小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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NEWS XCHANGE 放送会議報告―4  国際ニュースの新参者



 自国像を自分たちの手で伝えたい

 最後に、今年から本格的な放映開始予定の新たなニュース専門局の状況を紹介したい。

 中東諸国を中心に世界で四千万の視聴者を持つといわれる、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラは、2006年春をめどに英語放送を開始する。このために立ち上げられたアルジャジーラ・インターナショナル社のナイジェル・パーソンズ社長は、NEWS XCHANGEの場で、9年前に始まったアラビア語放送のアルジャジーラが英語放送を開始するのは「自然な流れだった」と説明。「異なるプリズムから世界の事象を見るテレビ局」としてのアルジャジーラは、アラビア語のみであるがゆえに、アラビア語を理解しない多くの視聴者層を逃している、という現実があったという。アラビア語放送とは異なるスタジオを使い、カタールの首都ドーハに本社を置きながらも、ロンドン、クアラルンプール、ワシントンの支局を通じて番組を制作していく、と述べた。

 英語放送の特色としては、欧米メディアとは「異なる視点」を提供できる、とした。

 衛星放送でリンクした画面からは、新設予定の英語でのテレビ放送ロシア・ツデーのトップ、マルガリータ・シモニャン氏が参加(注:2005年12月放映が開始)した。テレビ局の特徴は、アルジャジーラの英語版の特徴と重なるが、やはり「既存メディアとは異なる角度から見たロシア」を出したい、ということだ。シモニャン氏は、「西欧のメディアで描かれたロシア像には、いつも驚く。実像とはかなり違う」という。「客観的に見たロシアを見せたい。反体制ではなく、政府寄りでもない。客観的な立場を維持する」。

 会場内からは、メディア抑制策をとっているといわれるプーチン・ロシア大統領の下で、真に客観的な報道ができるのか?という質問が続いた。ロシア・ツデーは、資金の半分は民間からの投資だが、残りの半分は政府からのローンでまかなうため、ことさら報道の客観性に関しての疑問の声が上がったのだった。シモニャン氏は、「編集上の自由は完全にある」とし、政権に都合の悪い情報は隠されているとされる、2004年9月のロシア南部・北オセチヤ共和国ベスランの学校占拠事件など扱う際にも、良い面も悪い面も同時に報道すると、述べた。

 ロシア・ツデーの潜在視聴者はロシアに興味を持っている人やビジネスに関わる人々だ。

 ラテンアメリカでも同様の動きがある。ラテンアメリカの4カ国が資金を出して設立された、ベネズエラに本拠を置くテルスールだ。70%の資金は政府からくるが、「1つの政権からの支援ではないので、編集上の独立は保てる」とアンドレス・イザーラ氏は、電話インタビューの中で語った。ここでも、政府が資金繰りに関わっているため、「報道の独立性がないのではないか?」との質問が会場内から出た。在ベネズエラであるため、反米なのか、と聞かれた。

 イザーラ氏は、「テルスールの視点は、反米ではない。ラテン・アメリカ全体の視点を伝えること、市民に十分な情報を与えることが目的だ。他の国のメディアを通してでなく、自分たちの目で見て、自分たちの現実を自分たちが伝えることだ」。

 政府の編集権への介入が議論の中心になっていく中でメディア報道を分析する米「メディアチャネル」を主催するダニー・シェクター氏は、「政府ばかりを問題にするのはどうだろうか」と疑問を呈する。2003年のイラク戦争開戦までの過程で、大企業がメディアを運営していた国では、十分な検証が行われなかったのではないか」、と述べ、暗に米国メディアを批判した。

  フランスでも米CNNのフランス語版ともいういべきニュース専門のテレビ局「仏国際情報チャンネル」(CFII)が発足し、2006年末までに放映開始予定だ。公共のフランステレビジョンと民間テレビ局とが共同で設立。目的は「米英メディア以外のもう一つの視点」を出すためだ。フランス語、英語、スペイン語での放送となる。

 ナイジェリア出身で映像提供会社カメラピックスの代表でもあるサリン・アミ氏は、「アフリカで自分たちの現実を自分たちで伝える人はいない。自分たち自身のことを自分たちで仕えるテレビ局を作りたい」と、設立準備のためのグループを結成することを述べた。

 インドのニュース・チャンネルTV18の設立者ラジディープ・サルデサイ氏によると、 「現在、インドには32のニュース専門のテレビ局がある。おかげで、毎日のように『スクープ』が目白押しだ」。10年ほど前までは、インドでは政府がニュースの統制をしていたという。「現在はたくさん新しいチャンネルができているので、政治家は毎日のようにメディアに質問を受ける。メディアが大きな力を持ってきた」。

 チャンネルTV18では制作スタッフの平均年齢が20歳から30歳代で若く、インドのニュース・チャンネルが「新たな、若いメディア」となって大きくなっている、と報告した。

 CNNやBBCなど、他国のメディアによる自国像ではなく、自分たち自身で自国の現状を伝えたい、という思いが、どの新規参入テレビ局からも感じられた。いずれも米英系メディアがカバーしきれていない「自国の本当の姿」を出すことを目玉にしているが、会議中に幾度となく浮かび上がった「米英メディアの限界」を、ある意味では裏付けるようにも思えた。〈終わり〉
by polimediauk | 2006-01-05 04:03 | 放送業界