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小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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英ポッドキャスト リトアニア元外相「『真珠湾ショック』にはまだ至らず」バルト諸国に迫るロシアの脅威

 今月に入って、ポーランドやルーマニアでロシアの無人機による領空侵犯が相次いでいる。18日にはエストニアがターゲットになった。ロシアの戦闘機「ミグ31」が、12分間にわたってバルト海上空のエストニア領空を侵犯したのである。

 ロシアは国連で意図的な侵攻を否定し、無人機がポーランド領空に誤って侵入した可能性や電子妨害によるものだと主張した。しかし、ポーランドのドナルド・トゥスク首相はこれを「空想」だと一蹴している。

 緊張感が高まるバルト諸国の1つが、リトアニア(人口約280万人)である。その対ロシアの現況について、英フィナンシャル・タイムズ紙のギデオン・ラックマン記者がリトアニアの元外相ガブリエリウス・ランズベルギス氏にインタビューした。インタビューのポッドキャスト「ラックマン・レビュー」(9月18日配信)から、概要を紹介したい。


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リトアニアとは:首都ヴィリニュス。18世紀以降、ロシア帝国の一部となった。1917年のロシア革命によりロシア帝国が崩壊し、1918年にリトアニアは独立を宣言。しかし1922年にソヴィエト連邦が成立し、1940年にソ連に併合された。1990年、独立回復宣言。2004年3月、NATOに加盟。2004年5月、EU加盟。

ランズベルギス氏の経歴:43歳。旧ソ連内のリトアニア・ヴィリニュス生まれ。祖父はリトアニア独立運動を主導した音楽学者ヴィータウタス・ランズベルギス。元欧州議会議員。2020ー2024年までリトアニアの外相。今年9月からスタンフォード大学国際安全保障協力センター (CISAC) 客員研究員。

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「自分の家には来ないだろうとずっと思ってきた」

 ロシアがウクライナの次に武力攻撃をかけてくるのではないかといわれているのがバルト諸国である。その脅威はどれほど現実的なものなのか。

 ガブリエリウス・ランズベルギス元外相は「非常に心配な状況」だという。「熊や虎が逃げ出して、どれほど隣の家を荒らしても、自分の家には来ないだろうとずっと思ってきたのだが」。

 ウクライナやロシア周辺のポーランド、バルト諸国は地理的に近く、「ポーランドで起こったことはすべて、リトアニアやこの地域の他の国でも起こり得る」。ポーランドが安全保障を厳格化するために手段を講じようとしているが、「ほかの国もこれにならうべき。実際、いつ同じ状況に陥るかわからない」。


ロシアの無人機攻撃とNATOの対応

 「無人機による領空侵犯は、ロシアがNATOを試す行為なのではないか」という問いにランズベルギス氏は同意する。

 9月12日、NATOのルッテ事務総長はNATOの東方防衛を強化する新たな枠組みを設けることを発表した。北極海から黒海や地中海にわたるNATO東部全域を対象とし、英仏独やデンマークが新たに戦闘機や防空装備などを東方諸国に提供する計画である。

 しかし、ランズベルギス氏は今回の領空侵犯が「NATOが無人機攻撃に対抗する準備ができていないことを示した」と失望感を示した。

 ロシアの無人機を数機撃墜するのに800万ドル(約11億円)ほどかかると言われているが、無人機自体の費用はそのほんの一部で、費用が見合わない点もあったようである。

 ランズベルギス氏によれば、「NATO加盟国にとって、低空を飛行する小型無人機の脅威は依然として深刻だ。現行の防空レーダーは、その多くが鳥とドローンを識別できず、熱反応の類似性により誤認が生じやすい。結果として、同盟国の領空は依然として不安定な状況に晒されている。ポーランドに戦闘機を展開するというNATOの動きは一定の抑止力を持つが、根本的な解決策には程遠い」。同氏は、必要とされているのは、既存の枠組みを超える新たな防空技術の導入だという。


ウクライナの防空技術革新

 当初、ウクライナはNATOに対して「制空権の確保」や「先進的防空システムの供与」を強く要請していた。しかし、長期化した戦争の過程で、実戦経験を通じ独自の統合防空網を発展させ、小型無人機迎撃能力や航空優勢の一部確保に成功している。かつては支援を受ける立場にあったウクライナが、今やNATO諸国にとって「防空分野の供給源」となりつつある。西側諸国は、もはやウクライナに対し「自国の空域を守ってくれ」と依頼する段階に入りつつある。

 こうした逆説的な構図は、NATOの防空体制の脆弱性を浮き彫りにするものとランズベルギス氏は見る。「NATOが航空優勢を確保し、領空を防護するためには、ウクライナが培った実戦技術を取り込み、統合防空網の刷新を図ることが急務となっている」。


リトアニアを取り巻く地政学的脅威

 リトアニアは親ロシアのベラルーシと国境を接する。首都ヴィリニュスから車で30分もあればついてしまう近さがある。ウクライナ戦争ではロシア軍がベラルーシを拠点として利用し、実際にウクライナ侵攻に利用した。

リトアニアとその周辺の地図。政府はリトアニアの首都「ヴィリニュス(Vilnius)」を「ビリニュス」と表記する(外務省サイトより、キャプチャー)
リトアニアとその周辺の地図。政府はリトアニアの首都「ヴィリニュス(Vilnius)」を「ビリニュス」と表記する(外務省サイトより、キャプチャー)

 こうした状況の下、ランズベルギス氏は国防強化を主張し続けている。「私はNATOの第5条(集団防衛義務)や同盟国の約束を疑う立場にはない」。しかし「ロシアの意図が変わっておらず、むしろ拡大しているので、最前線に位置する国々は可能な限り自らを強化するためにあらゆることを行うべきである」。

 「最悪の場合、ロシアは無人機さえも必要とせず、国境の向こうから榴弾砲でリトアニアを攻撃できる。部隊を進入させる必要すらない」。


ベラルーシの原発

 ランズベルギス氏はベラルーシにあるオストロヴェツ原子力発電所の存在にも危機感を示す。

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 オストロヴェツ原子力発電所(アストラヴェツ原発とも呼ばれる)は、ベラルーシ北西部、グロドノ州オストロヴェツ市から18キロ、リトアニアの首都ヴィリニュスからわずか40-50キロの距離にある。ロシアの国営原子力企業ロスアトムの輸出部門アトムストロイエクスポルトが供給した2基のVVER-1200原子炉。

 1号機は2020年11月に送電網に接続され、2号機は2023年5月に送電網に接続、2023年11月に商業運転開始。2基でベラルーシの電力需要の約40%を満たす。

 リトアニアの安全保障上の懸念とは、まずその地理的近接性だ。リトアニア外務省は、ヴィリニュスからわずか40キロという立地が核安全要件の重要な原則に違反していると指摘している。リトアニアは当初から安全性に深刻な懸念を表明し、自然災害への耐性や国際安全基準への適合性に疑問を呈している。この原発施設が軍事装備の配備拠点として利用される可能性もある。

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 「ロシアの支援を受けて最近建設された原子力発電所の存在も懸念だ。もしその原発施設内に一部の装備を配備すれば、首都まで射程に収めることが可能になる。最大限の抑止力を備えなければならない」。


カリーニングラードの核脅威

 リトアニアの状況を複雑にしているのは、ロシアの飛び地カリーニングラードの存在である(上記地図では、リトアニア西部に位置する「ロシア」とされた部分)。

 カリーニングラードはリトアニア、ポーランドに挟まれた軍事都市である。もしロシアがリトアニアに侵攻すれば、NATOにとってもカリーニングラードが最初の標的となり得る。ロシア本土から最も遠く、最も防御が手薄な場所を狙うはずだからである。

 カリーニングラードの核兵器配備について、ランズベルギス氏は配備できる可能性があると指摘する。「そのための施設は整っている。実際に現時点で配備されているかどうかは別として、『配備されている』と考えて行動すべきだ」。

 カリーニングラードへの「通過(トランジット)」制度も問題視されている。リトアニアがEUに加盟する際、カリーニングラードとロシア本土を結ぶ人や貨物の移動を認める制度が設けられ、それ以降、ロシア市民が特別な通過文書を取得し、ベラルーシ経由で鉄道を使ってリトアニアを通過しカリーニングラードに至ることが可能となっている。ただし、列車中に途中下車できないなどの制限があり、通過可能なもの・不可なものがEU制裁で明確に線引きされている。


ハイブリッド戦争の脅威

 ランズベルギス氏はこうした制度が「ハイブリッド脅威の一つ」になり得る、と見る。「もしロシアが何かを仕掛けたいと思えば、列車を利用する可能性もある」。具体的には、サイバー攻撃で列車がリトアニア国内のどこかで停止し、乗客が不安を覚えて助けを求めるといった状況である。「完全に仮定のシナリオだが、ロシアの『ハイブリッド戦略マニュアル』のどこかには、必ずそのような章があるだろう」。

 ウクライナ戦争以前を思い出すと、「ロシアはそんなことをするかもしれないが、それは狂気の沙汰だ」と人々は言っていたが、実際に戦争が発生した、とランズベルギス氏は指摘した。


プーチンの拡張主義的野心

 なぜロシアはNATO諸国の領空侵犯のような挑発行為をするのか。

 ランズベルギス氏は、ロシアが国をうまく運営しておらず国内問題を隠すために領土を拡大して国境を確保する政策をとっているのではないか、という。

 もう一つの理由としては、世界の独裁者たちは「欧米・西側が劣勢に立たされている」という感覚を持っているのではないか、という。現在は、「西側の力がどこを見ても覇権的に見えた時代とは違うからだ」。

 「もしプーチンが、ゴルバチョフがソ連を解体したことで冷戦に負けたのだと考えているとしたら、小国を攻撃して(NATOの)同盟国が適切に防衛しないことを示すことでNATOを分断させようと思うかもしれない」。

 欧州が分断すれば、NATOの存在意義が問われる。「おそらく欧州連合についても同様の問いが投げかけられるだろう」。


NATOの結束を試す戦略

 ランズベルギス氏によると、挑発行為の目的は「NATOと戦うことではなく、NATOが実際には存在しないことを示すこと」である。たとえばリトアニアに手を出しても、NATOは本当に動かない——と言えるように見せかけることを狙っている、と。

 「プーチンがNATOに勝てるはずがない」という主張は「事実だ」。しかし、プーチンは「NATO全体と戦うつもりはない。彼が関与するのは、あらかじめ勝てると分かっている戦争だけである」。

ドイツ軍の恒久駐留

 リトアニアの安全保障を強化するため、ドイツは第45装甲旅団(約5000人規模)を恒久部隊としてリトアニアに展開することを決定している。部隊は2027年までに完全運用を目指し、兵舎・演習場・補給施設などインフラの整備が進む。戦後のドイツが国外に戦闘旅団を恒久配備するのは初めてで、NATO東部防衛(バルト諸国界隈)における大きな戦略転換となる。

 この動きは、冷戦期に西ベルリンに駐留していた米陸軍「ベルリン旅団」を想起させる。戦争に勝つための戦力ではなく、「我々はここにいる」という抑止の象徴だった。小さな町のために米軍全体を危険にさらす覚悟を示し、ソ連に「二度考えろ」と迫る存在だった。

 今回のケースではアメリカではなくドイツが担うが、ランズベルギス氏によると、「リトアニアにおける恒久駐留が放つメッセージは同じ」だ。つまり、「国境を越えれば、相手にするのは小さなバルト国家ではなく、NATOそのものだ」というメッセージである。

 ドイツ‐リトアニア間では、この軍事部隊を受け入れるための施設整備(兵舎、演習場、軍需・補給設備)の構築が進められており、家族帯同や兵員の生活基盤を含む法的・制度的枠組みも合意されている。

 NATOにとって非常に大きな決断だが、「リトアニアにとっても受け入れるためのコストは相当に大きい」。


2週間の自力防衛

 もっとも、こうした抑止の象徴があっても、現実的な防衛課題は残る。

 米国の駐欧州陸軍司令官を務めたベン・ホッジスは、ロシアが急襲を仕掛けた場合、同盟国の大規模な援軍が到着するまでに約2週間はかかると指摘する。各国の部隊が欧州各地に分散し、戦車や火砲といった重装備を逐一輸送しなければならないからだ。その間、リトアニア自身と前方展開部隊が持ちこたえる必要がある。

 この「2週間構想」はリトアニア国内で物議を醸した。「初日から同盟国が守ってくれるはず」と信じる人々には現実離れして映ったからだ。しかしホッジス将軍の見解は、NATOの中でも強硬な対ロ姿勢を取る立場からの警鐘であり、リトアニアの指導者たちは「耳を傾けるべきだ」とランズベルギス氏はいう。同国にとって最大の問いは、「最初の2週間をどうやって持ちこたえるか」。


意識の転換点

 21世紀に入り、リトアニアの安全保障を巡る議論が再び注目を集めている。ランズベルギス氏は、その人生の大半で独立国家としてのリトアニアで平和と繁栄を享受してきたが、その状況が変わり始めたのは2014年からだと述べている。

 2008年、旧ソ連の構成国の一つジョージアは南オセチアとアブハジアへの統治権を主張していたが、これに対してロシアが軍事介入し、いわゆる「グルジア戦争(南オセチア紛争)」が勃発した。わずか5日間で停戦に至ったものの、南オセチアとアブハジアは事実上ロシアの影響下に置かれることになった。

 このとき、リトアニアはジョージアと連帯の姿勢を示し、ヴィリニュスにはジョージア国旗が掲げられた。しかしランズベルギス氏は、この時点ではリトアニア自身が直接的な脅威を感じることはなかったと語る。地理的・物理的に遠く、ロシアの攻撃がリトアニアに及ぶ可能性は低いと考えられたためである。

 その後、2014年にはロシアがウクライナのクリミア半島を一方的に併合。ロシアはクリミアで親ロシア派の住民投票を実施したと主張したが、国際社会の多くはこれを合法的とは認めず、ウクライナ領土の侵害と非難した。

 この事件は東欧の安全保障環境に大きな衝撃を与え、NATO加盟国であるリトアニアにとっても脅威認識を根本から変える契機となった。

 これを受け、リトアニアは徴兵制を復活させ、毎年3000〜4000人の若者を兵役に就かせる体制を整えた。制度としては抽選制で、国の宝くじのように選ばれた者が9か月から1年間の兵役に就くことになっていたが、最初の5年間ほどは全員が志願したため抽選は不要だった。人々は自国を守る方法を学び、軍の一員として参加することを望んだのである。

 この時期から、国民の意識は新しい現実へと移行し始めた。そして、心理的に最も大きな打撃を受けた2022年のロシアによるウクライナ侵攻に至り、この意識の変化はさらに顕著になった。


ウクライナ戦争の現状評価

 ランズベルギス氏は、直近にキーウを訪問し、ウクライナ政府関係者との会合に出席した上で、現地の戦況を精査した。氏の評価によれば、ウクライナは戦局において局地的な勝利を重ねつつも、前線全体は依然として脆弱である。ある地域で優位に立っても、他地域では敗北する事態が発生しており、戦況全体を確実に予測することは困難だ。

 専門家の中には、「ウクライナが3年半持ちこたえたからといって、さらに長期間持ちこたえられる保証はない」との指摘がある。ランズベルギス氏も同意し、防御側が十分な支援を受けられず疲弊した場合、損失は瞬時に拡大し得ると警告する。「現状を楽観視することはできない」。

 一方で、ウクライナの長距離攻撃能力は希望を提供している。ウクライナ軍はロシア国内の石油精製所を複数回攻撃し、一定の成果を収めている。2024年末には、北西部レニングラード州の港湾施設や精製所に対してドローン攻撃を成功させ、操業停止を引き起こした。

 氏によれば、これによりロシア経済、とりわけ石油収入に依存する戦争継続能力に直接的な圧力が加わることになる。さらに攻撃対象は石油関連施設に限定されず、ロシアの予算に寄与し戦争努力に貢献する経済部門全般に拡大可能だ。「西側諸国の支援があれば、これら能力をさらに強化し、ロシアの再建余地を削ぐことができる」。

米国の支援縮小

 米国の支援縮小も不確定要素として指摘される。トランプ前大統領下では、バルト諸国向けの「バルト安全保障イニシアチブ(BSI)」により、毎年約1億ドル(約147億円)規模の米国製装備が供給されていたが、新政権発足後、国防長官は「ヨーロッパは米国の安全保障に将来的に依存すべきではない」と発言し、支援縮小を実行した。

 ランズベルギス氏は、欧州自身が米国に依存せず防衛体制を構築する必要があると指摘し、困難であるが賢明な判断であると評価している。


欧州の自立防衛能力

 NATO指導部の動きについては、「部分的な取り組みはあるものの、欧州全体として自立防衛能力を十分に確保できているとは言えない」と見る。フランスやフィンランドは自国防衛能力の維持に注力しており、フィンランドはかつて中立国であったが、予備役および砲兵力を最大規模で保持し、米国の支援に依存せず防衛能力を維持している。

 欧州諸国にとっては、米国との協力は望ましいが、米国が態度を変えない場合は深刻な問題に直面する可能性がある。ギャップを埋めるにはおよそ10年の準備期間が必要とされる。

 一方、人口約4000万のウクライナは、戦争準備期間を十分に確保できないまま戦闘に投入されたにもかかわらず、戦い抜いている。

 人口約4億5000万の欧州大陸に、英国、ノルウェー、アイスランドなど、世界でも最も豊かな地域がある。それにもかかわらず、なぜ欧州諸国は「ウクライナのように戦い、産業を立て直す」ことができないのか。ランズベルギス氏は問う。「ウクライナのやっていることを、規模を10倍に、速度を10倍にして行うことは可能ではないのか。なぜできないのか」。

 この問いに対して同氏は、率直に「答えは見つからなかった」と述べている。


「真珠湾の瞬間」の必要性

 なぜ豊かな欧州が同様の対応をできないのか。それは想像力の欠如か、政治意志の欠如か。

 インタビューをするラックマン記者は自分なりの分析を加える。「私が住む英国の例でいえば、抽象的には防衛支出の増加を支持する人もいるが、そのために年金削減や医療費削減するという政策には反対する人が多い。政府には財政赤字もある。状況を理解すれば、ある程度は納得できる面もある」。

 「現実には欧州が協力して自国と同盟国を防衛し、ウクライナが単独で行っている行動をグループで行うことに、実質的な障害は存在しない。絶対にできるはずだ」とランズベルギス氏は主張する。

 同氏は、そうする必要性があることを理解するまでには、「極めて強い外的圧力が必要だ」。

 ランズベルギス氏はこの外的圧力の必要性を、欧州における「真珠湾の瞬間」と表現する。すなわち、欧州諸国が自らの安全保障の現実を痛感せざるを得ない、圧倒的で突然の危機の瞬間である。過去の真珠湾攻撃が米国に与えた衝撃と同様に、欧州にとっても「目を覚まさざるを得ない事件」が必要だというわけだ。残念ながら、ウクライナ戦争はその瞬間には至らなかった。

 もし到達していれば、欧州諸国はこう認識したはずだ。「わかった、これが現実だ。我々は目を覚まし、その意味を理解した」と。

 トランプ前大統領とその政権も、この現実を強調していた。「君たちは今、少なくともある程度、自分たちだけで防衛するしかない」とのメッセージである。まさにその通りだ。

 同盟国は距離を置き、敵は迫る。現在、それがウクライナで起きている。欧州はその「穴を埋め」、状況を切り抜けるために立ち上がらなければならない。しかし、残念ながらまだその段階には至っていない。改善は、状況が深刻化して初めて可能となるのである。


占領の悲惨な現実

 ラックマン記者はウクライナ戦争の今後の見通しについて、さらに話を進める。

 ウクライナ戦争の終結について議論されるとき、しばしば「ウクライナが望めるのは前線の固定化だけであり、それは一部のウクライナ領土がロシアの占領下に残ることを意味する」という話が出てくる。そして、この考えを推す人たちの中には、「それはひどいことだが、法的に認めることは決してない」と言う者もいる。モデルとして挙げられるのはバルト三国である。第二次世界大戦後、英国もアメリカも、そしてほかの国々もロシア(当時はソ連)によるリトアニアなどの占領を法的には認めなかった。しかし事実として受け入れた。その後、ソ連は崩壊し、バルト諸国は独立を取り戻した。

 ラックマン記者がここまでの説明をしていると、ランズベルギス氏は顔をしかめた。なぜなのか?

 「まず第一に、このような状況においては、常に占領下にあった国自身が声明を出す必要がある。外部の者が助言できるものではない」とランズベルギス氏はいう。同氏はこうした説明を「ウェストスプレイニング」と呼んでいる。つまり、西側諸国の人間が、東側の人々に対して「あなた方の歴史や何十年にもわたる占領はこう捉えるべきだ」と説明しようとする行為である。

 「占領されていた国自身が声明を出すべきだと考えている。他国が助言できる問題ではない」。


占領下の経験

 ウクライナ戦争の現状と西側の責任は、ランズベルギス氏にとって常に重いテーマである。

 「リトアニアは50年間にわたるソ連の占領を経験し、何万人もの命が奪われ、何十万人もの人々が強制送還された」。ランズベルギス氏の祖母も北極圏の遠隔地で幼少期を過ごし、漁やピアノの学習を重ね、帰国後に音楽教授を目指したという。

 現在、ウクライナではドンバスやマリウポリなどロシアの占領下にある地域で住民に対する甚大な人権侵害が続いている。ランズベルギス氏によれば、ドンバスでは住民が強制送還され、子供たちが拉致されているという。これは過去にブチャや他の奪還地域でウクライナ軍が確認し、証拠として記録した虐殺や破壊の事実と同様のことが、今もなお占領下で繰り返されている状況である。つまり、ウクライナ軍が奪還して被害の実態を回収・把握した地域で起きたことが、占領下の地域でも同じ規模で発生している。

 特にマリウポリでは、その規模がブチャの数十倍、あるいは百倍にも及ぶ惨状が生じているとランズベルギス氏は指摘する。

 こうした現実を前に、歴史の視点から見て西側諸国は、占領地域で起きている被害を抑止するために最大限の努力を尽くしてきたと確信できる態度を示すべきだ、と同氏は強調する。

 「ウクライナ国民が自国の将来を決める権利を持つとしても、その決定が困難なものであれば、それは西側の責任である。限られた支援しか提供しなかった判断が、ウクライナを現在の窮状に追い込んでいる」。ランズベルギス氏は西側自身を批判し、その批判を行動に変えるべきだと主張する。


小国が生きる道は

 リトアニアの生存についても氏は警鐘を鳴らす。シンガポールの元首相リー・シェンロンが語ったように、歴史的に小国は生き残れない。現実主義の世界では、大国が国境を決め、利権と権力を行使すれば、小国は消え去る運命にある。

 ランズベルギス氏は、自国を防衛する力を強化することに加え、価値観に基づく秩序や法治の秩序を守ることが、自国の生存権を守ることにつながると主張する。シンガポールの例に倣い、「小さな国でも簡単には潰されない」と示すことが、単なる防衛力の強化だけでなく、国際秩序を守る意味を持つのである。


by polimediauk | 2025-09-25 08:17 | 政治とメディア