小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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情報ネットワーク「ファイブ・アイズ」の始まりを示す手帳、英で公開

「ファイブ・アイズ」。

 英国、米国など5カ国の機密情報共有の枠組みを指す。昨年夏、一時は日本もこれに参加し「シックス・アイズ」になる可能性があると報道された。

 もともとは、英国と米国の情報共有の枠組みである。1941年2月、両国の暗号解読者たちが英南部に集まった。これがUKUSA協定の締結(1946年3月)、そして戦後になって、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドが参加する現在の形につながってゆく。

「アメリカ人がやってくる」と手帳の走り書き

 英国内外の情報収集・暗号解読業務に従事する「英政府通信本部(GCHQ)」が5日、初めて公開した情報によると、アラステア・デニストン氏率いる政府暗号学校(GCHQの前身。GCCSあるいはGC&CS)の暗号解読チームが米国の同様の作業に従事するチームを迎え入れたのは、1941年2月。この時、まだ米国は第2次世界大戦に参戦していない(米国の参戦は、同年12月8日、日本軍による真珠湾攻撃がきっかけとなる)。

 デニストン氏の手帳がこのほど公開となり、BBCのゴードン・コレラ記者が英米の機密協定発祥の動きを伝えている

 デニストン氏はアシスタントに「今晩12時、4人の米国人が私を訪れる。シェリー酒を持ってくるように。彼らが誰で何をしているかは誰にも話してはいけない」と伝えたという。

 同氏の手帳の中には「"Ys arrive」という手書き文字が見える。これは「Yanks(米国人)」がやってきた、という意味である。

 米国チームは独ナチスの戦闘機に攻撃を受けながらも、英国に船でたどり着く。そして、政府暗号学校が置かれていたブレッチリー・パークで英国のチームと会合を持った。

 チャーチル英首相(当時)の許可を得て、2カ国のチームは機密情報を交換し合った。この時までに英国側はドイツのエニグマ暗号を解読しており、米国側は日本の暗号電文(コードネーム「パープル」)を解読していた。

 この会合の後、両チームは米英間を行き来し、UKUSA協定に署名がなされるのは、1946年3月5日である。

 この協定は「婚姻契約」とも呼ばれた。両者が正直に、オープンに互いを扱うことを約束した。互いへのスパイ行為を行わないことも決めた。

 戦後は5カ国の協定に拡大するが、その存在は2010年まで明らかにされなかった。

英米の「特別な関係」示す

 英国では、英米関係を「特別な関係」と呼ぶことがある。コレラ記者はこの表現は今や「古めかしい」ように聞こえるけれども、「暗号解読の面ではいまだにそうだ」と書いている。

 「手帳までもが保管されているのか」と驚かれる方も多いのではないだろうか。

 「アメリカ人がやってくる」。こんな走り書きが、歴史を伝える記録となった。

 在英の筆者としては、アシスタントにシェリー酒を持ってこさせたという指示も味わい深い。グラスでちびりちびりしながら、話を進めたのだろうか。

 シェリー酒は食前酒としてよく飲まれてきたが、今はそれほど人気がないようで、新型コロナのロックダウンが敷かれる前にパブやレストランで注文すると「ない」と言われることが珍しくなかった。

 シェリー酒好きの筆者にとっては残念だが、「実際に顔を合わせて、秘密の話をした」、「シェリー酒のグラスを片手に持って」という部分に、1940年代の雰囲気がよく表れているように思ったのである。

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 ご参考

 「特別な関係」についての筆者のコラム記事(「英国ニュースダイジェスト」掲載)

バイデン米政権発足英国との「特別な関係」はどうなるか - 歴史、文化、安全保障で分かち難く結びつく英米


by polimediauk | 2021-03-13 21:19 | 政治とメディア