小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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英警察の人種差別を露呈させた「マングローブ事件」とは 資料からよみがえる過去、そして今 (2)

 (ウェブサイト「論座」が7月末で閉鎖されることになり、筆者の寄稿記事を補足の上、転載しています。)

 1948年、英国は第2次世界大戦後の労働力不足を補うために、当時は植民地だった西インド諸島から若者たちを招いた。希望に胸を膨らませてやって来た若者たちは、社会の現実と格闘しながら生活を築き上げていった。歴史の一こまを垣間見ることが出来る文書の数々を、英国立公文書館で開いてみた。

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スティーブン・ローレンス事件


 1993年、18歳の黒人青年スティーブン・ローレンスが、人種差別主義者と思われる白人男性ら数人に暴行を受けて、亡くなった事件は、英国でよく知られている。

 1999年、この事件を調査したマクファーソン報告書は、ロンドン警視庁が「組織として人種差別主義的だ」と弾劾した。

 2012年1月上旬、2人の白人男性が殺人罪で有罪となった。ローレンス事件で容疑者に有罪判決が下った(終身刑)のはこれが初めてだ。何度となく裁判まで持ち込んだが、いずれも「証拠不十分」とされていたのである。共犯者がいたと見られているが、有罪判決にまで持ち込めるかどうかの見込みは薄い。

 特定の人種グループに対する差別的対応が垣間見える傾向は今も変わらない。何度も何度も、同じことが繰り返されている。

 2018年4月末、ローレンス青年の死から25年。記念式典に出席したメイ首相(当時)は、毎年4月22日を「スティーブン・ローレンスの日」にする、と述べた。果たしてこれが何らかの抑止になっているのか。考える機会を与えてくれるのは確かだ。

ウィンドラッシュ事件


 しかし、ちょうどこの頃、1948年から70年代初頭にかけて西インド諸島から英国にやって来た移民の子供たちが2014年の改正移民法の施行をきっかけに、「不法移民」として扱われていたことをガーディアン紙が暴露した。職を失う、社会保障を受けられない、国外退去を迫られるなどの困難に直面した(ウィンドラッシュ事件)。

 差別的待遇はまだまだ続いた。

ブラック・ライブズ・マター

 2020年5月末には、米国で発生した白人警官による黒人男性の暴行殺害事件をきっかけに、反人種差別運動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」が世界各国で広がったである。


 2020年11月、映画監督スティーブン・マックイーンとBBCはカリブ海出身者や黒人の日常をテーマに共同制作したテレビドラマ数本を放送した。ドラマの1つ「マングローブ」でマングローブ事件を取り上げた。(BBCによるマングローブ事件の紹介記事も掲載された。)

 かつてマングローブ・レストランがあった「オールセインツ・ロード6-8」では、カリブ風料理を出す「ラム・キッチン」が営業中だ。

 外壁には、ノッティングヒル・カーニバルの成長にも一役買ったクリッチロウを称える「ブループラーク」(銘板)が飾られている。この銘板は、非営利組織「ヌビアン・ジャク・コミュニティ・トラスト」が英国における黒人および少数民族の歴史的貢献を称えるために設置された。


クリッチロウのブルー・プラーク(ヌビアン・ジャク・コミュニティ・トラストのウェブサイトより)


by polimediauk | 2023-05-01 00:38