小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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NEWS XCHANGE 放送会議報告―1 米英メディアの限界


「パリは燃えていたか?」

NEWS XCHANGE 放送会議報告―1 米英メディアの限界_c0016826_2156328.jpg 昨年ややこのブログでも触れたが、11月にオランダ・アムステルダムで開催された放送業界の国際会議(News Xchange)の様子を、何回かに分けて紹介したい。骨格となる原稿は新聞通信調査会報1月号(1月1日発行http://www.chosakai.gr.jp/index2.html)に書いたものだが、見たことをできるだけそのままの形で紹介したく思い、感想・印象部分を増やした。

 英語圏に住んで時折感じることだが、米英系、つまりいわゆるアングロ・サクソン系のものの考え方、メディアの発想では理解できない、あるいはカバーしきれない現象が世界ではたくさん発生している。ややもすると、その圧倒的リーチゆえに米英メディア=ユニバーサル・メディアと考えがちであるが。

 では、「米英メディアとは、何なのか?」「どんな価値観があるのか?」を定義するのは、なかなか難しい。具体的な事象を紹介する必要が出てくるであろうし、これだけでいくつかの原稿になってしまう。そこで、「調査会報1月号」に出した原稿では、この部分を殆ど書かず、会議の経過の具体例の紹介に集中した。

 しかし、実際に、2日間にわたった会議の中で、最も強く現れたように私が思ったのは、「いかに米英メディアの報道に限界があるか」だった。

 この「限界」だが、例えば、英国でイスラム教、イスラム教徒に関する新聞記事などを読むと、結局は、「よくわかっていない」のだろうなあと思うことがしばしばある。私自身がイスラム教に詳しいわけではない。しかし、「分からないことに関して、書いている」という印象は伝わってくる。

 また、中国に関する報道、時には日本のある現象に関する報道など、ずれている、あるいは偏向しているのではないか?と感じる場合もある。

 世界中の全てのことを熟知しているわけにはいかないだろうから、ある現象を理解できないとしてもそれ自体では問題ではない。しかし、米英メディアが、「自分たちはここまで調べ、これに関してはこう思う」というスタンスでなく、「絶対にこれはこうだ。同意しないなら、あなたが間違っている」というスタンスをとりがちな傾向が問題であるように思う。自分たちの価値観=ユニバーサルな価値観、と考えているようである。

 1つの具体例が、イスラム教の女性が着る黒いブルカ〈体全体を隠し、目だけが見える〉だがこれに関して、「それなりの意味もあるかもしれないが、でも・・・」という声を、西欧の人から聞いたことがない。イスラム教徒の女性は「絶対に」しいたげられており、ブルカは絶対にダメ、絶対に認められない衣服になる。ブルカがいいか悪いか、という議論ではなくて、一旦こうと決めたら、「ひょっとしたら、違う見方があるのではないか?」と思わないようなところがある。

 しかし、自分たちの価値観=ユニバーサルな価値観というスタンスで世界の事象を報道するとき、見逃すものが大きいのではないか。この点が、いくつかのセッションを通して、如実になったのが、News Xchangeの会議だったように思う。(http://www.newsxchange.org/)

――以下、第一日目の、24時間ニュースのセッションから紹介していきたい―――

「報道のあり方」で立場の違い鮮明に
―放送関係者がオランダで国際会議

 「放送業者による放送業者のための」国際会議News Xchangeが昨年11月10日と11日、オランダ・アムステルダムで開催され、世界50カ国から約500人の放送関係者が集まった。欧州放送業者組合が各国の放送業者と協力の上で主催し、2002年、スロベニアの首都リュブリャーナでの初回から数えて今回は4回目となる。

 開催前日にはヨルダンの首都アンマンで爆破テロが起き、57人が死亡するという事件が起きた。予定を変更して自国に戻る報道関係者も出るなどし、緊迫感が漂う中で会議は開始された。

 国際報道をめぐる諸問題に関して様々な意見交換が行われたが、議論の過程で度々浮上したのが、「何が本当に起きているのか」「何を報道するべきなのか」を正しく探し当て、これを偏見なく報道することの難しさだった。

 メディアのジャーナリズム観が違うと、何が報道に足る事実なのか、これをどう報道すべきか、も変わる。取材の自由が限定される場合や取材者側に思い込みがあったり、知識不足があれば、正確な現状把握は困難になる。

 こうした点から、会議中に特に顕著になったのは、米英メディアの限界ではなかったか、と思う。

 フランス、中国、イスラム教の報道に関するセッションから、参加者たちの発言内容をたどってみる。

―パリは燃えていたか?

 フランスでは、昨年10月末から1カ月ほどの間、移民を中心とした暴動事件が続いた。CNNやBBCをはじめとした英語圏のテレビ局は、1万台以上の車が放火され、多くの建物が破損攻撃を受けた様子を全世界に向けて連日報道した。暴動を1968年のフランスの反政府運動「五月革命」になぞらえたり、「パリ(あるいはフランス)は燃えているか」といった、第2次世界大戦末期、ヒットラーがパリ破壊をドイツ軍司令部に命じた言葉をもじった表現をテロップに多用した。

 フランスの24時間ニュースのテレビ局LCIのトップ、ジャン・クロード・ダシエー氏は、CNNなどの「アングロサクソン系」の海外メディアには事件の分析が少なく、暴動の様子も現実より大きく報道されていた、と指摘。報道は、パリ全体が暴動のために機能停止に陥っていたような印象を与えたかもしれないが、「実際には、生活はいつものように続いていた」。

 一方、英スカイ・ニュースの執行編集長ジョン・ライリー氏は、放火シーンをあまり大きく扱わなかったフランスの報道に驚き、「英国でもし同様の事件が起きていたら、二十四時間、執拗に放映し続けていただろう」と述べた。

 ダシエー氏は、「私達の仕事は、穏やかに、合理的に事件を扱うことであり、火に油を注ぐような報道はしない、と決めていた。ジャーナリズムのプロとして、状況を分析することに力を注いだ」。LCIのテレビクルーが暴動の中心地の一つに出掛けたところ若者たちに歓迎され、「良い映像をあげるよ」と言われ、眼前で車に放火したエピソードを紹介し、「メディアのために若者が放火行為をする流れを作ってはいけない、と思った」と反論した。

 LCIを初めとしたフランスのテレビ局は、暴動を悪化させたくないという政府の意向に沿うために報道を抑制したのではないか、という疑問が、米英メディアの参加者から出たが、ダシエー氏は、これを否定。「責任を持って報道することは重要」で、暴動状況を必要以上にセンセーショナルに扱えば、移民排斥を訴える「極右政治家たちに反移民キャンペーンの理由を与えることになる」と判断したという。「バランスの取れた報道をすることが必要だった」。

 LCI同様に、不必要と思われる放火シーンを放映しないことにした仏テレビ局アンテナ2のパトリック・ルコ氏は、当初、暴動の中心となったパリ郊外が「私たちの範疇外で、あまりなじみなかった」ので、暴動の衝撃が制作スタッフにぴんとこない部分もあった」と内部事情を披露。しかし、「パリは燃えているのか?それともメディアが行くからそうなのか?」を問うとき、「たいていは後者だった」、ので、メディアが事態を悪化させる流れは避けるべきだと考えた、と述べた。

 議論は米英メディアと仏メディアの正面からの対決の様相を見せた。

 「『バランスを考えて抑制した』というが、私たちが放映しないと、他のメディアが放映してしまう」「放火シーンを出さずに、どうやって大衆に何が起きているのかを知らせるのか?」という声が、CNNや英ITV,ロイターのジャーナリストらから出た。「絶対にフランス側はおかしい」というトーンがにじみ出た発言が続き、「報道の自由」、「表現の自由」を抑えるのは信じられない、という思いが伝わってきた。


 発生中の出来事を、メディア側が自己規制することなしに、そのまま伝えることこそが真のジャーナリズムと考える米英メディアの参加者の主張はフランス側には受け入れられず、議論は平行線となった。

 このセッションでは、24時間ニュース報道のありかたも考えさせてくれた。出来事を刻一刻とそのまま伝えるのがいいのか、24時間ニュースであるがゆえに出来事の発展に影響力も大きいのだから、一呼吸置いての報道がいいのか、どうか?だ。

 BBCのニュース部門のトップ、ヘレン・ボーデン氏は、24時間ニュースのチャンネルBBC24と、通常のチャンネルBBC1でのニュース報道とを比較した場合、「BBC1ではニュース情報の正確さに関して、視聴者の期待は高く、間違いは許されない。BBC24では、視聴者も心得ていて、私たちが出来事の発生を逐次伝えていることを知っているので、たとえ情報内容に後で間違いがあったことがわかっても、許容してくれる」と述べた。

 「ただ、24時間ニュースの場合、どこまでが事実で、どこまでが未確認情報なのかが、視聴者の目に明確に分かるように報道するようにしている」。

 現在、世界で24時間ニュースのテレビ局がいくつあるのか?

 会場内で正確な答えをあげる人はいなかったが、News Xchange側では75としている。

 セッション後に、汎欧州のテレビ局ユーロ・ニュースのニュース部門のディレクターで在フランスのルイ・リバ氏に、彼自身のフランスの状況分析を聞くと、「今回のフランスの暴動が1968年の反体制の動きと同じとするのは大げさ」と考えている、と述べた。仏メディアには国内報道機関としての役割と責任があったので、報道抑制をしたと分析。

 しかし、仏テレビ界の「抑える」報道姿勢は、海外ニュースになると事情が違ってくる、という。例えば、昨年8月、ハリケーン「カトリーナ」が米南部を襲ったとき、仏メディアは米国社会で貧困層がいかに苦しい生活を強いられているかにかなり力を入れて伝えていたという。「今回の議論の裏には、24時間ニュースでの、米英メディアと仏メディアの闘いの要素もあったと思う」。

 翌日の英ガーディアン紙は、「仏テレビのトップ、暴動報道を検閲したことを認める」という見出しのついた記事を掲載。仏側が暴動場面を「検閲」していたことイコール悪、という見方だ。

 米APオンラインは、「仏メディアはより少ない暴動映像を使用」とする記事で、仏テレビ界の抑制報道を伝えたが、それぞれのテレビ局に取材し、「放火映像の抑制は自己検閲になるのか、それとも報道に責任を持つことなのか」の判断を、読者に委ねる形をとっていた。〈続くー次回「中国報道」〉
by polimediauk | 2006-01-01 21:54 | 放送業界