小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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FTが新たな編集長を


電光石火の交代劇

 11月3日の朝、急遽、ファイナンシャル・タイムズの編集長が交代したニュースが伝わった。2001年から4年間編集長だったアンドリュー・ガウアーズ氏(48歳)が「戦略上の意見の相違」から辞職し、代わりにFTの米国版の編集責任者ライオネル・バーバー氏(50歳)が新編集長に。経営陣との「戦略上の意見の相違」というのが何だったかを、FT側は公表していない。ガウアーズ氏が、何らかの形でFT紙を買い取る、という噂もあった。

 ガウアーズ氏はFTに22年勤め、FTドイツを立ち上げた人物。有料オンラインサイトにかなり力を入れ、成功させていた。この4年間、発行部数の伸びは残念ながらよくなく、FTを所有するピアソン社がFTを売却するのではないか、という噂は絶えなかった。2001年の9月で平均発行部数は約47万8000部だったが、今年の9月には42万4000部に落ちていた。FTは英国以外での販売部数が大多数を占めるので、何とか国内の部数を増やそうと、国内の地方企業やトレンドを書いた記事を増やしたり、その時々のトピックの分析を1面全体を使ってやるなど、様々な試みを続けてきた。損失が続いていたものの、今年に入ってからは、やや上向きになってきていた矢先の編集長交代だった。ピアソン社の株価は5月以降、マスコミ業界の平均株価と比較して7%ほど下だった(ガーディアン紙)。

 2001年、ガウアーズ氏と編集長職を争ったのがロバート・トムソン記者で、彼は後、タイムズの編集長となっている。2002-2003年ごろ、FTの記者から聞いた話によると、編集スタッフの間では、ジャーナリストして有能なトムソン氏を支持する声が高かったそうだが、最終的には、「収益を上げられる人」ということで、ガウアーズ氏を経営陣が選んだ、という。噂レベルの情報だが、トムソン氏のジャーナリストとしての力量は、他のところでも時々聞いた。ロンドンの外国プレス協会でのスピーチで、ガウアーズ氏が有料サイトで収益をあげたいと力説していたのを思い出す。実際にこれは成果をあげたようなのだがーー。競争が激しいとされる英新聞業界での電光石火の人事の流れを垣間見たように思った。

 新編集長のバーバー氏はオックスフォード大学出身。ドイツ語と現代史を専攻。1978年からジャーナリズムの世界に入り、「スコッツマン」紙で働き始め、1981年にはサンデータイムズ紙、1986年からFTで働いてきた。ジャーナリスト肌の人物が編集長になった、ということのようだ。父親も兄弟もジャーナリストだった。

 ガーディアンの3日付の記事の中で、10年前にバーバー氏と働き、現在はオックスフォード大学ビジネススクールで教鞭をとるチャールズ・レッドビーター氏は、バーバー氏は生粋の新聞記者、という。同時に、社会的スキルにややかけるところもあり、例えば「いつもシャツの裾がズボンからでていた」と述べている。
 
 バーバー氏はFT紙上で、正確で信頼でき、思慮深い新聞、紙とネットで金融情報を提供する世界の新聞を作り続ける、としている。
by polimediauk | 2005-11-07 08:23 | 新聞業界