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小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

英国で躍進続く移民政策引き締めの「リフォームUK」 世論調査で 二大政党を圧倒 過去の差別疑惑再燃も

「英国ニュースダイジェスト」掲載の筆者コラムに補足しました。

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 「日本人ファースト」。今年夏の参議院選挙で、「自国民優先」「移民制限」を掲げる参政党のスローガンでした。

 英国でも移民政策を引き締める政党が人気を集めています。右派ポピュリスト政党「リフォームUK」です。下院での議席数はまだ少ないのですが、歯に衣を着せぬ発言で知られるナイジェル・ファラージ党首(61歳)の人気が高く、複数の世論調査の結果を見ると、いつか彼が英国の首相になる可能性が出てきました。


議席予想は?

 10月28日に発表されたYouGovの調査によると、同党の支持率は27%に達し、与党・労働党の17%、前与党・保守党の17%を10ポイント上回りました。

 労働党か保守党かの2大政党制が長く続いてきた英国で、大きな地殻変動が起きているのです。

 議席数を分析、予想するサイト「electionmaps.uk」の試算によると、すぐに総選挙が行われた場合、リフォームUKの獲得議席は324に達し、定数650のほぼ半数に相当するそうです。労働党は74議席にまで落ち込む見通しです。

 現在、リフォームUKの下院議員はわずか5人にすぎないため、これほどの急増は現実的には思えません。

 それでも、最近の複数の世論調査でリフォームUKは同様に高い支持率を記録しているので、2029年までに行われる総選挙で労働党も保守党も単独過半数を確保できなかった場合、リフォームUKとの連立政権になる、あるいはリフォームUKから首相が誕生する可能性はもはや「絶対にない」とは断言できません。


永住資格を変更か?

 リフォームUKの党首でブレグジット実現の立役者ナイジェル・ファラージ氏は、国民の気持ちを代弁してくれる政治家として支持を広げてきました。

 でも、9月末、英国に住む外国籍の人がどきりとするような政策を発表しています。政権を取った際には「無期限滞在許可(ILR)を廃止する」というのです。

 日常的には「永住権」ともいわれるILRは、就労ビザを持つ外国人が通常5年の就労と居住で申請できます。取得後は無期限で英国に住み、働き、あるいは勉強する権利が与えられ、福祉制度も利用可能です。10年以上合法的に居住している人や、家族が英国市民または永住者である場合も申請可能です。

 英国籍の保持者にならないと選挙権は持てませんが、二重国籍を原則認めない日本の国籍を維持しながら英国に住むには、最大限の自由度がある在留資格といえるでしょう。

 リフォームUKはこの制度を廃止し、5年ごとに再申請を義務づけるビザ制度に置き換えるというのです。対象にはすでにILRを保持している人も含まれ、申請者は給与額や英語力において一定の基準を満たす必要があるそうです。筆者は家族が英国人という理由で永住権を得ていますが、安心してはいられない状況です。

 労働党政権にとっても移民の抑制は政治課題になっており、就労ビザ保持者のILR申請が可能になるまでの期間を5年から10年に倍増させる計画について意見募集を行っているところです。移民にとって先行きの不安が募ります。


リフォームUKの5つの誓約とは

 リフォームUKが政権取得後に実現を掲げる「5つの誓約」を見てみましょう。

 まずは、

 ①スマートな移民政策

 不要な移民の受け入れを一時停止することで賃金の引き上げ、公共サービスの保護、住宅危機の緩和、犯罪の削減を目指すとしています。

 ②小型ボートによる不法入国の根絶

 ③国民医療サービス(NHS)の待機リストのゼロ化も含まれます。

 ③では医療を引き続き無料で提供しながらも、制度改革で待機時間ゼロと医療の質向上を実現し、医師や看護師への税優遇で人手不足を解消するとしています。

 ④「働く人にふさわしい賃金」の提供も掲げています。所得税の課税開始金額を引き上げ、低所得者の税負担を軽減して、働くことが報われる社会を目指すとしています。

 最後に、⑤ネット・ゼロ政策を撤廃し、国内の石油やガス資源を活用して生活費高騰を抑え、「安く、安定したエネルギー料金を実現する、としています。


実現可能か?一抹の不安感も

 どの政策も有権者の懸念をくみ取り、解決してくれる期待を抱かせる内容ですが、これらが本当に実現可能かどうか、見極めが必要でしょう。

 また、リフォームUKは「英国の文化・アイデンティティー・価値観」を守り、英国を再生させるとしています。同党に、多様な価値観・人種・信条を排除する方向に向かう危うさを感じるのは筆者だけではないと思います。


党首に数十年前の人種差別疑惑再燃

 労働党さえもリフォームUKをライバル視するようになった今、ファラージ党首に関する「人種差別的」とされる疑惑が広がりました。

 ファラージ氏は私立名門校ダルウィッチ・カレッジで学びましたが、同校在学中、人種差別的・反ユダヤ主義的発言をしたとする疑惑が再燃したのです。

 11月末、同じカレッジにいた、ユダヤ人の映画監督ピーター・エテッドギー氏はガーディアン紙に対し、ファラージ氏の暴言を証言しました。

 1970年代のダルウィッチ・カレッジ在学中、当時13歳のファラージ氏はエテッドギー氏に対し、ナチス・ドイツ総統アドルフ・ヒトラーについて「ヒトラーは正しかった」「ガス室送りだ」などと述べ、ガス室の音をまねた音を発したこともあったというのです。

 ガーディアンは元同級生12人以上に話を聞いたそうです。別の元同級生は、ファラージ氏が人種差別的な歌を歌い、ナチス式敬礼をしたと証言しています。ファラージ氏が有色人種の子どもをいじめたと話す元同級生もいました。

 こうした証言は過去に英ジャーナリストが報道していましたが、ファラージ氏が次期首相の最有力候補になったことで、改めてとりあげられたようです。

 ファラージ氏は「人間に向かって直接、あんなことを言ったり、したりすることは絶対にない」としながらも、同級生たちが「傷ついた」と感じているのであれば「心から申し訳なく思う」と謝罪しました。

 人種差別についての社会的意識が現在のようではなかった1970年代の出来事であり、当時ファラージ氏は13歳でした。こうした背景をどう考慮すべきかは意見が分かれるところでしょう。

 でも、リフォームUKの躍進により「次の首相かもしれない」という状況になった今、政治的影響力の大きさゆえに、ファラージ氏の過去と現在にはより厳しい監視の目が向けられるようになったことは間違いありません。


キーワード Reform UK(リフォームUK)

 厳格な移民政策などを掲げる右派政党。2018年、「ブレグジット党」として結党し、19年の欧州議会選挙で第1党に。21年、現在の名称に改名。不法移民、欧州連合(EU)や主要政党を激しく非難することで支持を急拡大。5月の地方選では23自治体のうち10自治体で議会の支配権を獲得した。


by polimediauk | 2026-01-05 20:05 | 政治とメディア