小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

秘密収容所疑惑とグアンタナモ基地


(大分時があいてしまい、申しわけありません。)

 雑感。

 キューバにある米グアンタナモ基地に拘束されていた人の証言のテープを聞いたり、自分のメモをまとめたりしているところなのだが、この作業が進むほどに、非常につらい家族の思いが伝わってくる。

 しかし、考えるほどに、メディアが報道しないことは意外と多く、一体これはどうしたことか、と思ってしまう。

 CIAの秘密収容所の件、拷問の件など、真否に関しての報道が続いているが、グアンタナモ基地に拘束され、戻ってきた人が、少なくとも英国には9人いる事実との関連付けがあまりなされていないように思う。

 全員が、何の容疑もないままに最長では4年近く拘束され、今年頭までに全員が釈放された。英国に帰ってから、すぐ警察などに取調べを受けたものの、即時あるいは2,3日後は無罪釈放となっている。

 新聞や雑誌を通じて、9人は、それぞれに拷問を含めた尋問を受けたと話している。9人が初めて一堂に会した11月のアムネスティー主催のイベントでも、体験を語った。

 「秘密」ではないかもしれないが、実際に、拷問・尋問を受けるために米国以外の収容所に飛ばされたのが、この9人で、いわば生き証人だ。釈放されたのは他の国籍の人もいるので、生き証人がもっといることにもなる。

 無罪なのに、疑いをかけられ、拷問を含めた尋問を受け、何の謝罪も、補償金の支払いもなく、英国に戻されて、月日が経っていることになる。

 英政府もメディアも、こうしたことの成り行きに、道義的怒りというか、特に何もないようなのだ。もちろん、人権団体や、何人かの人々は、グアンタナモを批判する。しかし・・・。

 どうも、国民的な怒りのうねりが大きく存在していないことに、あっけにとられる思いがする。

 グアンタナモに捕まった人は、例え後で無実となっても、何らかの形でテロに関係のある人、と見られる・・と、元拘束者の家族らが証言している。本当にそうなのだろうか?これが盛り上がりに欠ける理由なのだろうか?

 一方、7月のロンドン爆破テロで、実行犯となった4人の男性の家族はどう思っているのだろう?愛情あふれる、普通の息子、父だったと家族は新聞などに語っているのだが。この4人の男性たちは、尋問されたら、爆破計画を話していただろうか?一旦「絶対に話さない」と決めた人の口を開かせるのは、並大抵ではない。

 全員が英国に住む、イスラム教徒の若い男性たちだった13人のうち、無実の9人が捕まり、実行犯4人はほぼ計画通りにテロを起こしてしまった、という皮肉ななりゆきとなった。
by polimediauk | 2005-12-21 08:37 | 英国事情