小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

ライブドア 堀江氏逮捕後の英報道


「涙だけ」

 堀江社長が23日逮捕され、英時間夕方時点で、英新聞各紙(ブロードシート紙)のウエブをチェックすると、ロイター、APなど通信社電と組み合わせたような記事が載りだしている。何故かテレグラフはすぐに見つからなかった。(紙には出ているだろう。)

 昨日の記事にコメント、トラックバックを下さった方の発言内容が非常に含蓄のあるものだった。

 一つには、昨日どうもうまく言語化できなくて書かなかったが、つまり、「新聞によって裁かれたくないし、裁かれるべきでない」(トラックバックしてくださった方)の思いは、十分私も同感する。

 また、FTの論調というのは「偏り」があって、あくまで「資本主義を信奉するFTの」見方であるので、その主張を差し引いてみる必要があるかと思う。「ひとこと言わせてください」さんの、「所詮、証券市場という狭い窓から日本を眺め、傲慢な資本家の理屈を振りかざしている」という部分は、少なからずあると思う。「搾取の場を日本に求めている」という姿勢も、これまで、別の記事を通して、私も感じた。

 「ライブドアとモラルハザードや若者に対する影響」、というのは、ライブドアに関する全部の英新聞の報道をチェックしたわけではないが、英メディアではどこも書いていない視点だと思う。

 FTがある意味でおもしろいのは、ライブドアや日本経済の行き先に(あるいは他の国の経済でも同様なのだが)、最も関心を持って報道している英新聞、という点だ。証券市場、金融市場、国際ビジネスなど、自分の(あるいは企業の)金が増えるか増えないか、ということに関心のある人が読者であり、「生活がかかっている感じ」があるのだと思う。他の新聞を読んでいて、それぞれにスタンスが違うが(保守派、左派など)、編集方針の根底にあるものは何なのか?と考えることがある。FTの場合は、「金」「資本主義の興隆」なのだろう、名前が既にそうだが・・・。

 そこでまたFTを見ると、23日付で、東京にいるナカモト・ミチヨ記者のHorie’s rags to riches story might be a mythという記事が出ている。今日の流れを書いているが、その中で、「逮捕されたにも関わらず、堀江氏には多くの支持者がいる」と指摘。堀江氏は「僕の世代を代表している。逮捕は本当に恥だと思う」と、大阪の若者がテレビのインタビューで答えた様子を紹介している。

 記事の後半では、ライブドアの帳簿を承認した監査人に関心が移るだろう、と見ている。一連の出来事は、堀江氏のビジネス手法に対する批判をさらに強めることになった、としているが、この手法というのが、「企業を成長させるためにM&Aを使うなどといった、合法的なビジネス手法も含む」、と。

 最後に、「東証に上場されている決済会社インボイス社のキムラ・イクオ氏」のコメントを紹介している。氏は、「多くの企業が証券取引法違反に関わっている」、「ベンチャー企業だからといって、ルールに十分な注意を払っていない、とするのは誤解を招く恐れがある」、と言っている。

 どことなく、ややライブドア支持のような印象で終わる記事だ。(ライブドアに限らず、最後のキムラ氏のコメント内容は、私自身もそう思ってはいるが。)他の新聞の逮捕記事でも、最後の文章が、「堀江氏は自分のブログで、何ら違法行為はしていない、と書いている」としている場合が多かった。

 一方、23日付のFTのLEXコラムは、「ライブドアの最後の日も近づいている」という文章が入る記事になっており、淡々とこれまでの経緯と暗い将来の展望を書いている。最後は、「インターネットの成功者の若者が逮捕され、小株主が最後に得るのは涙ーそれ以外には何もない」と、前回に引き続き、あくまでクールに終わっている。
by polimediauk | 2006-01-24 04:13 | 新聞業界