小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

ロンドンテロは何故? 解明続く


科学的探究でなぞを解く?

 インドでもテロと見られる爆破がおき犠牲者がでているが、7月7日のロンドンテロが何故起きたのか?英国では解明の努力が続けられている。

 先週、BBC2の「ホライゾン」というテレビ番組枠で、何故7月のテロが起きたかを「科学的に探究」する、とした番組が放映された。

 心理学の専門家、英軍に長年務め現在は英軍で働く人への精神面でのアドバイスをする人、英領北アイルランドでテロ活動を行っていた人、イスラム系テロに関わった数十人に何らかの共通点がないかどうかを探った人など、それぞれが専門知識を持ち寄った。(名前のメモをとればよかったのだが、記憶にたよった報告になるが・・・。)

 改めて分かったことは
―「宗教」というのが必ずしも要因ではない。宗教やそのほかの事柄を通じて、小さな親しいグループが出来上がり、グループ内のプレッシャーが、自爆テロの強行という結果につながる。
―実行者は、アルカイダなどのテロ集団から指示があったケースは全体の20%ほどで、ほとんどが、自分たちで物事を決め、行動に移している。中央からの指示を必要としていない。
―爆発物の生成は比較的簡単に、ネットなどからの情報で可能。
―テロ犯の社会的バックグラウンドは様々だが、決して貧困が第一の理由にはなっていない。むしろ、生活は中流以上で、本人たちも大学出など、ある程度の高学力である場合が多い。
―家族や周囲が、本人がテロ行為を考えていることを気づかない場合も多い。(ただし、7月7日の実行犯の場合は、1人の妻が、家に帰らなくなったために何かおかしい、と感じていたという。妻は、実行犯だった夫が浮気をしている、と思っていたそうである。
ー調査の結果、テロ犯には、誰でもがなりうる可能性がある、ということ。

 そして、7月のテロ犯らが集まっていた、地元のスポーツクラブの前に立った心理学者は、「地元のモスクにいた長老や、あるいは過激思想を持つイスラム教徒たちに刺激を受けた、というよりも、実行犯の青年たちがこのスポーツクラブに集まって、友人として親交を深めていたことのほうが、何故同時爆破テロが実行されたのかのなぞを解く鍵がある」と述べた。

 つまり、ピア・プレッシャーというか、友人同士の結束があって、途中からはもう抜け出ることができなくなる、というのである。これに加えて、軍隊にいた経験を持つ専門家も、戦場では自分も、そして小さなグループの中にいる仲間も一心同体で、相手を倒すことに集中するので、自分ひとりが抜けることはできない精神状態になることを説明する。かつて英空軍特殊部隊にいて今はコンサルタントとなったアンディー・マクナブ氏も、同様のことを言っていたことを思い出す。「どうやったら、19歳で人を殺すことができたのか?」という、大胆な問いをあるジャーナリストがしたところ、マクナブ氏は、「自分のチームにいる仲間を絶対に失望させたくない、仲間を絶対に守らなければならない、という強い思いがあった」と答えている。

 この番組が探し当てた要因が正しいか間違っているかはそれぞれが判断するとしても、夏の間、「悪いのは、英国のイスラム教徒の指導者たちだ。指導が十分に行き渡っていなかった」とする論調や、「悪いのは、イスラム過激派の思想を広める、外国からの亡命者たちだ。追放しろ」という声があがっていた。こうした、いわば「直後の反応、判断」が、いかにある意味で性急な論理だったのかもしれないようなことが、分かるような番組のつくりになっていた。

 一方、10月30日付のサンデー・テレグラフ紙は、7月のテロの実行犯の1人、22歳のシェザード・タンウイール氏の父親の初のインタビューを載せている。息子のほうは英国ウエスト・ヨークシャーで生まれ育ったものの、父はパキスタン出身。遺体をパキスタンに埋めに、国に戻ったところのコメントである。

 「私の知る限りでは、誰よりもイギリス人らしい青年だった。スポーツの道を進もうとしていたし、最後の夜も、クリケットを楽しんだばかりだった。まずちゃんとした形で埋葬を行いたいが、何故息子がこんなことをしたのか、どうしても突き止めて、世界に発表したい」と述べている。

 タンウイール氏の遺体が家族に戻されたのは25日だったという。パキスタンの村での埋葬には、300人ほどが集まった。

 父は、「英メディアはひどく偏向している。イスラム教徒に対して憎悪を持った報道をしている」と語っている。「私たちイスラム教徒を、殺人者たちだと呼んでいた。これ以上悪く書けないぐらいの表現を使っていた」。

 サンデーテレグラフのこの記事には、タンウイール氏の顔写真と、パキスタンの墓場で、誰か(タンウイール氏の父かと思わせる人物)が後ろ向きに座っている写真がついている。

 タンウイール氏は昨年11月パキスタンに行き、そこで、4人のうちの別の実行犯モハメド・さディク・カーン氏(主犯とされている)と会い、3ヶ月滞在していた。この間に、カーン氏は、後にアルジャジーラテレビで放送されることになった、「我々は戦争状態にある。私は兵士だ」とするビデオを作っていたと見られている。このビデオの中で、カーン氏は、英国のイラク戦争参戦を非難し、これが彼の自爆テロの理由だ、としている。

 また、英国の主要な鉄道の駅では、空港のチェックイン時のような、ボディー・スキャンやX線検査などのチェックを行う計画があるようだ。これもサンデーテレグラフによると、だが。
by polimediauk | 2005-10-31 02:05 | 英国事情