小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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フランスの暴動 シラク仏大統領がスピーチ



「一体いくつもの履歴書が、ゴミ箱に捨てられたろう?応募者の名前や住所だけで?」

フランスの暴動 シラク仏大統領がスピーチ_c0016826_5583315.jpg 先ほど、フランスのシラク大統領が、2週間以上続く国内の暴動を止めるため、テレビで国民に語りかけた。放映時は見逃してしまったが、BBCオンラインで読んでいると、鳥肌が立ってくるような思いだ。フランスの人からすれば、たいしたことがない、可能性もあるが、それぞれ、それなりの思いをもってテレビにかじりついたのではないだろうか。

 何故これほどまでに暴動が広がったのか?ずっとそれを考え続けてきた。パリ郊外や他の低所得者用住居が建ち並ぶ地域では、移民たちやその子孫が住み、人種差別や教育の不足でなかなか仕事が見つからない、これではいくらフランス国籍をもらっても、実質的に、社会の本当に一員として認められていないことになるのではないか?今回の一連の事件を通して、そんなメッセージが何度となく伝わってきた。

 1968年の、学生を中心とした反体制運動の時のような、政治的な目標がある暴動ではない、宗教的な目的があるわけでもない・・・ということも、何度となく、様々な報道を通して聞いた。移民の(といってもフランス国籍)若者たちが、差別、失業などの不満を、車両に放火して気を晴らしている、「社会のくず」と言われて、頭にきている・・そんなことが理由だと聞いていたが、しかしそれでも、いくらなんでも、どうして毎日のように、何百台もの車両に火がつけられているのか?フランスにいないと、どうしてもピンとは来ない部分があった。

 今回のスピーチで、シラク大統領は、移民たちが差別を受けてきたことを認めるようなことを言っている。そして、失業者たちを助けるようなトーンのことも、言っているようだ。これが実際にどこまで本気なのか、私にはすぐには分からないが、何となく、これまでのトーンとは違うのではないか?(フランスにいる人から聞くしかないが。)

 もし、言葉どおりに受け取るならば、「何の政治的目標もなく、放火している」と解説されてきたけれど、最終的には、何らかの(若干の)政治的目的を果たしたことになるのだろうか?放火、暴動、という行為を通して、自分たちが差別されていること、職が必要であること、が政治家側に伝わった、ということなのだろうか?最初は、警察官の数を増やすとか、時には催眠ガスを使うなどといった、タフなやり方に力を入れてきたのが、既にドビルパン仏首相が支援策を出していたものの、こういう形でシラク大統領から移民に対する策を発表する、ということは、戦略を変えた、ということなのか?

 この結果の意味が分かるには若干時間がかかるかもしれないが、欧州の移民問題で、何かが変わりつつあるのだろうか?

 以下はBBCオンラインから。

シラク大統領、暴動を終結させるために新たな誓い

シラク仏大統領は、都市部での暴動が再発するのを防ぐため、若者たちに就業の機会を与えることを約束した。10月末に暴動が始まってから最初の主要なスピーチとなった。シラク氏は、「アイデンティティーの危機」について言及した、という。

人種差別の「毒」を非難し、2007年に、5万人の若者に就業のための研修を行うと、した。また、法と秩序を守り、暴徒を裁き、非合法に滞在している移民をなくする、と述べた。

 フランスとEUの旗の前で、フランス国民に向かってテレビを通じて話しかけたシラク氏は、一連の暴動は、フランス社会の中の「深い病気」にスポットライトをあてた、とした。「差別があることに、私たち全員が気づいている」とし、若者に働く同等の機会を与える必要性を呼びかけながらも、米国で採用されているようなクオーター制の導入は否定した。

「一体いくつもの履歴書が、ゴミ箱に捨てられたろう?応募者の名前や住所だけで?」

「多くのフランス人が困難な状況にいる。しかし、暴力は何も解決しない。フランスに所属するならば、フランスのルールを守らなければならない」。
by polimediauk | 2005-11-15 05:59 | 欧州表現の自由