米ニューヨーク・タイムズがトランプ大統領に聞いた 権力行使への歯止めは「私自身の良心だけだ」
ニューヨーク・タイムズ「The Daily」
米ニューヨーク・タイムズ(NYT)がトランプ大統領をインタビューし、ポッドキャスト「The Daily(ザ・デイリー)」で配信した(1月9日、購読制)。
配信分の音声とその内容を書き起こしたウェブサイトを参考にしながら、概要を紹介したい。

イントロダクション
1月7日夜、NYTのホワイトハウス担当記者4人が、大統領執務室で長時間のインタビューを行った。
デビッド・サンガー
トランプ政権と、幅広い国家安全保障の問題を担当。NYTの記者として40年以上のキャリアを持つ。
ゾラン・カンノ=ヤングス
ホワイトハウス担当記者
ケイティ・ロジャーズ
ホワイトハウス担当記者
タイラー・ペイジャー
ホワイトハウス担当記者
4人の中の一人デビッド・サンガー記者とポッドキャストのホスト、マイケル・バーバロの会話から番組は始まった(以下、一部敬称を省略)。
以下は主としてQ&Aの形式になっているが、ポッドキャストでは間にサンガー記者による解説が入る。大統領の言葉をそのまま伝えることを避けるためであろう。
トランプ大統領の心理分析など、ご関心がある方はポッドキャストを聞いてみていただきたい。
インタビューの背景
マイケル・バーバロ:NYTの記者4人が大統領執務室に入ったが、どんな体験だったのか。
デビッド・サンガー:大統領の2期目はまもなく1年を迎える。現代アメリカ史において最も重要な瞬間の一つと考えた。トランプ大統領は、これまでで最も大胆な海外介入を実行したばかりである。
数週間前から、NYTはインタビューについて交渉してきた。ただし、トランプ大統領とNYTの関係は、時にかなり緊張したものであった。
マイケル・バーバロ:訴訟もあった。
デビッド・サンガー:その通りだ。大統領はNYTを150億ドル(約2兆円)で訴えた。それでも最終的には、快くインタビューに応じた。ホワイトハウスに入ったのは午後5時過ぎで、出たのは午後9時を過ぎており、長い時間を割いてくれた。
トランプ大統領によるNYTの提訴とは
トランプ大統領は2025年9月、NYTとその記者数人、さらに出版物に対して 150億ドル規模の名誉毀損訴訟をフロリダ州の連邦裁判所に起こした。訴状では、同紙が自身の評判やビジネス、政治的立場を害すると主張する報道や本の内容について「悪意ある虚偽の記述」であると主張した。連邦裁判所の裁判官は、この訴状が正式な法的文書として不適切であるとして却下した。トランプ側は修正版の訴状を再提出したと報じられるが、裁判としての進行状況はまだ明確な判決には至っていない。NYT側はこの訴訟について「法的根拠がなく、独立した報道を抑え込もうとするものだ」として強く反論している。
デビッド・サンガー:話をしだして2-3分すると、コロンビアの大統領から電話があって、記者たちは取材をいったん止めた。執務室の中にはいたままだった。いったん録音は停止され、その後再開された。
ベネズエラと軍事力の行使
インタビューでは、まず大統領の外交政策、とりわけベネズエラへの介入に話題が及んだ。
デビッド・サンガー:あなたがベネズエラのマドゥロ大統領を拘束し、アメリカが当面ベネズエラを統治するという決定は、スティーブン・ミラー補佐官の言葉を借りれば、「国際的な礼儀の時代は終わった。国は力によって統治される」という考えを反映しているのではないか、という疑問を生んでいる。
世界最大の超大国として、アメリカの利益になると考えるあらゆる脅威を排除し、資源を確保する権利があると信じているのだろうか。
トランプ大統領:あなたは「脅威」という言葉を使ったが、脅威があるなら、どの国にも行動する権利がある。脅威がなければ、話は別である。率直に言って、私は礼儀を信じている。多くの人々と良い関係を築いている。
デビッド・サンガー:石油を手に入れるためでもあったのではないか。
トランプ大統領:いや、私は多くの理由で介入した。第一に、麻薬がこの国に流入していた。第二に、人々が流入していた。ただし今は国境がほぼ完全に強化された。石油は、たまたまそこにあっただけである。
デビッド・サンガー:では、あなたが中国の習近平国家主席だったとして、ここ数日の出来事を見れば、台湾を制圧し統治するために同じ論理を使えると考えるかもしれない。ロシアのプーチン大統領も同じ論理で、ウクライナやほかの旧東欧諸国を奪取できると考えるかもしれない。後で後悔するような前例を作ったのではないか。
トランプ大統領:いや、なぜならこれは本当の脅威だったからだ。
ベネズエラの統治期間
タイラー・ペイジャー:どのくらいの期間、ベネズエラを統治するつもりか。3か月か、6か月か、1年か。
トランプ大統領:それよりはるかに長くなるだろう。国を再建しなければならない。しかも非常に利益の出る形で再建したい。石油を活用し、石油を確保する。石油価格を下げ、その収益でベネズエラに必要な資金を渡す。
ゾラン・カンノ=ヤングス:地上部隊をベネズエラに派遣する決定は、何がきっかけになるのか。
トランプ大統領:それをあなたに話すことはできない。記者にそのような情報を漏らすことはできない。どれほど優秀であってもだ。その可能性は確実にある。
現在のベネズエラ政府は、私たちに非常に協力的だ。
国際法と権力の制約
ケイティ・ロジャーズ:ベネズエラで起きたこと、コロンビアへの脅威、グリーンランドの買収や占領をめぐる議論を考えると、世界の舞台であなたの権力を制約できるものは何かあるのか。国家安全保障に反するとあなたが信じることがあれば、あなたの権力に歯止めはあるのか。
トランプ大統領:ある。一つだけだ。私自身の道徳心、私自身の良心である。それが唯一の歯止めである。国際法ではない。誰も殺したくない。8つの戦争を終わらせたのに、ノーベル平和賞をもらえなかった。オバマ元大統領はもらえたのに。例えばインドとパキスタンの紛争だ。
ゾラン・カンノ=ヤングス:あなたの政権は、世界の舞台で国際法を守る必要があると感じているのか。
トランプ大統領:もちろんそう思う。ただし、あなたが言う国際法の定義による。答えはイエスだが、アメリカを安全に保たなければならない。私たちが責任を負っている世界の一部を安全に保たなければならない。北大西洋条約機構(NATO)はロシアからまったく恐れられていない。
ポッドキャスト内のホスト、マイケル・バーバロとデビッド・サンガーの会話
バーバロ: 大統領とのこのやり取りは非常に興味深い。なぜなら大統領は、自分がかつてないほど強い権力を行使しているこの瞬間において、国際法は自分にとってそれほど大きな制約ではないと言っているからだ。真の制約は、彼自身の個人的な判断だけだというのである。
そして彼はアメリカの権力を、ある意味で自分の裁量一つで行使するこの姿勢こそが、敵対国に対してだけでなく、NATOのような同盟国に対しても、この世界で行動するために必要な尊敬と恐怖を植え付けるのだと考えている、と述べている。
デビッド・サンガー: これはトランプ大統領の思考のあり方を知るうえで、最も興味深い「窓」の一つだと思う。自分の権力に対する唯一の歯止めは、自分自身の道徳的な羅針盤だけだと考えている。
そして、国連であれ国際条約であれ、そうした外部の制度は、結局のところ何を意味するのかと言えば、それはすべて「自分がどう解釈するか」にかかっているという。このことが示しているのは、彼が本質的に、ほとんど何の制約も受けない指導者として行動したいと考えているという点である。なぜなら彼は、自分は善良な人間であり、だからこそ世界は、自分の良い判断、自分の良識、そして自分の善意にたよることができると信じているからだ。そこで、グリーンランドについて聞いてみようと思った。
グリーンランド
ケイティ・ロジャーズ:NATOとグリーンランドの取得のどちらを優先するかと問われたら、どちらか。
トランプ大統領:それは今ここで言いたくないが、選択を迫られるかもしれない。理解してほしいのは、ロシアはNATOをまったく気にしていないということだ。アメリカ以外は。中国も同様である。アメリカ以外の存在については、NATOに関心を持っていない。
残念ながら、欧州は大きく変わりつつある。彼らは本当に態度を改めなければならないのである。私は、彼らにそうしてほしいと思っている。それでも私は、欧州とは常にうまくやっていけると思っている。
ポッドキャスト内のデビッド・サンガーの分析
デビッド・サンガー: 彼が本質的に言っているのは、アメリカがすべてのカードを握っており、すべての権力を持っているということである。そして、NATOには選択肢がないというのである。なぜなら、アメリカ抜きのNATOなど存在しないからである。
したがって同盟を維持する代償として、グリーンランドの管理権をアメリカに渡すことになるならば、彼らはそれを受け入れるしかない。ほかに選択肢がないからだ。
グリーンランドへの軍隊派遣は?
タイラー・ペイジャー:グリーンランドに軍隊を派遣する用意はあるのか。領土を引き渡さない場合はどうするのか。
トランプ大統領:すでに軍隊はいる。
タイラー・ペイジャー:さらに増派するのか。軍事的に占領するのか。
トランプ大統領:すでに相当数の軍を置いている。
デビッド・サンガー:なぜここで「所有権」がそれほど重要なのか。
トランプ大統領:所有権は、心理的に成功に不可欠だと私は感じている。リースや条約で署名する文書では得られないものを、所有権は与えてくれる。
デビッド・サンガー:そのために軍事力を使うのか。
トランプ大統領:私はそうは言っていない。あなたがそう言っているのである。
デビッド・サンガー:こちらが聞いているのである。使うのか。
トランプ大統領:それについてはコメントしない。必要ないと思う。
国内政策:移民とICE
話題は国内問題、特にICE(移民税関執行局)の取締りに移った。
ゾラン・カンノ=ヤングス:ICEは今日(1月7日)、アメリカ市民を射殺したと初期報告が伝えている。また、抗議者が暴力的な戦術や催涙スプレーの対象になっている。場合によっては、アメリカ市民が誤って拘束されている。こうした事件や戦術について、ICEがやり過ぎだと思うことはあるか。(参考:BBCの報道、米移民当局職員、路上で発砲し女性死亡)。
トランプ大統領:ICEは非常に不当な扱いを受けてきたと思う。忘れないでほしい。ICEは何千人もの殺人者や犯罪者を排除してきたのである。
ゾラン・カンノ=ヤングス:アメリカ市民が射殺されたことについてはどう思うか。
トランプ大統領:すべてが不快である。誰も射殺されるところなど見たくない。しかし、警官を轢き殺そうとしたり、叫びながら逃げようとしたりする人も見たくない。
ゾラン・カンノ=ヤングス:それは地元当局によって否定されている。
トランプ大統領:テープを見れば、あなたも私と同じ映像を見たはずである。あれは凶悪な状況だった。
実際にトランプ大統領はその場でノートパソコンを持ってこさせ、記者たちと一緒に映像を確認することになった。
ソマリア移民と市民権剥奪
ゾラン・カンノ=ヤングス:あなたの政権は、帰化した市民の一部が市民権を剥奪される可能性があると示唆している。どのグループが市民権を失うべきだと考えるのか。
トランプ大統領:正直に言って、ソマリアは災害だと思う。ミネソタ州で起きていることを見てほしい。世界で最悪の国の一つである。最も腐敗し、最も凶悪で暴力的な国の一つとして知られている。
デビッド・サンガー:彼らから国籍を剥奪するのか。
トランプ大統領:剥奪に値するなら、そうする。
デビッド・サンガー:基準は何か。
トランプ大統領:現在まさに基準を検討しているところだが、剥奪に値するならすぐにやる。
ゾラン・カンノ=ヤングス:ソマリア系の人々に関するあなたの発言は、自国の市民に対して過度に一般化しているとは思わないか。
トランプ大統領:私は気にしない。この国には素晴らしい人々が必要である。この国を愛する人々が必要である。ソマリアから来た人々の多くは、アメリカを憎んでいると思う。
ゾラン・カンノ=ヤングス:あなたの移民政策の一部は、この国の人種構成を変えることも目的としているのか。
トランプ大統領:まったく違う。私はただ、この国を愛する人々が欲しいだけである。それだけのことである。
移民労働の必要性
ゾラン・カンノ=ヤングス:一部の産業には、依然として移民労働が必要だと思うか。
トランプ大統領:そう思う。
ゾラン・カンノ=ヤングス:どの産業か。
トランプ大統領:さまざまである。ただ理解してほしいのは、私は人々が合法的に国境を越えて来ることを支持しているということだ。合法的に来るのであれば、誰よりも彼らを歓迎する。今、私たちは全米に工場を建設している。
ゾラン・カンノ=ヤングス:あなたは、農業とホテル産業を保護する必要があるとも言っていた。
トランプ大統領:常識で考えてほしい。私は農家と接している。私は農家の90%以上から支持されている。彼らは素晴らしい人々であり、25年間彼らのために働いてきた労働者がいる。ほとんど家族のような存在である。
ゾラン・カンノ=ヤングス:韓国企業の事例について怒っていたのか。現代の施設でのICEの強制捜査についてである。
トランプ大統領:私は満足していなかった。彼らはバッテリーを作っている。バッテリーは非常に危険で、実際には非常に複雑な製品である。彼らはバッテリーを作れる人々を連れてきて、その人々が私たちの労働者に技術を教えていたはずである。
トランプ大統領:正直に言って、誰にとっても機能する移民政策を作れたら嬉しい。
ケイティ・ロジャーズ:包括的移民改革のようなものか。
トランプ大統領:可能であればやりたい。民主党がやるなら、私もやる。本当に機能する包括的な移民政策を持ちたい。国がそれを持つべき時が来ている。
経済について
ケイティ・ロジャーズ:共和党の世論調査専門家たちは最近、あなたと党が若い有権者、特に雇用の見通しを心配している若い男性の支持を失いつつあると警告している。
トランプ大統領:世論調査は操作されている。記者と同じだ。
ケイティ・ロジャーズ:しかし、それは共和党の調査専門家であり、あなたの党に警告している。
トランプ大統領:私は非常に人気があると思っている。つい最近までTikTokを使っていたが、ドナルド・トランプはTikTokで最も人気のある人物だった。
ゾラン・カンノ=ヤングス:多くの有権者は、経済を理由にあなたに投票した。
トランプ大統領:経済はおそらく過去最高である。今の経済を見てほしい。何兆ドルもの資金が流入している。どの国も経験したことのない規模である。そして物価を下げている。覚えておいてほしい。高い物価を招いたのは私ではない。バイデンである。
ケイティ・ロジャーズ:経済は成長しており、賃金もインフレに追いついている。しかし、国民が苦しんでいる兆候もある。
トランプ大統領:彼らはバイデン前政権のせいで苦しんでいるのである。私の業績を見てほしい。私の最初の任期において、最も恩恵を受けたのは、割合で言えば低所得労働者だった。
AI(人工知能)について
タイラー・ペイジャー:多くのアメリカ人が、AIが自分たちの仕事を奪うのではないかと心配している。
トランプ大統領:私は正反対だと思う。AIは途方もない雇用創出につながる。私の最大の問題は、仕事がなくなることではなく、仕事を埋めるだけの人がいないことである。そこでロボットの出番となる。
インタビューの終わりに
約2時間のインタビューの後、トランプ大統領は記者たちにホワイトハウスの改装計画を見せた。
トランプ大統領:これが大広間だ。美しいだろう。みんな気に入っている。模型を持ってきてくれ。見せよう。
彼はホワイトハウスの保管庫から取り出して展示した絵画を指し示し、ホワイトハウス複合施設の将来計画について語った。
ベネズエラの指導者を追放し、イランとの再交渉を示唆し、経済について人々が不安を感じる理由はないと否定する一方で、大統領はホワイトハウスの再建について考えることに忙しかった。
トランプ大統領:改装を見せようか。さあ行こう。もう十分話したな。良い準備だったな、ケイティ。2時間だ。私は9時間でも続けられる。
取材を終えて
インタビューの後、4人の記者が取材を振り返った。
ケイティ・ロジャーズ:大統領はこのインタビューを通じて、評価を強く求めていた。民主党員、共和党員、報道機関、そしてアメリカ国民から尊敬されたいと望んでいた。
ゾラン・カンノ=ヤングス:大統領は、自分が評価されているかどうかに強く突き動かされる人物だった。どうやら彼は、第1期のときに自分が十分な評価を受けなかったと思っているようだった。第2期のトランプ大統領は以前にも増して大胆になっている。その大胆さがどれほどのものかを、私たちはまさに目の前ではっきりと見せつけられている。
タイラー・ペイジャー:印象的だったのは、反ユダヤ主義についてのやり取りだ。反ユダヤ主義的な見解を持つ人々を運動に含める余地があるかと尋ねたところ、大統領は「必要ない。好きではない」と答えたからだ。
デビッド・サンガー:私が強く感じたのは、法律や慣習、あるいはアメリカ自身が第二次大戦後に構築した国際秩序によって、大統領自身は制約されていないと考えていることだ。
同時に、彼は戦争屋ではない。実際、平和賞受賞を望んでいる。「平和の大統領」として知られたいと思っている。しかし、長く、遅く、退屈な外交と、特殊作戦による迅速な行動のどちらかを選ぶかといわれたら、彼は後者を選ぶだろう。
エピローグ
1月8日、超党派の上院議員グループが、トランプ大統領に対し、ベネズエラでの軍事作戦継続について議会の承認を求めることを義務づける決議を進めるための投票を行った。5人の共和党上院議員が、すべての民主党議員とともにこの決議を支持した。




