BBCの現在 年次報告書発表、存在感示すも相次ぐ問題
日本新聞協会発行の新聞協会報(8月26日付号)に掲載された、筆者コラム「英国発メディア事情」に補足しました。
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英公共放送最大手BBCが7月15日、2024年度の年次報告書を発表した。これによるとBBCコンテンツのデジタル視聴は継続して増え、オンデマンドサービス「BBCアイプレイヤー」への番組視聴申請件数は前年度比約10%増の89億件。
国内の視聴者の94%がBBCを毎月利用し、最も頻繁に使われたニュース・アプリは「BBCニュース」だった。国際ニュースの「BBCワールドサービス」も週に4億5300万人の利用者にリーチしており、国内外でのBBCの圧倒的な存在感を示した。
一方、BBCの内情は楽観できない。赤字解消に苦心しているほか、視聴者の信頼を損ねる事例も発生している。
赤字解消に苦心
グループの収入は主に二つの財源で成り立つ。国内向け放送・配信サービスを賄う受信料収入が38億4300万ポンド(約7667億円)、商業部門の売り上げや政府交付金などが20億5700万ポンド。合計は59億ポンドだった。
受信料収入は、昨年4月から年額が5ポンド引き上げられ174.50ポンドになったことで微増したが、支払い件数は2380万件(前年比1%減)にとどまった。支出は60億3200万ポンド。1億3200万ポンドの営業損失を計上した。
BBCは2028年3月までに7億ポンドの経費削減を目標に掲げる。希望退職による公共サービス部門の人員削減や商業部門収入の増加もあって、損失幅は前年度から大きく縮小。ただし、職員数は2万1773人で前年とほぼ同水準だ。
BBCワールドの運営費の一部は政府交付金によるが、来年度の支給額は2300万ポンド増の1億3700万ポンドになる見込みで、赤字圧縮に寄与するとみられる。
人材面では、男女比を半数ずつとする目標を全職員と管理職層で実現した。ただし、人種的少数者、障がい者、低所得者層の雇用はいずれも設定目標(20%、12%、25%)には届かなかった。
毎年BBCの年次報告書が発表されると、英国内で最も注目を集めるのが高額報酬者のリストである。かつてBBCの人気司会者に過度な報酬が支払われていると報じられて批判が高まったことを受け、2017年以降は一定額以上の所得を得る出演者の氏名と報酬額の幅を公表するようになった。今年度のトップは、サッカー解説番組の司会を務める元イングランド代表選手のゲイリー・リネカーで、報酬額は135万ポンドだった。
ちなみに、5月、リネカーは「反ユダヤ的投稿を共有した」一件で、番組を降版した。
信頼を取り戻せるか
BBCの存立を定める王立憲章は約10年ごとに更新されてきた、現行分は2027年末に失効する。更新に向け、視聴者からの信頼獲得が最大の鍵を握る。ところが、これを揺るがす出来事が相次いだ。サミル・シャーBBC理事長が年次報告書で「信頼を失った」案件として挙げたのが、2月に放送されたパレスチナ・ガザ地区のドキュメンタリー番組「ガザ:戦闘地帯で生き延びる方法」である。
2023年10月のイスラム組織ハマスとパレスチナ武装勢力によるイスラエル襲撃以降、イスラエルが支配するガザ地区では外国メディアの取材が許されていない。このため番組は現地在住の13歳の少年をナレーターに据えた。番組は高く評価されたが、その後この少年の父親がハマス幹部であることが判明。外部の制作会社は父親がガザ政府の農業次官を務めていることを把握していたが、BBCに伝わっていなかった。不偏不党を掲げるBBCが視聴者に事実を明示しなかったことは大きな批判を呼んだ。
年次報告書発表の前日、BBCは番組についての調査結果を公表。編集ガイドラインで定められた正確性の基準に違反していたとの結論を示した。一方で、「ナレーターの父親や家族が番組内容に影響を与えた証拠は確認されなかった」とも付記した。
同時に、別の調査結果も公表された。アマチュア料理人が腕を競う人気番組「マスターシェフ」の司会者2人に多数の性的言動や人種差別的発言があったとする疑惑が調査対象となり、その多くが事実と認定された。両者は契約を解除されたものの、BBCは8月上旬に番組の放送継続を決定。主力チャンネル「BBC1」で毎週3日、ゴールデンタイムに放送中だ。
BBCのメディア記者ケイティ・ラザル氏は、2つの調査結果が発表された当日に掲載した記事の末尾でこう記している。
BBCコンテンツの最終責任者であるディレクター・ジェネラル、ティム・デイビー氏の最大の任務は「王立憲章の更新を確実にすること」である。BBCにはその正当性を訴えるに足る根拠があるが、「難題は、BBCの将来を力強く訴えても相次ぐ危機の喧騒にかき消され、世に届かない点だ」。
果たしてBBCは信頼感を取り戻せるだろうか。




