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小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

【ウクライナ戦争】対ドローンの防御ネットの下で生きる、南部ヘルソンの市民 人口は6万人に激減

 ウクライナ戦争終結の見込みがますます不透明となる中、今年が終わろうとしている。

 ウクライナ南部のヘルソンは、一時はロシア軍に占領され、のちにウクライナが奪回した地域だが、ロシアによる激しいドローン攻撃にさらされてきた。タイムズ紙の記事(11月28日付、課金制)はヘルソンの空がドローン攻撃を防ぐための防御ネットでおおわれている様子を動画で映し出している。

 ドローンを使って市民を殺傷する様子は動物の狩猟に例えられ、ヘルソンは「ドローン・サファリ」になっているという人もいる。

 市民の生活にどんな影響があるのか。ドローン攻撃の実態を先の記事から一部紹介してみたい。


ペタル地雷の攻撃を受けて

 木材伐採の仕事をしていたウラジーミル・バイドロフ氏はヘルソンのアントニフカ橋西側で、ロシアのドローンから投下された花びら型の「ペタル地雷(PFM-1)」を踏んだ。

 このロシア製の対人地雷は、形が花びらのように薄く平たいことからこの名前がついている。子どもが拾ってしまうほど小さく、軽く、風で飛ぶ。踏むと足が吹き飛ぶほどの威力がある。

 バイドロフ氏が踏んでしまった地雷は彼の右足を吹き飛ばし、脛骨を砕き、動脈を断ち切った。同氏は後ろに倒れ、傷口から血が勢いよく流れ出した。助けを呼んでも誰も来ない。瓦礫と廃墟ばかりの一帯で、人影はひとつもなかった。

 「このまま誰にも見つからず、出血死してしまうのではないかと怖かった」、と同氏はタイムズの記者に語っている。

 バイドロフ氏は倒れた近くに電話線の切れ端があることに気づき、4本のワイヤーを抜き取って、脚の止血帯にした。血が止まるまでワイヤーを力いっぱい締めつけ、後ろ向きに体を引きずり始めた。しばらくして、廃墟で生き延びていた別のウクライナ人が彼を見つけ、手押し車に乗せて隠れ場所まで運んでくれた。救助者が救急車を呼んだものの、ドローンが頭上を飛び交う状況では、誰も出動できないままだった。

 バイドロフ氏は右足を失い、傷ついた四肢をワイヤーと布で巻いたまま、痛み止めをほんの少し握りしめ、半壊した家で一夜を過ごすことになった。


人口は激減

 ドニプロ川沿いに位置するヘルソンは、2022年2月のロシアによるウクライナへの全面侵攻後、8か月にわたりロシア軍に占領された。ウクライナ軍によって解放されたのは、2022年11月である。戦前30万人の人口は、今や6万3千人を切った。

 同氏が入院していたルチャンスキー市立病院の救急外科部長ヴィタリー・ホムハ医師によると、「ヘルソンには直接被害を受けていない住民などもういない。ドローンや砲撃で傷ついていない家族はひとりもいない」という。


国連は「人道上の犯罪」

 ヘルソンに対するロシアのドローン攻撃と砲撃が、明らかに民間人への深刻な被害を意図的に引き起こしているとして、国連のウクライナ独立調査委員会は5月と10月に発表した2つの報告書で、「民間人の殺害は人道に対する罪に当たる」とロシア軍を非難した。それでも攻撃に変化の兆しは見られない。

予算の半分を対ドローン攻撃に

 ヘルソン州ではドローンの脅威に対抗するため、2025年の州予算の半分を投入しているという。妨害装置、早期警報システム、住民向けの啓発キャンペーン、防護ネットの整備に使われた。これらのネットはインフラや主要道路、市場エリアを覆い、街に残った人々が、まるで巨大な鳥かごの内部で暮らすような状態で命をつないでいる。

 今年、同州で殺害された民間人282人のうち、125人がドローンまたはドローン投下弾薬によるもの。負傷者は2341人、そのうち1173人がドローンの犠牲者だった。


ドローン攻撃、巧妙に

 空からの攻撃は昨年秋以降、ますます激しくなった。

 主に使われているのは、本来は空撮用として市販されている小型ドローン「DJI Mavic」だ。

 これは民間の趣味人向けに作られた機体で、折りたたんで持ち運べるほど軽く、操作も容易だが、戦場ではこれが簡易的に改造され、機体の下に爆弾を吊り下げて投下できる仕組みが取り付けられている。高価で大型の軍用ドローンとは異なり、安価で数が揃えやすく、GPSを使った安定した飛行も可能なため、実戦で非常に多用されるようになった。

 攻撃の中心は、この改造Mavicによる「V-25 Vlog爆弾」の投下だが、その他にも、操縦者がリアルタイム映像を見ながら突っ込ませる「FPV自爆ドローン」、長いケーブルで信号を送るため妨害に強い「光ファイバー式ドローン」、さらに小型航空機のように飛ぶ「モルニヤ固定翼型の攻撃UAV」など、種類は増えている。

 こうしたドローンは先のバイドロフ氏の足を吹き飛ばした 「PFM-1(いわゆる花びら地雷)」を上空から撒き散らす用途にも頻繁に使われる。形状が小さく葉のように見えるため視認しにくく、地面に無数にばらまかれると、民間人に深刻な被害を及ぼす。

 市街地周辺でのドローン攻撃の射程も広がっており、発射地点から約40キロ離れたウクライナ側の目標を狙うことも珍しくなくなった。

 Mavicのような市販ドローンの普及は戦いの形を一変させた。安価で誰でも扱える小型機が、偵察、射撃補正、爆弾投下、地雷散布など多目的に使われ、前線の兵士から一般市民まで、日常の安全を脅かす「常に頭上にある危険」へと姿を変えてしまった。


戦争は、今起きている

 筆者は先月、2週間ほど日本に一時帰国した。ニュースを見ると熊の出現、生活費高騰、高市政権の批判あるいは評価、中国との外交問題などがよく報道されていた。一方で、ウクライナ戦争の様子は時々伝えられていたものの、あくまでも「たくさんある中の1つ」だった。

 日本からすると地理的に遠い欧州で発生している戦争なので、「遠い」感じは否めない。

 しかし、「戦争」というと、80年前の第2次世界大戦だけを指す認識をそろそろ、改めるべきではないか。戦争は今現在、発生している。攻撃を受けて傷を負い、亡くなる人がいる。

 日本の外で何が起きているかを知ることで、日本で発生するニュースの理解も多層的になっていくのではないか。


by polimediauk | 2025-12-08 17:22 | 政治とメディア