/middle_east/3850989.stm――
時事通信のニュースが詳しかったので貼り付ける。
2005/10/18-22:46
フセイン元大統領を告発=大量虐殺や化学兵器使用で-イラン
【テヘラン18日AFP=時事】イラン政府は18日、イラクで19日にサダム・フセイン元大統領に対する裁判の初公判が開かれるのを前に、イランとしての告訴状をイラク政府に送ったと発表した。罪状にはイラン国民に対する大量虐殺や化学兵器の使用が含まれている。
カリミラド法相は、告訴状について「原告はイラン国民全員だ。(フセイン元大統領の)犯罪はイランの全家庭に影響を与えた」と強調した。フセイン元大統領がイランの油田を狙った1980~88年のイラン・イラク戦争では、毒ガスなどの使用で多数のイラン人が殺害された。(了)
2005/10/18-16:01
独裁者を断罪へ=フセイン元大統領、19日に初公判-イラク特別法廷
【カイロ18日時事】サダム・フセイン元イラク大統領に対する裁判の初公判が19日、首都バグダッドの特別法廷で行われる。2003年4月のフセイン政権崩壊、同年末の元大統領身柄拘束を受けた今回の裁判は、24年間にわたり独裁権力を振るった元大統領の犯罪をイラク人自身の手で裁くもので、歴史的な裁判となる。
元大統領は1982年にバグダッド北方のドゥジェイル村で起きたイスラム教シーア派住民140人余りの虐殺事件で起訴された。ラマダン元副大統領ら元側近3人、旧支配政党バース党関係者4人の計7人も起訴されており、有罪の場合、いずれも死刑を言い渡される可能性がある。
安全面への配慮から、裁判を担当する5人の判事の名前は公表されていない。また、法廷が開かれる具体的場所も明らかにされていないが、警備が特に厳重なバグダッド中心部の通称グリーン・ゾーン内とみられる。裁判は厳戒下で行われ、元大統領は防弾ガラスに覆われた被告席に座る可能性がある。テレビ中継があるかどうかは明らかでない。
関係筋によれば、初公判は判事が罪状などの文書を読み上げる程度で、元大統領への尋問もないとみられる。ただ、元大統領が特別法廷を批判して発言することはあり得る。元大統領の弁護人ドレイミ氏は、元大統領との接見が制限されているなどとして、審理の先送りを求める考えを示している。(了)