アフガニスタンでタリバン復権 ー英上院報告書の分析を読む
(新聞通信調査会発行の「メディア展望」(10月号)に掲載された筆者記事に補足しました。)
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2001年10月のアフガン戦争の開始から、20年が過ぎた。
01年9月11日に米同時多発テロが発生し、米国はテロの首謀者でイスラム過激組織アルカイダの創設者オサマ・ビンラディンをタリバン政権がかくまっているとして、英国などとともにアフガニスタンに侵攻した。
米主導の「テロとの戦争」の始まりである。
今年8月、アフガニスタンは改めて世界の注目を浴びた。
同月末の駐留米軍の完全撤退を控え、多くのアフガン市民らがカブール国際空港や隣国パキスタンとの国境に駆け付けた。中旬には民主的に選ばれたアフガン政権が崩壊。2001年まで政権を担当したイスラム主義組織タリバンが復権すれば、女性の権利侵害や公開処刑など人権侵害に当たる恐怖政治が再来する。空港で列をなす人々の切羽詰まった表情を見て、心を動かされなかった人はいないだろう。
期限までに駐留米軍及び北大西洋条約機構(NATO)加盟国による連合軍の完全撤退は実現したが、欧州内ではバイデン米政権に対する批判が高まった。混乱を緩和するための駐留期限延長の声に耳を貸さず、性急な米軍撤収によって国際社会が支援してきた民主政権の崩壊、引いてはタリバンの復権を招いたからだ。
今年1月に発表された英上院の国際関係・国防特別委員会による報告書「英国とアフガニスタン」は、約20年間の国際支援を経てもアフガニスタンが非常に脆弱な状態であったことを伝えている。
9・11テロ以降、米国と一体化してテロの戦争に参加してきた英国の関与とアフガニスタンの内情分析を紹介したい。
報告書は「さらに危険性が悪化する」と警告
まず、英国の関与を見ておきたい。
2001年10月、米英を中心とした多国籍軍によるアフガニスタン侵攻後、タリバン政権はまもなく崩壊する。12月、国連決議を基に国際治安支援部隊(ISAF)が結成され、03年にはNATOがISAFの中心となった。14年までにISAFはその目的を終え、アフガニスタン治安部隊(ANSF)に権限を委譲。14年以降、NATOは戦闘任務から訓練、助言、ほか補助業務を担当してきた。
英国は上記すべてに参加し、過去20年で延べ15万人を出兵させた。戦死者は456人。01-14年の戦闘・治安活動費用は213億ポンド(約3兆円)に上る。ANSFには毎年7000万ポンドの支援金を提供し、政府開発援助(ODA)は2020-21年で1億6700万ポンドであった。後者はアフガニスタン向けの二国間援助としては3番目に大きな金額だ。
援助金額は大きいが、英国にとってアフガニスタンは次第に国防上最優先の国ではなくなっていった。2010年頃からロシアやイスラム過激組織「イスラム国(IS)」への対応に焦点が移動していた。英議会の特別委員会がアフガニスタンの現状分析を報告書にまとめたのは、14年が最後だった。
一方、アフガニスタン内の脅威は増大していた。アルカイダやIS系過激組織「イスラム国ホラサン州(IS-K)」がテロ活動を活発化させた。アフガン政権は「非常に脆弱」で、タリバンの攻撃が続いていた。このような状態は「さらに悪化する危険性がある」、「2001年以降に達成された業績が失われる恐れがある」。大きな警告が出されていた。
民間死者・負傷者数が連続で年間1万人
報告書によると、2001-20年で約15万7000人がアフガニスタン内で武装攻撃によって殺害され、このうち4万3000人余が民間人である(米ブラウン大学調べ)。報告書発表前の数年間で治安状況は好転しておらず、2019年は年間の民間死者・負傷者数が1万人を超えた。1万人超となったのはこの年で6年目だという。過去10年では10万人の民間死者・負傷者が出たと推定され、いくつもの州で「無差別に殺害される危険性」が記されている。
国内の紛争・治安不安のために国外に脱出し、難民及び難民申請者となったアフガン人は年間約300万人に達する。国内の避難民は2015年末時点で年間約117万人、19年末では約255万人に達した(人権組織アムネスティー・インターナショナル調べ)。こうした人々がかつての居住地に復帰できる見込みはほとんどないという。
世界の最貧国の1つアフガニスタンは、国家収入の60%以上を海外援助に依存する。1兆ドル(約110兆円)相当の鉱物資源に恵まれながらも、「治安の悪さ、弱い司法体制、運営能力の欠如、汚職」のため、これを活用できていない状態だ。「裏の経済」が横行し、農民らは非合法なケシ栽培を手掛ける。「世界のアヘン供給の80%以上」がアフガニスタン産のケシを原料としている。英国はケシ生産を減少させようとしたが、「最終的に失敗した」。
収入の大部分を海外資金に頼る経済の構造は政治家の汚職につながる。国民からの税金を当てにする必要がなく、政府には「免責の文化」が根付いているという。「特に政府幹部が関与した拷問、殺害が訴追されることはめったにない」、「権力を乱用する警察や軍部が行動を改める理由がほとんどない状態」であった。
また、英国及び海外ドナーが「ANSFによる権力の乱用や、免責を正す司法組織の失敗を指摘することはめったになかった」。
女性の権利については進展がみられ、少女の就学率は大幅に上昇したが、「入学者数と卒業者数には乖離があり、女性の識字率は16%にとどまった」。
報告書は、英政府が以前にタリバンを政治の場に参加させるため話し合いの場を設定しようとしたが「米国に妨げられた」ことを指摘し、「英国独自の姿勢を示すことができなかった」と記している。
タリバンの活発な攻撃や治安悪化は報告書も指摘していた。
本当に「予想外」の展開だったのか
果たして、タリバンの電光石火の急進は本当に予想外だったのか。
9月1日、下院の外務問題特別委員会に召喚されたラーブ外相は、タリバンが首都制圧に至った場合でも、それは「年末頃」という認識だったと述べた。
トゥーゲンダット委員長が、ある文書を読み上げた。米軍の撤退後、タリバンが急速に権力を掌握し、都市が崩壊し、人道的危機が起きると警告する文書だ。情報源を問われ、委員長が7月22日付の外務省自身による報告書であると告げると、外相は一瞬言葉を失った。
英国は8月末までに約1万5000人をアフガニスタンから退避させた。最大約2万人を定住者として受け入れる予定だ。
世界食糧計画などの国連機関の予想によると、11月から来年3月までの間に人口の半分以上が深刻な食料不足に陥るという(BBCニュース他、10月26日)。