12月の英新聞発行部数
軒並み減少
12月のイギリスの新聞の発行部数が、14日出た。部数調査をしているABC(http://www.abc.org.uk/)によると、タブロイド紙、高級紙を含めた全13紙の平均発行部数は、11月に比べると2・48%減の約1200万部だった(ちなみに、イギリスの人口は約6000万。)前年同月比でも3%減。
12月は、1年の中でも新聞の発行部数がかんばしくない月とされているものの、イギリスの新聞の発行部数は長期の下落傾向にある。タブロイド判になった高級紙のタイムズとインディペンデントは月間比で部数増加がしばらく続いてきたが、頭打ちになってきたようだ。
しかし、だからといって、タブロイド判の威力がなくなったわけではない。
前年比で比べると、インディペンデントが6・2%増、タイムズが2.5%増。すでに昨年12月にはタブロイド判を発行していたので、随分伸びたことになる。
このそれぞれの数字は、一見あまり大きくないかのように思えるかもしれない。
しかし、タブロイド判を出していない高級紙と比較すると、差が際立つ。大判サイズのままの高級紙は、部数が落ちっぱなしだからだ。特にガーディアンの落ちが目立つ。前月比では4.6%減、前年比では4%減となっている。
ガーディアンのアラン・ラスブリジャー編集長は、タブロイド判になったインディペンデント紙が、「センセーショナルなタブロイド・ジャーナリズムの方向に流れつつある」、と厳しく批判している。
ジャーナリズムを論じる学者、マスコミ評論家に受けはよく、私自身も真実をついた批判だとは思うが、やはり、部数が伸びていないと、「自分のところはどうするつもりだ?」と追求されてしまうだろう。(答えは、「2006年にはタブロイド判より縦に細長いベルリナー型を出す」、ということなのだが。)
昨年7月から12月までの半年間を、その前の半年と比較すると、インディペンデントは15%増、タイムズは4・3%増。他紙はすべてマイナスとなった。
イギリス国内よりも海外で多く売れている(40数万部の内、10数万部が国内と言われている)ファイナンシャル・タイムズは若干(0・6%)増。しかし、前年比では4・4%減だ。
各紙の規模を見るため、12月の高級紙の部数をあげてみると、最大がデイリー・テレグラフの約90万部、タイムズが約68万部、ファイナンシャル・タイムズが42万部、ガーディアンが約37万部、インディペンデントが約25万部、ヘラルド紙が7万7千部、スコッツマンが6万4千部となっている。
高級紙はブロードシート紙、あるいはクオリティー・ペーパーと呼ばれているが、合計では約270万部だった。
扇情的記事が多い、いわゆるタブロイド紙は、高級紙の3倍以上の発行部数を持つ。サンが約310万部、デイリー・メールが230万部、デイリー・ミラーが170万部、デイリー・エクスプレスが89万部、デイリー・スターが81万部、デイリー・レコードが45万部で、合計で900万部ほどになる。
タブロイド紙で、最近落ちがひどいのがデイリー・ミラーだ。過去1年間で見ると20万部落ちている。11月と比べると2・7%減だが、1年前と比較すると10%減。
デイリー・ミラーは、昨年、イラクのアブグレイブ刑務所での米軍によるイラク人囚人虐待が明るみに出た直後、「英兵もイラク人を虐待していた!」とする記事、写真を掲載した。英兵がイラク人に尿をひっかけている写真が1面を飾った。
しかし、後にこれが真実の写真ではないことが発覚し、編集長ピアース・モーガン氏は解雇された。この写真事件がまだ尾を引いているという見方がある。
イラク戦争開戦に反対する国民が多かったため、部数上昇を狙ったモーガン編集長は強い反戦、反ブレアを紙面に出していた。しかし、部数は落ち続け、編集長交代後の現在も歯止めがかかっていない。
フリーペーパーのメトロも、12月は全体で前月より0・7%減。しかし、年間で比較すると、昨年の同月より12・4%伸び、全体の発行部数は約100万部となった。このうち、49万部はロンドン地区で、前年同月比で9%の伸び。
有料新聞業界全体が大きな停滞傾向にある中で、メトロが目立って伸びている、という状況が見えてくる。
(毎月の数字は次の月の半ばごろに発表される。詳細が知りたい場合は、ABCのウエブサイトから、PR会社の担当者にその旨を伝えると、PDFファイルを送ってくれる。メトロは通常の新聞とは別ファイルになるので、「メトロの数字も欲しい」とリクエストする。)