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小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

80周年の欧州戦勝記念日 英国から 夏には対日戦勝記念イベントも

 「メディア展望」(新聞通信調査会発行)5月号の筆者記事に補足しました。

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 今年は第2次大戦終了から80周年を迎える。勝利した連合国側にいたのか、それとも敗退の枢軸国側にいたのかでこの年をどう記念するかが変わってきそうだ。

 欧州の複数の国では毎年5月8日を連合国側の勝利を記念する「欧州戦勝記念日」(通称「VEデー」=Victory in Europe Day)とし、さまざまな祝典を開催してきた。

 この日が選ばれたのは、1945年5月8日、ベルリンでドイツのヴィルヘルム・カイテル元帥が全面降伏文書に署名し、欧州における第2次大戦が終わりを告げたことに由来する。ただし、欧州で完全に戦闘が終結したのは、独ソ間の「プラハの戦い」が終わる5月11日である。

 時差の関係から、ロシア(旧ソ連)では5月9日が対独戦勝記念日となっており、カザフスタン、ベラルーシなど多くの旧ソ連諸国もこの日を対独戦勝記念日とする。

 ドイツでは、5月8日が終戦記念日である。

 ドイツとともに枢軸国側だったイタリアでは、4月25日が「イタリア解放記念日」で、事実上の終戦記念日となる。1945年のこの日、ドイツ軍に占領されていた地域が解放され、「ナチス・ドイツとファシスト政権からの解放」を祝う日として定められた。


対日戦勝記念日

 欧州諸国では1945年5月で終戦となったが、米国からすると太平洋戦争がまだ続いていた。日本がポツダム宣言の受諾によって無条件降伏を決定したのは8月14日であり、日本の終戦記念日は周知のように翌15日である。

 米国では、トルーマン大統領が戦闘終結を8月14日に発表しているが、戦勝記念日は9月2日になる。東京湾上に停泊させた米戦艦「ミズーリ」において降伏文書の調印が行われた日だ。この日は「対日戦勝記念日(「VJデー」=Victory over Japan Day)」とも呼ばれる。

 筆者が住む英国では、8月15日がVJデーになる。在英日本人にとってこの日は少々居心地が悪い。英国でのVEデー及びVJデーの催事を紹介しながら、戦争に勝った国と負けた国の受け止め方がいかに異なるかを考えてみたい。


国を挙げて祝う、英国のVEデー

 80周年のVEデーに向けて、英国では5月5日から4日間、国を挙げての式典やイベントが開催された。初日にはロンドンの中心地ホワイトホールからバッキンガム宮殿に向かう軍事パレード、空軍機の儀礼飛行が行われ、通りは国旗を持った人々でいっぱいになった。

 6日にはロンドン塔でセラミック製の赤いポピーの花のインスタレーションが公開された。赤いポピーは戦死者追悼の象徴である。翌7日にはウェストミンスター宮殿にあるウェストミンスター・ホールでコンサートが開かれ、最終日8日にはウェストミンスター寺院で記念ミサが行われた。

この数日間、英国民は「ストリートパーティー」の開催を奨励される。路上に長テーブルを並べ、人々が料理やお菓子を持ち寄って交流する集まりだ。紙製国旗、国旗をモチーフとするナプキンやテーブル・クロス、帽子などがお目見えした。

政府は80周年を記念するウェブサイトを特設している。VEデー及びVJデーを「英国および英連邦の第2次大戦世代を称え、敬意を表するために、「国民が一堂に会する機会」と定義し、国民が参加できるイベントの情報を掲載している。

 文化・メディア・スポーツ省の支援を受けて、帝国戦争博物館は戦時中に家族が前線の兵士に送った手紙を募集し、これをもとにパフォーマンスが行われた。教育現場では元兵士からの体験談を子供たちに伝えるプログラムを実施。いずれも80年前の戦争の記憶を次の世代に継承していく試みである。


VJデーはどうなる?

 VJデーに特化したイベントの詳細も今後発表されていくが、その1つとして国立記念植物園で英国在郷軍人会連盟による式典が開催される予定だ。5年前、同植物園で開催された75周年の式典にはチャールズ皇太子(現国王)が出席している。日本軍による強制労働で多くの連合軍捕虜が犠牲になった泰緬鉄道工事の犠牲者をしのぶ慰霊碑に花輪を捧げた。

 日英両国は1902年に日英同盟を結び良好な関係を維持したが、第2次大戦では戦火を交えた。英政府によると、約5万人の英兵が旧日本軍の捕虜となり、約1万2千人が過酷な扱いなどで死亡した。1998年、上皇后ご夫妻の訪英時には、日本に抗議の意を示すため元捕虜たちがロンドン市内を馬車で進むご夫妻に背を向けるデモを決行した。

 昨年6月には天皇皇后両陛下が国際親善のため英国を訪れた。直前の記者会見で天皇陛下は「過去の歴史に対する理解を深め、平和を愛する心を育んでいくことが大切」と語り、訪英中には陛下とチャールズ国王は互いに日英の最高勲章を贈りあった。現在の日英友好の絆を示す印といえよう。

 しかし、英国では大戦の終結となったVJデーを祝う伝統は継続している。帝国戦争博物館のウェブサイトに掲載されているVJデーを喜び合う写真や映像を目にするとき、悲しく、つらい思いをしない日本人はいないのではないか。

画像は

映像は


東京大空襲のルメイの本

 大戦中に米陸軍航空軍の将軍として東京大空襲を指揮したカーティス・ルメイの伝記 「東京大空襲を指揮した男 カーティス・ルメイ」(ハヤカワ新書)の著者で学習院大学文学部教授の上岡伸雄氏が朝日新聞のインタビュー記事(4月9日付)でこう述べている。

 東京大空襲を実行した人物として「残忍なサディストというイメージ」があるが、「合理的で現実的な人」だったことが分かったという。「少しでも早く戦争を終わらせるよう合理的な方法を採る。それが『民間人にある程度の死傷者を出すことなく戦争に勝つことはできない』という考え」につながった、と説明する。「ルメイが特別な悪魔というわけではなく、それが戦争だということなのでしょう」。

 日本政府は1964年、航空自衛隊発展の功績でルメイに勲一等旭日大綬章を授けた。市民団体らが政府に対し、叙勲の取り消しを求めている。

 今も世界中で戦争や紛争が続いている。「『自分が絶対に正しいとは限らない』という心を誰もが持たなければならないと思います」という上岡教授の言葉をかみしめたくなる昨今だ。


by polimediauk | 2025-06-03 23:39 | 英国事情