小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

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イラク大統領、英軍撤退の時期を予測


「永遠に外国の軍隊がいることを望んでいるイラク人は誰一人いない」

 BBCオンラインが13日の早朝伝えたところによると、イラクのタラバニ大統領が、在イラク英軍が来年末頃には撤退し、イラク軍に仕事を引き継ぐことができるだろうと述べたという。しかし、今すぐの撤退は、「破滅」の道になり、内戦になると、英ITVの政治番組の中で述べた。このインタビューは、英時間昼の12時40分ごろ(日本時間夜9時40分頃)から放映される。英軍の撤退時期に関しては、これまでにも様々な説が出されているが、状況が刻一刻と変わっているので、どれが最終的に正しいことになるのか、予断を許さない。しかし、イラクの大統領が現状をこのように把握している、ということが分かったという点で、重みがあるコメントだ。
 
 「イラクに永遠に外国の軍隊がいることを望んでいるイラク人は誰一人いない」としながらも、現時点で撤退時期の詳細に関して英政府と合意しているわけではなく、「現状を見ての推察だ」と述べた。「英国民が、軍隊を撤退させることを希望していることは、了解している。自分たちの息子が帰ってくることを要求する十分な権利を英国民は持っている。特に、主要な任務、つまり独裁政権を倒す、ということをやり終えているのだから」。

 タラバニ氏は、段階的撤退を望むと述べた。

 また、12月の選挙に向けて、暴力行為が増加することを認め、イラク戦争とロンドンの7月の同時テロの関連性はない、とした。後者のコメントが気になる。というのも、英政府は、イラク戦争とロンドンテロが関係していない、としているからだ。しかし、果たしてイラク戦争がロンドンテロの直接の引き金になったかどうか?に関しては、「直接」とまでは言わなくても、心情的なファクターだったのではないかという見方は英国では定説になっているといってもいいと思う。「直接的引き金となった」とする説も有力である。しかし、英国で生まれ育ったテロ犯たちが、イラク戦争に関して、ある意味では、勝手にシンパシーを感じ、テロを起こした、という部分があるであろうし、英国側からすると「何らかの関係・影響はあっただろう」という見方が大方になってはいても、イラク側からすると「関連はなかった」とするのが、真実に近いということになるのだろう。

 ・・ややこしい説明になったが、いやだなあと思ったのが、イラクの大統領が「関連性がなかった」というと、ブレア首相やストロー外相が、「ほら、関係なかった」という文脈でこれから発言をしていく可能性が高く、結局、大統領のコメントが英国の文脈の中で「使われるだけ」になってしまうのが見えるようだったからだ。

 また、もちろん、英国民にとっては、英兵がイラクから帰ってくる時期が分かるのは、大きなニュースだ。今日・明日はこのニュースがかなり繰り返して報道されるだろう。今日13日は、リメンバランス・サンデーのセレモニーがある。戦争で命を落とした兵士を追悼する日だ。英国のあちこちで、市民たちが集まり、平和の行進をし、2分間の黙祷をする。http://www.bbc.co.uk/religion/remembrance/history/ タラバニ大統領のコメントの一部が繰り返されている背景には、リメンバランス・サンデーの儀式がある、という要素も影響しているのだろうか?戦争で犠牲になった人に対し、英国民の多くが思いをはせる日である。



 
by polimediauk | 2005-11-13 18:33 | イラク