トランプ大統領、アフガン戦争でのNATO軍軽視発言 英首相は謝罪要求 しかしアフガン人の犠牲者は?
トランプ米大統領が、また「お騒がせ発言」をした。今度は米国主導のアフガニスタン戦争(2001-2021年)での北大西洋条約機構(NATO)加盟国の関与についてだ。
22日、トランプ氏は米FOXニュースのインタビューで、アフガニスタンでの戦争においてNATO加盟国は「部隊をいくらか派遣したが、前線から少し離れたところにとどまっていた」と述べ、「米国がNATOを必要としたことは一度もない」と語った。同盟国の貢献を軽視するこの発言は、直ちに反発を招いた。
英首相「侮辱的」
これに対し、スターマー英首相は23日、「侮辱的であり、率直に言ってひどいものだ」と強く反発した。戦死者や負傷者の家族、さらには国民全体を傷つけたとし、「自分であれば謝罪する」と述べ、トランプ氏に謝罪を求めた。英国にとって米国は「特別な関係」にある最重要の同盟国であるが、今回の発言は許容範囲を超えたと判断したようだ。
アフガニスタン戦争とは
アフガニスタン戦争は、2001年9月11日の米同時多発テロを直接の契機として始まった。首謀者オサマ・ビンラディンをかくまっていたとされるタリバン政権に対し、米国は軍事介入を決定。これを受け、NATOは集団防衛を定めた第5条を史上初めて発動し、英国、カナダ、ポーランド、デンマーク、エストニアなど多くの加盟国が部隊を派遣した。
連合軍は短期間でタリバン政権を崩壊させたが、その後も武装勢力との戦闘は続き、戦争は20年に及んだ。連合軍側の戦死者は3500人を超え、英軍では457人が命を落とした。これは米軍の2461人に次ぐ規模である。
当初の目的は、アルカイダの壊滅、タリバン政権の打倒、テロの温床の除去であった。しかしタリバンは消滅せず、内戦、テロ、外国軍の駐留が長期化した。
今回のトランプ氏の発言に対し、英国内では退役軍人、遺族らも激しく反発している。アフガニスタンで重傷を負った元兵士の母親は「とても侮辱的」と憤りを表明した。
アフガン人犠牲者は?
正確な数字は存在しないが、研究機関の推計はおおむね一致している。2001~2021年に、アフガン民間人の死者は約4万6千~5万人、アフガン治安部隊(兵士・警察)の死者は約6万~7万人に達し、合計で少なくとも17万~20万人が犠牲となった。
さらに、難民・国内避難民は600万人以上に上り、負傷者、障害者、心的外傷、医療・教育の崩壊、女性や子どもへの長期的影響など、戦争の代価は計り知れない。犠牲の大半がアフガン人であったという事実は動かない。
それにもかかわらず、英国の政治家の怒りは主として、「NATO同盟の名誉を傷つけた」、「英兵の勇気と犠牲を否定した」、「西側の結束を弱めた」といった点に向けられている。
しかし本質的な問いは、「そもそも介入は正しかったのか」、「20年続ける意味はあったのか」であろう。これを正面から問えば、政府の判断、議会の承認、国民の支持そのものが揺らぐ。そのため、批判は発言の無礼さに集中しているようにも見える。
なぜ20年も続いたのか
アフガニスタン戦争が20年も終わらなかった最大の理由は、戦争目的の変質である。当初は対テロ作戦であったものが、「民主国家の建設」、「女性の権利擁護」、「近代的政府の育成」という国家建設へと拡張された。軍事作戦から社会改造への転換は、戦争の性質を根本から変え、致命的な誤りとなったといわれている。
さらに、アフガニスタンは部族社会であり、忠誠の単位は国家ではなく部族や村である。中央政府は歴史的に弱く、山岳地帯の統治も困難であった。西欧型国民国家モデルを無理に当てはめたことが、統治の正統性を損なった。
タリバンは外国軍の存在によって民族抵抗運動としての性格を強め、住民に溶け込み、国境を越えて安全地帯を確保した。壊滅は極めて困難であり、この構図はベトナム戦争と酷似している。
加えて、米国主導で樹立されたアフガン政府は汚職が蔓延し、幽霊兵士が横行した。一般市民から見れば「外国と癒着した富裕層の集団」であり、政府軍の士気は低下した。
決定的だったのは出口戦略の欠如である。米国は失敗を認めることを恐れ、撤退を先送りした。その結果、勝利の定義は曖昧となり、戦争は「終わらない戦争」となった。
撤退作戦の失敗
2021年8月の撤退は、その帰結であった。タリバンは急速に全土を掌握し、カブール陥落の光景はサイゴン陥落を想起させたともいわれている。空港での自爆テロでは米兵13人を含む約170人が死亡し、撤退の悲劇性を象徴した。
責任の所在
責任の所在を整理すると、アフガニスタン戦争の設計責任は米国にある。国家建設という構想、目的拡張、出口不在はいずれも米国主導であった。
一方、英国は追従し、止めなかった責任を負うのではないだろうか。議会承認のもと主体的に参戦し、英国政府・軍内部には、「これは無理では?」、「出口が見えない」、「地元社会と噛み合っていない」という警告が早い段階から存在していたが、同盟関係を優先し、米国に異を唱えず、関与し続けることを選んだ。
英軍の戦死者が出るほど撤退が政治的に困難になり、「彼らの死を無意味にできない」が継続の理由に変わった。つまり、犠牲が継続の論拠になってしまった。
西側全体としては、介入を選び、失敗を知りながら続け、希望を制度化して放棄した責任を負う。責任を曖昧にする言説が繰り返されるのは、同盟の正当性と犠牲の意味付けを守るためである。しかし、その代価を最も多く払ったのは、アフガン人であった。
現在のアフガニスタンは、タリバンが実質的に支配する国家である。国際的正統性は得られず、治安、人権、経済はいずれも深刻な状況が続いている。
現地への影響を忘れないために
トランプ氏の発言が引き起こした論争は、図らずもアフガニスタン戦争をめぐる未解決の問題を浮き彫りにした。
この戦争は、軍事力で解決できない問題を軍事力で解決しようとした失敗といえよう。失敗は撤退時に始まったのではなく、最初から終われない構造を内包していた。そして、失敗を認める政治的な勇気の欠如が、失敗を20年間引き延ばした。
アフガン戦争から真の教訓を引き出すためには、政治的な痛みを恐れず、「現地の人にとってはどんな意味を持つのか」を問い続けるべきではないだろうか。戦争の犠牲者、そして今も苦しんでいる人のためにも、である。




