小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

ウクライナ戦争、どうなる? なぜウクライナは北大西洋条約機構(NATO)に加盟できていないのか

パリの緊急会合の達成度は?

 2月17日、パリに欧州主要国の首脳陣が集まり、ウクライナ戦争への今後の対応について話す緊急会合が開催された。トランプ米政権の主導によって米国とロシアがウクライナ戦争の停戦交渉を始める前に、欧州としての統一的な態勢を固めることを目的としたが、「対ロシアに向けて国防費を増やす」、「防衛力を高める」ことでは一致したものの、将来的にウクライナへの派兵があるのかどうかについては、合意が得られなかった。

 翌18日には、米国とロシアの外相などがサウジアラビアに集まった。3年前、ロシアによるウクライナ侵攻で始まったウクライナ戦争以来、米ロの関係は悪化していたが、これを修復・改善することが目的だという。しかし、議題の1つはウクライナ戦争の行方であり、事実上の停戦交渉の始まりとして理解されている。当事国ウクライナも、ウクライナを支援してきた欧州主要国側も招かれていない。

 ウクライナはもともとは西欧の軍事同盟として始まった北大西洋条約機構(NATO)への加入を望んできた。ウクライナ戦争開始以降、ウクライナ・ゼレンスキー大統領の悲願の1つとなった。

 ウクライナがNATO加盟を強く望んでいるのは、加盟国になると集団防衛のルールが適用され、加盟している欧州主要国が強力な武器を使ってロシアに反撃することが可能になるからだ。こうして、ウクライナはロシアの脅威を跳ね返すことができる・・・はずである。

 しかし、現時点でウクライナの加盟は実現性が低いと見られている。

 なぜなのか?

 改めて論点を整理してみたい。


NATOの結成はいつ?

 1949年、ワシントンDCで12カ国によって結成された。ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、アイスランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、英国、米国がそのメンバーだった。現在は欧州と北米にまたがる32カ国。

目的は?

 主な目的は、旧ソビエト連邦(ロシアを含む共産主義共和国のグループ)による欧州での拡張を阻止すること。NATO条約・5条によると、いずれかの加盟国が攻撃された場合、他の加盟国が防衛に協力する。


軍隊は?派兵の歴史は?

 NATOは独自の軍隊を持たない。

 しかし、加盟国での紛争以外でも、危機に対応して集団的な軍事行動をとる場合がある。旧ユーゴスラビア紛争(1992年から2004年)では、国連を支援する形で介入した。軍事計画の調整や合同軍事演習も実施している。


加盟国の位置は?

 現在は設立当初の12カ国に加え、後に加盟した20カ国が加わって32カ国に。

 日本は加盟国ではないが「パートナー国」という位置づけである。昨年7月には、岸田首相(当時)がNATO首脳会合のパートナーセッションに出席した。

 以下の拡大図は外務省資料による。

(外務省のPDF資料からキャプチャー)
(外務省のPDF資料からキャプチャー)

西側の同盟が東に拡大

 1991年のソ連崩壊後、アルバニア、ブルガリア、チェコ共和国、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロバキアなど多くの東欧諸国が加盟した。

 西欧+米国の軍事同盟が、1990年代以降、東側に拡大している。 

 東方拡大がより分かりやすいのが、以下のBBCニュース掲載の図である。

(BBCのウェブサイトよりキャプチャー)
(BBCのウェブサイトよりキャプチャー)

 創設メンバー12カ国は濃い赤、1950年から1996年の間に加盟した国は薄い赤、1997年から2022年に加盟した国は濃いピンク、2022年以降に加盟したスウェーデンとフィンランドは薄いピンクになっている。

 黄色のウクライナは加盟申請中の3カ国(ほかはボスニア・ヘルツェゴビナとグルジア)のうちの1つである。

 ロシアを含む非加盟国は白で表示されている。

 ロシアと国境を接するフィンランドは、2023年4月に加盟し、スウェーデンは2024年3月に加盟。ウクライナ戦争の勃発がきっかけだ。


なぜウクライナは加盟していないのか?

 まず、ロシアが反対していることが挙げられる。西側の軍事同盟の東方拡大はロシアにとっては脅威となる。1999年にポーランド・チェコ・ハンガリーが、2004年にバルト3国などが正式に加盟するなど、東方拡大が進み、ロシアでは警戒感が強まった。プーチン大統領は東方拡大がロシアの勢力圏を侵すものと見ている。

 NATO指導部は、ウクライナの加盟でロシアが欧州の安全保障を脅かす軍事行動に出ることを恐れた。

 また、汚職が根深いウクライナの政治体制が、NATOが求める民主主義体制の基準を満たしていないと見られている。


ウクライナのNATO加盟に進展はあったのか?

 2008年、NATOはウクライナが最終的に加盟する可能性があると述べている。

 ウクライナ戦争開始から約1年後の2023年5月、ストルテンベルグ前NATO事務総長は、ゼレンスキー大統領に対し、ウクライナは「長期的には」加盟できるが、戦争が終結するまでは不可能と伝えている。

 今年2月12日、ヘグセス米国防長官はウクライナの加盟が現実的ではないと述べて、ウクライナを失望させた。スウェーデンのジョンソン国防相は、加盟の可能性は「ゼロではない」と主張したが、今のところ、凍結中だ。

 それでも、NATOはウクライナ支援として、ウクライナ軍の組織改革の支援や訓練を通した人材育成、加盟国による兵器の供与などを行っている。


by polimediauk | 2025-02-25 19:26 | 政治とメディア