小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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フロスト氏 ビンラーディンにはインタビューしない?


 Desert Island DiscsというBBCのラジオ番組がある。著名人の一人を招き、もし砂漠に取り残さるとしたら、どのレコードを持って行きたいか?を聞く。選択した音楽を聴きながら、その人の人生を振り返る。

 2日のゲストは、長らくBBCのニュースキャスターだったデビッド・フロスト氏(11月27日放送分のリピートだった)。フロスト氏は、様々な政治家のインタビュアーとしても知られており、特に、ニクソン元米大統領を、ウオーターゲート事件後に初めて長時間インタビューした人としても知られている。氏は、新しくできるアルジャジーラインターナショナル(英語版放送)のキャスターとして働くことになっている。

 アナウンサーが、何故、フロスト氏がアルジャジーラで働こうと思ったのか、聞く。「人質の首を切るシーンを放映したり、テロリストと関係があると言われている放送局に、何故?」。「・・・といわれている」と書いたが、このときのアナウンサーの口調は、「テロリストに関係がある・・」というニュアンスのもので、最初から、アルジャジーラをうさんくさいものとして扱っている。

 これに対し、フロスト氏は、「首切りシーンは放映していないことが分かった」とし、「テロリストにも一切関係ないことが、いろいろな人に聞いて、分かった」と説明。

 ここまではいいのだが、「オサマ・ビンラーディンのインタビューの機会があったら、インタビューするのですか?」と聞かれると、しばし躊躇があって、「自分はジャーナリストだが、市民でもある。市民としての自分を大切にしたい」ということを言った。つまり、自分はインタビューしない、という意思表示だった。

 私は、ここから、おかしいなあ、と思いだした。BBCのキャスターだったらこういうことを言ってもいいのかもしれないが、アルジャジーラのキャスターとしては、違和感があるように聞こえたからだ。英国のリスナー向けに、そういったほうがいいから、言っただけ、なのか?

 中東諸国(全部とはいえないかもしれないが)では、オサマ・ビンラーディンには一定の支持があることを読んだり、聞いたりしてきた。英エコノミスト誌11月26日号でも、米ピュー・グローバル・アティテュード・プロジェクトという調査の結果として、ヨルダンでは60%がビンラーディンに信頼を置いている、としていた。

 多分、フロスト氏としては、個人のレベルでいろいろな思いがあるのだろう。

 しかし、アルジャジーラ(アラビア語)はこれまで、一方の意見ではなく、もう一つの意見も出す、という方針をとってきており、これからもアルカイダ関連のインタビューがとれれば、基本的にはこれを除外しない可能性は高い。

 アルジャジーラ英語版は、ロンドンにも支局を置くが、編集方針はアラビア語版と変わらないと世間は期待していると思うのだが。アルジャジーラとしての独自のスタイルは、これからどう変わっていくのだろう?

 フロスト氏はキャスターの一人であるだけだが、アルジャジーラ英語版がCNNやBBC(つまり西欧人の価値判断でニュースを決めていく)にならないことを願っている。(実際には、アルジャジーラ・アラビア語版がアルカイダ関連のテープなどを入手・放映すると、CNNやBBCはアルジャジーラからこのテープを買って、放映しているわけだが・・。)
by polimediauk | 2005-12-02 19:42 | 放送業界