小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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フリーペーパー その3

時間との闘いに勝つ「メトロ」

 イギリスの無料新聞メトロの成功要因の2つについて、若干補足したい。

 2003年冬、英タイムズが小型タブロイド判と通常の大型判との並行発行を開始して間もなくのこと。タイムズ紙のロバート・トムソン編集長がロンドンにある外国プレス協会を訪れ、ジャーナリストたちに、「ライバルはどの新聞か?」と聞かれた。

 トムソン編集長は少し考えた後で、「時間だ」といった。

 24時間のテレビ・ラジオ放送、インターネットでのニュース配信など
の例をあげ、「時間との闘いを常に意識している」と述べた。

 高級紙で最大の発行部数を誇るデイリー・テレグラフ紙などの名前があがるものと期待していたところに、やや意外な答えだった。また、「最新ニュース」でも発行日より一日前のニュースになる、という新聞の特性上、インターネットや24時間の報道番組を競争相手と見ているという答えは、若干の違和感も覚えた。

―短い時間で読める

 しかし、メトロの躍進を考えた時、トムソン編集長の言わんとしていることに、納得がいった。

 忙しい現代人から、「新聞を読む時間」をどれだけ引き出せるか?に、どの新聞もしのぎを削っている。朝食も取らないままで家を飛び出しているかもしれない通勤客が、立ったままあるいは座席についてぼうっとしている短い時間にメトロに目を落とす。朝の貴重な10-20分を確保することにメトロは成功した。

 タイムズがタブロイド判を発行したのも、この「10-20分」のスロットに、メトロでなくてタイムズが食い込むことを願っていたのだった。

―インターネットとメトロ

 また、無料だからという点が唯一の条件ではないのだが、ニュースは無料で読むもの、というネット環境に慣れた人にとっては、メトロはいかにもぴったりだった。

―日本ではどうなる?

 メトロの大きな強みは、コミュニティー・ニュース、宣伝広告記事でなく(そういう記事もある が)、あくまで、既存の有料一般紙と同じ紙面構成、同じニュースを扱っている点だ。つまり、既存紙のライバルともなり得る点だ。

 日本で同様の無料新聞が出たら?おそらく、新聞業界の抵抗はかなり大きいのではないだろうか。

 本場ロンドンでは、メトロの既存紙への影響はどうなっているのだろうか?〔続く〕


by polimediauk | 2005-01-17 01:10 | 新聞業界