コロンビア・ペトロ大統領、米政権との会談目前 英BBCで米国を「世界から孤立」と警告
南米コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領は、2月3日に米国でトランプ大統領と会談することを明らかにした。両国関係が悪化する中での首脳会談となり、関係改善の糸口を見いだせるかが注目だ。
両国間の緊張は、トランプ氏がベネズエラのマドゥロ大統領拘束後、ペトロ氏についても麻薬取引への関与を一方的に主張したことをきっかけに高まった。さらにコロンビアへの軍事行動を示唆する発言もあり、関係は急速に冷え込んだ。
トランプ政権はその後も、コロンビアが米国への麻薬流入を防いでいないと繰り返し非難し、昨年にはペトロ氏を制裁対象に指定。国連総会後に親パレスチナのデモに参加したことを理由に同氏のビザを取り消すなど、対立が表面化した。
一方、ペトロ氏もトランプ政権による中南米での軍事行動や、カリブ海での船舶攻撃を強く批判してきた。こうした応酬の中で、両首脳は今月7日に電話会談を行い、トランプ氏がペトロ氏をホワイトハウスに招待したことで、直接対話への道が開かれた。
2月3日の会談では、麻薬問題に加え、中南米での軍事政策や両国関係の改善策が議題となる見通しだ。緊張緩和につながるかどうかが焦点となっている。
英BBCの国際放送ワールド・サービスは1月16日、ペトロ大統領への独占インタビューを放送・配信した。大統統領は疲弊した様子で現れ、体調不良を訴えながらも、米国との緊張、麻薬対策の実績、ベネズエラ仲介の失敗について率直に語った。以下、その概要を紹介する。
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コロンビアとは

コロンビアは南米北西部に位置し、面積は日本の約3倍、人口約5209万人。1810年にスペインから独立し、1886年にコロンビア共和国が成立した。
20世紀後半には左翼ゲリラ組織FARCとの内戦が続いたが、2016年に和平合意が成立し、翌年武装解除が完了。長年の内戦に終止符が打たれた。しかし、コロンビアは世界有数のコカイン生産国でもあり、麻薬問題は依然として深刻だ。
2022年に就任したペトロ大統領は、コロンビア史上初の左派政権を率いる。元ゲリラ戦士から改革派指導者へと転身し、「完全平和」を掲げて武装グループとの対話を重視する一方、トランプ政権からは「犯罪や麻薬密輸に甘い」と批判されている。
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BBCワールド・サービスの番組「インタビュー」
(2026年1月16日放送・配信)
「ICEはナチスと同じ」—米移民政策への痛烈な批判
インタビューの中で、ペトロ大統領が最も強い言葉で批判したのは、米国の移民取締政策だった。
「米国のICE(移民税関執行局)は、かつてナチスやムッソリーニ政権下のファシスト武装組織が行ったように人々を迫害し挑発している」、「もはやラテンアメリカ系住民だけでなく、米国市民まで殺害している。このまま続けば、米国は世界から孤立した存在になる」。
トランプ氏との55分間の電話会談
1月7日に行われたトランプ大統領との55分間の電話会談で主に議論されたのは2つのトピックだった。第一にコロンビアの麻薬密売問題、第二にベネズエラ情勢とラテンアメリカと米国の関係についてだ。
ペトロ氏はトランプ氏に、米国のエネルギー政策転換を提案した。「もし米国がパリ協定の求める通りにクリーンエネルギーに完全転換すれば、石油への依存がなくなり、資源をめぐる紛争も減る。より平和的で民主的な国際関係が築けるだろう」
パリ協定は、世界の平均気温上昇を産業革命前比で2度未満(できれば1.5度)に抑える、そのために温室効果ガス排出を大幅に削減する、化石燃料(石油・石炭・天然ガス)からクリーンエネルギーへの転換を進めることを目標とする。
ペトロ氏によれば、この提案にトランプ氏はあまり反応しなかったという。
「帝国主義」—米国の1世紀にわたる問題
トランプ大統領をどう評価するかと問われ、ペトロ氏は「個人的には知らないので言えない」と前置きしつつ、米国外交の構造的問題を指摘した。
「米国には1世紀以上前にさかのぼる問題がある」。ある学術研究によれば、米国は国際関係において自らを帝国とみなし、特にラテンアメリカ諸国の権利を顧みない姿勢をとってきた、という。「米国による暴力的な軍事介入の33%がラテンアメリカで行われている」。
ペトロ氏が特に懸念するのは、米国のエネルギー政策と軍事介入の関連性だ。「米国経済がエネルギーの70%を石油と石炭に依存している限り、石油資源をめぐる戦争を求める傾向がある。ベネズエラ問題もこれに関係している」。
「軍事行動は現実的な脅威」—パナマ分離の歴史
トランプ氏は1月4日、記者団に「コロンビアも非常に病んでいる。コカインを製造し米国に売るのが好きな病んだ男が統治している」と述べ、軍事作戦について「良い考えだと思う」と答えた。
この脅威をどう受け止めているかと問われ、ペトロ氏は「現実的な脅威だ」という。実現するかどうかは、「継続中の会談の行方にかかっている」。
コロンビアは既に米国の軍事介入を経験している。20世紀初頭、米国がパナマ運河建設のためにコロンビア政府と対立し、独立運動を支援した結果、1903年にパナマがコロンビアから分離独立した。「今日、パナマはもはやコロンビアの一部ではない。コロンビアはこれまでも領土や主権を脅かされてきた。今回の発言を単なる言葉の応酬とは受け取っていない」。
ペトロ氏は、両国政府間で公式には明らかにされない交渉や情報交換、外交・軍事的圧力などが行われてきた経緯を指摘。それでも「事態は危険な方向に進みかねない。だからこそ対話を求めている」。
コロンビアの75年間の暴力「防衛は山と密林にある」
トランプ氏はペトロ氏個人に対しても「気をつけろ」と警告している。身の安全について問われ、ペトロ氏は率直に答えた。
「もちろん心配はしている。しかし、ベネズエラで試みられたような軍事介入は、コロンビアでは同じ形では実行できないだろう」。
その理由として、ペトロ氏はコロンビアの地理と歴史を挙げた。コロンビアは山岳地帯と密林が国土の大部分を占め、外国軍の侵攻に対しては伝統的にゲリラ戦で抵抗してきた歴史がある。
「私たちの防衛の拠点は兵舎ではなく、山々や密林にある。この地理的環境こそが、コロンビアで過去75年間にわたりゲリラ組織が政府軍と戦い続けることを可能にし、内戦を長期化させてきた。外国軍が侵攻しても、同じことが起こるだろう」。
コロンビアの近現代史は内戦によって特徴づけられている。過去75年間で70万人が殺害された。当初は政治的宗派主義、そして現在は麻薬密売が動機となっている。
「国民の間では数十万人が犠牲となった。こうした犠牲の一部は、国内の政治的リーダーシップのあり方がもたらしたものだ」とペトロ氏。そして、このような問題のある政治的リーダーシップが、コロンビアと米国の関係にも悪影響を及ぼしてきたと指摘した。
麻薬対策の実績—「2800トン押収は世界史上最大」
トランプ政権はペトロ政権が麻薬対策に消極的だと批判してきた。しかしペトロ氏はこれに真っ向から反論する。
「私は麻薬密売との戦いにおける米国との協力関係を決して撤回していない。コロンビアの諜報機関は押収作戦の63%に参加している」
ペトロ政権の3年間で、合計2800トンの麻薬を押収した。「これは世界史上最大規模の数字だ」とペトロ氏は強調する。この事実は、全く異なるデータを受け取っていたトランプ大統領に提示され、証明されたという。
ペトロ氏は、米国の姿勢に根本的な問題があると指摘する。「米国は『国家の安全保障』を理由に、少なくとも1世紀にわたって他国の主権を無視する介入を繰り返してきた。これこそが米国の国際政策の根本的な欠陥だ」。
「対話と武力の二重戦略」—ELNとの交渉、武装グループへの攻撃
ペトロ政権の麻薬対策は、前政権とは異なるアプローチを取っている。批判派は「対話だけで甘い」と主張するが、ペトロ氏は二重戦略を展開していると説明する。
現在存在する武装グループは、1964年以来の反政府勢力ELN(民族解放軍)を除いて、コカイン密売に蝕まれている。「これらの組織を作り出したのはドゥケ前政権だ。私は武装した暴力的な状態のまま引き継いだ」。
ペトロ政権が展開しているのは2つの同時アプローチだ。
第一に、和平交渉。「もはや政治的大義を持たない山賊集団と化したグループとの対話を続ける」。南部ではこのアプローチが成功し、コカ栽培の大幅な削減と殺人率の低下を実現した。この1年間は1993年以来、今世紀で最も殺人率が低い年の一つとなった。
第二に、軍事作戦。「和平を望まない者たちに対しては軍事攻撃を展開する」。ペトロ政権は1440回の武力衝突を行い、武装グループのメンバー4万人を拘束した。国際人道法の枠組み内で、12回の爆撃も実施した。
「対話政策は暴力の緩和に役立っている。しかし私たちは愚かではない。誰と交渉しているかはわかっている。これはもはや政治的イデオロギーの問題ではなく、金の問題なのだ」。
問題は、武装グループがすぐに勢力を回復することだ。「麻薬取引で巨額の利益を得られる限り、新たなメンバーが次々と参加してくる」。
ペトロ氏の最優先事項は押収量だ。「私はドゥケ前大統領がやったように農民を標的にしたくない。農民を国家の同盟者とし、彼らと協力して本当の意味でコカ農園を根絶する必要がある」。
ベネズエラ仲介の失敗 バルバドス合意から不正選挙まで
ペトロ氏はマドゥロ政権とバイデン前米政権の間で仲介者として動いてきたが、その試みは失敗に終わったと認めている。
マドゥロ大統領には大きな弱点があった。故ウゴ・チャベス前大統領が始めた左派的な政治改革が、マドゥロ政権下で腐敗や経済危機によって変質し、ベネズエラ社会からの支持を大幅に失ったのだ。
こうした状況を受けて、ペトロ氏はメキシコなど多くの国々とともに、マドゥロ政府とバイデン政権の間の交渉に取り組んだ。目標は自由選挙の実現だった。
自由選挙の実現には以下の条件が必要だった。米国側はベネズエラへの経済制裁を解除し、ベネズエラ側は野党への迫害終了、野党統一候補マリア・コリーナ・マチャドの公職追放処分の解除をし、ベネズエラ政府側は 自由で公正な選挙の実施を保証すること、である。
2つの交渉トラックが同時進行していた。1つは「ベネズエラ国内の交渉」—ノルウェー仲介によるチャベス派と反チャベス派の対話(2023年10月のバルバドス合意)。もう1つは「米国とベネズエラ政府の交渉」—経済制裁解除と引き換えに公正な選挙実施を求めるバイデン政権とマドゥロ政権の取引だった。
コロンビアでは、この2つの交渉を支援・監視するため、米国政府、ベネズエラ政府、ベネズエラ野党、欧州・ラテンアメリカ諸国を交えた多国間会合が開かれた。
しかし「今にして思えば、私は見誤っていた」とペトロ氏は認める。双方が約束を履行しなかったのだ。マドゥロ政権はマチャドの公職追放を解除せず、選挙の民主化も実現しなかった。米国は2024年4月にベネズエラに対する制裁を再開した。
そして2024年7月の大統領選挙では、野党候補エドムンド・ゴンサレスが実際には圧勝したにもかかわらず、選挙管理委員会は証拠を示さずマドゥロの勝利を発表した。「すべてが失敗に終わり、この仲介の段階は終わった。私もこの選挙結果を承認しなかった」。
トランプ政権下での再試行も失敗—ELNとマドゥロの癒着
トランプ氏が2025年1月に大統領に就任した後、ペトロ氏はベネズエラ政府と再び協力を試みた。今度はコロンビア・ベネズエラ国境地帯の麻薬密売グループに対する共同作戦だった。
「ベネズエラ側は実際に作戦を実施した。おそらくELN(民族解放軍)以外のグループにより焦点を当てていたが」。
ELNはコロンビアとベネズエラの国境地帯を拠点とし、戦闘員約5800人を擁する左翼ゲリラ組織で、マドゥロ政権と全面的な協力関係にあった。年間約6億ドル(約940億円)に達する麻薬取引による収入を得ており、ELNとマドゥロ政権の利害は密接に絡み合っていた。
「しかし、この国境での共同作戦による仲介の試みも、結局は失敗に終わった」。
それでもペトロ氏は対話を諦めていない。最近はベネズエラのデルシー・ロドリゲス副大統領、ブラジルのルラ大統領と協議している。「ベネズエラ社会のすべてのセクターが信頼を築ける政権の実現に向けて、ベネズエラ国民間の対話に努力を集中させなければならない。誰が勝とうとも、重要なのはベネズエラ国民の決定だ」。
CIAのスパイ活動—「ペガサス」事件を告発
BBCはペトロ氏に、CIAがマドゥロ政権内部に内通者を抱えていたか、そしてペトロ政権内にも米国のスパイがいる可能性について質問した。
ペトロ氏は直接的な回答を避けつつ、コロンビアにおけるCIAの活動について語った。
「コロンビアは約50年間、米国の諜報機関に駐在許可を与えてきた。ただし、麻薬密売と戦う目的に限定してのことだ。私の政権もこの協力を継続しているが、あくまで麻薬密売との戦いに限定している」。
しかし、許可されていない秘密作戦も行われてきたとペトロ氏は明かした。
「私自身が最近告発したのは『ペガサス』と呼ばれるケースだ。これはイスラエル製のスパイウェアで、国家警察の上層部によって空港経由で持ち込まれ、CIAが費用を支払っていた。こうした行為はコロンビアの法律では認められていない」。
コロンビアの検察はこの件の捜査を拒否しているという。
ペトロ氏は、諜報協力は文書化された公的なルールに基づくべきだと主張する。現在、ペトロ政権は欧州、アラブ世界、北米、南米諸国の諜報機関と協力しているが、それは「アマゾンの熱帯雨林を守り、今や多国籍企業と化した麻薬マフィアの影響からラテンアメリカを救う」という明確な目標のためだという。
「私は4回暗殺されかけた」—麻薬密売人という非難への反論
トランプ氏はペトロ氏個人をコカイン密売人だと非難している。これに対し、ペトロ氏は反論した。
「それはコロンビアの極右勢力が、私たちと直接話さずに米国政府に吹き込んでいた情報だ」。
ペトロ氏は自身の清廉性を証明するため、銀行取引明細書を公開した。「3つの銀行に1口座ずつしかなく、2020年以降ずっと調査されてきたが、異常な取引は一度も見つかっていない」。
所有しているのは住宅ローンで建てた自宅だけで、一度は差し押さえられそうになったこともあるという。「車すら持っていない。他人名義で世界中のどこかに不動産を隠し持っていないか捜索されたはずだが、何も見つからなかった」。
ペトロ氏は皮肉を込めてこう述べた。「2世紀にわたり腐敗した寡頭政治が続いてきたこの国で、進歩派の政治指導者が初めて大統領になれた。その歴史的意味の重さを理解している私が、麻薬取引や汚職に手を染めるほど愚かだと思うか?ありえない」。
ペトロ氏が強調するのは、自身が麻薬カルテルと戦ってきた側だという事実だ。
「私は麻薬カルテルと戦ってきた。その代償として、私の家族—母、父、その他の親族—は亡命を余儀なくされた。そして私自身は4回も暗殺未遂に遭っている」。
暗殺を企てたのは、約10年前に暗躍していたコロンビアの準軍事組織「パラミリタリー」だ。「トランプ氏が現在私を『麻薬カルテル』と呼んでいるが、実際に私を殺そうとしたのは、トランプ氏自身の言葉を借りるなら『当時世界最大の無政府テロリスト・カルテル』だった準軍事組織だ」。
準軍事組織は20万人を殺害し、当時最大のコカイン輸出カルテルだった。その所有者たちがコロンビアの政治権力そのもので、上院議員の35%を占めていた。
「私の政策と法的手続きのおかげで、その上院議員の35%を刑務所に送った」とペトロ氏。「上院議員の35%が麻薬テロリズムの同盟者となり、現職大統領がそれを告発して投獄したという国が、他にあるだろうか?」
国民がペトロ氏に投票したのは、20年間汚職に一切関わっていないことを証明してきたからだと氏は強調する。「コロンビアの麻薬密売に責任があるのは寡頭政治そのものであり、もはや汚職など許されない時代だ」。
「化石燃料こそ大量破壊兵器」—気候変動と地政学
インタビューの最後、ペトロ氏は米国民へのメッセージを求められ、気候変動と地政学を結びつけた独自の視点を展開した。
「まず米国民には熟考してほしい。そして、私たちラテンアメリカは団結する必要がある。
ペトロ氏はICEを批判する。「ICEはかつてナチスやムッソリーニ政権下のファシスト武装組織が行ったように、人々を迫害し挑発している。もはやラテンアメリカ系住民だけでなく、米国市民まで殺害している」。
ICEによる市民殺害をきっかけに、ベネズエラ、コロンビア、そして米国内でも抗議デモが発生している。「これらすべてを総合的に見ると、『世界を支配する米国』ではなく、『世界から孤立した米国』になってしまう」。
ペトロ氏はローマ帝国の衰退を引き合いに出した。「帝国は世界から孤立しては築けない。それはローマ帝国に起こったことだ。その選択は米国民自身が決めなければならない」。
世界で重要な地位を占める米国は、民主的な対話と世界における民主的ルールの構築を通じてこそ達成されると氏は主張する。「私はそれを『グローバル民主主義』と呼んでいる。そして、それこそが人類の最優先課題であるべきだ」
そしてペトロ氏は、最も印象的な警告で締めくくった。
「気候危機から気候崩壊へと移行すれば、私たちは人類絶滅の危機に瀕することになる。これは石油、ガス、石炭の消費から脱却することによってのみ解決できる。そのための技術は既に存在する」。
「別の道—化石燃料を使い続ける道—は、消費による絶滅だ。ベネズエラの石油埋蔵量を掘り尽くし、世界最大級のコロンビアの石炭埋蔵量を使い果たせば、地球上に生きている人間は一人も残らないだろう。それこそが真の大量破壊兵器なのだ」。
「私たちがすべきことは、それらを地中に貯蔵したまま残し、脱炭素経済に移行することだ。私はこのことをトランプ大統領との電話で伝えた。彼はあまり反応しなかったが、この問題は真剣に分析される必要がある」。
2月3日のワシントン会談で、ペトロ氏の警告がトランプ氏にどう受け止められるのか。両首脳の直接対話が、緊張緩和への一歩となるか注目される。




