小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

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BBCが伊藤詩織氏の体験を中心に「日本の秘められた恥」を放送 ―バッシングは何故起きる?

(BBCのウェブサイトより)

 BBCテレビが、6月28日、性犯罪に対する日本社会の状況を変えるために活動を続けるフリーランス・ジャーナリスト、伊藤詩織氏に焦点を当てたドキュメンタリー番組「日本の秘められた恥」を放送した(チャンネル「BBC2」、午後9時から1時間)。

 その内容については、BBCニュースの日本語版が詳しく伝えている。英国内での反応や、日本では今のところ放送予定がないことが後半に記されている。

 ドキュメンタリーは、制作会社が数か月にわたって取材したものだ。番組は男性ジャーナリストからの性的暴力を告発した「伊藤氏本人のほか、支援と批判の双方の意見を取り上げながら、日本の司法や警察、政府の対応などの問題に深く切り込んだ」(BBCニュース日本語版より)。

 番組では「複数の専門家が、日本の男性優位社会では、被害者がなかなか声を上げにくい状況」であると指摘。伊藤氏は強姦の被害届を出し、「顔と名前を出して記者会見をした数少ない女性」だ。

 事件の経緯についてはすでに日本で広く報道されてきたため、ここでは詳細を繰り返さないが、基本だけ押さえておくと、事件が発生したのは2015年4月。伊藤氏に対する「準強姦罪」の被疑者となったのは当時TBSのワシントン支局長だった山口敬之氏。同氏に対し、一旦は逮捕状が出されたものの、直前に逮捕は取り消された。この年の8月、検察に書類送検され、2016年7月、不起訴が確定。

 2017年5月、伊藤氏は司法記者クラブで記者会見を開き、不起訴処分を不服として検察審査会に申し立てをしたと述べた。4か月後、審査会は山口氏を不起訴相当とした。刑事責任を問うことができなくなったため、伊藤氏は今度は民事訴訟で戦っている。

 番組は伊藤氏の体験ばかりではなく、性犯罪に対する日本社会の状況を学者、専門家が語り、伊藤氏が性犯罪の被害者を支援するセンターを訪ねたり、学生と対話をしたりする場面もあって、「日本の性犯罪を巡る状況を考える」内容になっていた。山口氏の主張、山口氏を支持する人々のコメントも入り、バランスの取れた作りになっていたように思う。

英国での反応は?

 英メディアの反応はどうなっているのか。

 先のBBCニュース日本語版でも終わりの方にいくつか紹介されていたが、ネットで拾ってみると、サン紙イブニング・スタンダード紙タイムズ紙ガーディアン紙テレグラフ紙、週刊「ラジオ・タイムズ」などに番組評が出ていた(閲読は、一部有料)。

 レベッカ・ニコルソン氏による、ガーディアン紙の番組評の出だしと最後を紹介してみよう。

 「強姦についての日本のタブーを破る」が見出しとなっている。

 冒頭は:

「日本の秘められた恥」は視聴が非常に困難な映画だ。痛ましく、悔しく、悲惨だ。同時に、とても重要な映画だ。勇敢で、必要な映画。制作者・監督のエリカ・ジェンキンが丁寧にそして静かな怒りを抱いて作っている。女性に対する暴力、その構造的な不平等性や差別という大きな物語を、より小さな、より個人的な物語を通して語っている」。

 最後は:

 「日本の秘められた恥」を見た視聴者は多くの怒りにかられる。私は冒頭から胃が締め付けられる思いがした。しかし、この恐ろしい物語の中に一筋の希望もある。(番組の中に出てくる)高齢の女性たちが自分たちの物語を語るようにさせた著名人として伊藤氏を見ていることだ。最後の場面では、強姦をされたが、伊藤氏に会うまでは一度もこの体験を話したことがなかった女性が出てくる。「一滴の水は何もできないけれど、たくさん集まれば、津波を起こせる」。

男性評者が「MeToo」

 デイリー・テレグラフの評者は星5つが最大の評価の中で、星4つを与えている。

 番組を通して、男性評者のジャスパー・リーズ氏は以下を学んでいく。

 ー性的犯罪の被害者を助けるセンターが日本には非常に少ない

 ー警察官の「ほんの8%が女性」

 ー強姦についての日本の法律では被害者が抵抗したことを示さなければいけない

 ―女性がアルコール飲料を飲めば、さらに悪いと見なされる

 ー女性が性衝動を持つことは女らしくないとされるので、日本のポルノは(男性からの性的アプローチに対し)最初はノーと言うが、後で征服される女性のイメージで一杯だ

 -女性が男性の性暴力について声を上げれば、「私的な恥を公的空間に出した」と解釈される。


 そこでリーズ氏は、「犠牲者を責める不快な風潮の中で声を上げるのは、さぞ勇気が必要だったろう」と感想を漏らす。


 伊藤氏が人形を使って暴行の様子を再現しなければならなかったのは「セカンド・レイプ」と呼ぶ人もいることを紹介する。「一方、時事番組に出演した山口氏と他の男性出演者たちはアルコールを飲む女性への嫌悪感を露わにし、不起訴処分が決定するとシャンパングラスを上げて祝った」。

 リーズ氏も、番組の冒頭で高齢の女性たちが伊藤さんについて「大ファンなのよ」と述べる場面に最後に触れている。

 同氏の最後の言葉は:「MeToo」(私も)。

何故被害者にバッシングが起きるのだろう

 BBCの番組の中では、オンライン上で様々な脅し、嫌がらせ的言論が伊藤氏に対して発せられたことが紹介されている。

 女性に対するオンライン上の嫌がらせは、日本ばかりではない。英国でも女性の学者、ジャーナリスト、議員など表に出る人へのヘイトメールや脅しの攻撃はすさまじいものがある。

 伊藤氏の例に限ると、何故嫌がらせやバッシングが起きるのかと、筆者は不思議な思いがする。

 例えば「女性が低く見られている」という面があるのかもしれない。被害者の女性の方を攻撃の対象にしてしまう、と。

 あるいは、筆者が思うには、「MeToo」という感情を共有できないからではないだろうか。「MeToo」、つまり、「ああ、やっぱりそうだよな、分かるよ」という気持ちである。この気持ちをどうか、思い出していただきたい。

 日本の女性の多くが学生時代に満員電車の中で痴漢行為にあったことがあるはずだ。男性も被害者になったことがあるかもしれないが、圧倒的に女性が多い。

 あるいは、組織に勤めていて女性であるがゆえに軽んじられたり、体を触られたり、冗談の的にされたりしたことがあるのではないか。

 こうしたもろもろの体験を心身が記憶しているはずだ。

 そうすると、番組の中で、伊藤氏が暴行を受けたホテルの前に立っているうちに表情が険しくなって、短時間で去ってしまう場面になると、その「身体のガクガク感」が実感としてよくわかるだろう。女学生が高校生の時にあった痴漢行為について話す場面にも、同感してしまうのだ。

 筆者にも、いろいろな過去の記憶が甦ってきた。

 古い記憶をたぐると、「仕事を紹介できる人を知っている」と言った男性に会うために、20代後半の時にホテルのバーに行ってお酒を飲んだことを思い出す。有頂天で、信じ切って出かけて行ったものだ。

 しかし、その「仕事を紹介できる人」は、2時間経っても現れなかった。男性は、「上に行って、ゆっくりしない?部屋を取ってあるから…」と言った(私は部屋に行かなかった)。そこで「帰ります」と言ってバーを出た私だったが、長い間、本当にやってくるはずの人が都合が悪くなって来れなかったのだろうと信じていた。

 もし当時がソーシャルメディアの時代だったら、恐らく最初から誘うことを目的にしていたこの男性ではなく、出かけて行った私がバッシングされていたのだろうか?「男性」と「2人きり」で、「夜」、「ホテルのバーで飲んでいた」から?

 しかし、バッシングされるのはいつもスカートをはいていた女性の方・・であって良いはずがない。

 「セクハラ・性的暴行は日常茶飯事」、「不快な行為をさばいていくのが女性の処世術」と思う方がいたら、かつての悔しい気持ち、不快な気持ちに思いを巡らせてみてほしい。あなたにも、「MeToo」体験があったのではないか。

 あるイベントで女性が言った言葉が忘れられない。「男性は自分のキャリアについて決定権がある女性には、決してセクハラをしない」。

 セクハラはパワハラ。セクハラをされたことがなくても、パワハラをされた経験がない人はいない。

 少なくとも米英では、女性がお酒を飲んでいようが、セクシーな洋服を着ていようが、同意なしに男性が手を出したら、「アウト」。英国の国防相は、十数年前に女性ジャーナリストの「膝に手を置いた」ことが発覚して、昨年秋辞職した。メイ英首相の右腕と言われた副首相も、同様の状況で辞任した。ここまで厳しくなっているのである。

 MeTooの意識が広がる英国で、BBCの「日本の秘められた恥」は強いアピール力を持つドキュメンタリーとなった。

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 伊藤氏による、性的暴行疑惑についての日本の状況


by polimediauk | 2018-07-10 18:13 | 日本関連