小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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CIA秘密収容所疑惑とスイス


スクープ記事を出した新聞が調査下に

 CIAが「ブラック・サイト」とも呼ばれる秘密の収容所を世界中に設置し、テロ容疑者などを米国の法律が適用されない海外の国―東欧や中東などーに移送し、そこで拷問を含めた尋問をしているのでは?という疑惑が、昨年11月上旬、米新聞で報道されてから2ヶ月ほどが経った。

 米政権は自国の情報機関の活動は合法、としている。テロ容疑者を海外移送している点に関しては否定していないものの、拷問されているとする説は拒絶している。ライス国務長官は、米国の全尋問官は、米国内外において、国連の拷問禁止条約を遵守している、と述べている。

 12月13日、欧州各国が作る人権問題などの協議機関、欧州会議が、CIA運営の秘密収容所疑惑に関し、調査の結果、疑惑は信憑性を増した、とする見解を発表。このときの調査を担当したのがスイス人のディック・マルティー氏だった。スイスの右派急進民主党に所属する国会議員でもある。

 スイス放送協会の国際部門「スイスインフォ/スイス国際放送(SRI)」が、マルティー氏へのインタビューを試みている。http://www.swissinfo.org/sja/swissinfo.html?siteSect=105&sid=6364763 (日本語)

 この中で、氏は、CIA秘密収容所疑惑の調査結果をなるべく多くの人に知ってもらいたいと思っていると語っている。「無実かもしれない人が、違法に拘束され、移送され、拷問されているかもしれない状況をほうっておいて、何の法治国家の意味があるでしょう?」

 「人権侵害に関していえば、どんな理由にしろ、例外を認めるべきではありません。テロであれ、暴力であれ、法治国家の政府である限り、私達は法律に基づいて事を進めるべきです」。

 インタビューは、マルティノ氏の人柄も紹介している。

 一方、8日、スイスの日曜紙「SonntagsBlick」が、スイスの情報機関が傍受した、ある極秘ファックスの内容を掲載。これがCIAの秘密収容所がルーマニアにある「証拠」だ、としている。中身は、エジプト外相がロンドのエジプト大使館に、昨年11月送ったもので、海外から移送された「アルカイダ容疑者を尋問するためにCIAが運営している」、在ルーマニアの収容所に関して触れている。そして、同様の収容所がブルガリア、コソボ、マケドニア、ウクライナにある、としていた。

 この極秘ファックスに関し、スイス政府は情報局が取得したものであることを認めたようだが、日曜紙の報道の翌日となる9日、スイスの国防相が、極秘情報が何故日曜紙に漏れたのかに関して調査を開始することを指示した、という。APやドイツの通信社が報じた内容を、米国人ジャーナリストらが中心になって運営しているCommittee to Protect Jouranlsitsが、まとめてウエブ上に掲載した。http://www.cpj.org/news/2006/europe/switzer10jan06na.html

 これによると、スイス国防相の広報官の話として、国防相は極秘情報が公開された経過に関して調査を指示し、政府がSonntagsBlick紙を訴える可能性もある、としている。

 軍事上の機密を出版したとする疑いで、新聞のGrenacher編集長と記事を書いた二人のジャーナリストを調査中だ。

 在ワシントンのスイス大使館広報官によると、もしスイスの軍事法をおかしたということで有罪となれば、5年間の禁固刑もありうるという。

 編集長は声明文を発表し、ファックス内容の出版の責任は自分にあるとして、国家の安全保障の観点よりも公開することで大衆の利にかなうことを重要視したと述べた。
by polimediauk | 2006-01-11 20:37 | 欧州のメディア