「独立性の幻想」――英国核抑止力の本当の姿 英パグウォッシュ協会のズーム会議報告(第二部)
3月5日、英国パグウォッシュ協会はズーム会議を開催した。
テーマは「英国の核兵器の将来――米国依存からの脱却は可能か?」である。
イランをめぐる米英の亀裂が公然と表面化したその2日後のことだった。
前回(第一部)では、核軍縮・核不拡散を専門とする独立系シンクタンクBASICの政策研究員デーヴィッド・カレン氏の講演を報告した。
カレン氏が明らかにしたのは、英国の核兵器プログラムが抱える技術的・財政的な現実だった。ミサイルは米国からの借り物であり、潜水艦の心臓部は米国設計、弾頭は米国との共同開発である。次世代潜水艦を建造するドレッドノート計画は深刻な遅延とコスト超過に見舞われている。原子炉製造を一手に担うロールス・ロイスがその核心にあるが、代替できる企業は存在しない。
「英国が真の意味で独立した核保有国になる道はない」というカレン氏の結論は、冷徹な事実の積み重ねから導かれたものだった。
では、なぜ英国はこのような構造に陥ったのか。それは偶然ではなく、70年前に英国自身が選んだ道の帰結だと専門家は指摘する。
今回(第二部)は、元BASICの事務局長でケンブリッジ大学実存リスク研究センター研究員のポール・イングラム氏が、より広い歴史的・政治的文脈から「なぜ英国は米国依存の道を選んだのか」に切り込む。

スエズ危機が決めた英国の運命
イングラム氏によると、「英国は独立した核抑止力を持てるか」というのは、実は奇妙な問いである。なぜなら英国の核抑止力の存在意義そのものが、米国と結びついていることにあるからだ。その歴史的な出発点は、1956年のスエズ危機だったと同氏は言う。
エジプトのナセル大統領がスエズ運河を国有化したことに対し、英国・フランス・イスラエルが軍事介入したが、米国が強く反対して経済的圧力をかけ、英国とフランスは屈辱的な撤退を余儀なくされた。イスラエルも最終的にシナイ半島から撤退した。
この後、英仏両国は正反対の選択をした。フランスは独自の核兵器・ミサイル・潜水艦をすべて自国で開発・製造し、米国の技術に依存しない完全に独立した核戦力を築いた。北大西洋条約機構(NATO)の統合軍事機構からは一時脱退したが、核の独立性は現在に至るまで一切妥協していない。
英国は「米国と可能な限り緊密な関係を維持する」という選択をし、それが以後の英国の最優先外交政策目標となった。
「スエズ以来、われわれは選択をした。フランスは独立の道を選んだ。われわれはできる限り米国に近くあることを選び、それ以来ずっと、それが英国の最優先外交政策目標であり続けている」(イングラム氏)。
同じ屈辱的体験をしながら、フランスは独立を選び、英国は米国に寄り添う道を選んだ。
その選択の結果が、70年後の今日におけるフランスの核の独立性と英国の対米依存という対照的な現実につながっている、とイングラム氏はいう。
潜水艦の「本質」は米国製
イングラム氏は。建造予定の新型潜水艦ドレッドノートの構造的な対米依存についても詳しく説明した。
特に注目したのが、カレン氏も指摘したように、「共通ミサイル区画」の問題だ。
これは潜水艦の中でトライデントミサイルを格納・発射するための船体中央部のモジュールで、英国のドレッドノート級と米国のコロンビア級潜水艦が、まったく同じ設計・規格のものを共同開発・共同使用している。設計は主に米国主導で行われた。この区画にはミサイル格納部だけでなく、乗員居住区や作戦行動を管理する指揮統制システムも含まれている。
「潜水艦の本質的な部分は基本的に米国が設計し、共同で製造されている。弾頭もまた、英国的な味付けはあるものの、米国の設計に非常に強く基づいている」。
核兵器が防衛予算を食い潰している
イングラム氏はさらに財政的な観点からも深刻さを指摘した。
核兵器関連の支出が防衛予算に占める割合は年々著しく増加しており、当初の約5%が、2020年代前半には14〜17%、今後数年間は18〜20%になる見込みだという。しかもこれはすでに増額されつつある防衛予算を前提とした数字だ。
「増額の公約があるにもかかわらず、すべてが核事業に吸い取られているため、防衛予算の残りはほとんど横ばいと言っても過言ではない。今後10年間で1200億ポンド(約25兆円、執筆当時の為替レート)という予測が出ており、まったく驚くべき金額だ」。
独立には30年かかる
もし英国が核政策において米国から独立する道を選んだとしたら、どうなるのか。
イングラム氏は2013年に政府自身が実施した「トライデント代替案レビュー」を参照しながら詳しく説明した。このレビューは約750の選択肢を検討したが、最も重要な結論はこうだった。「米国が核システムへの支援を撤退した場合、英国の核抑止力はわずか数週間で機能しなくなる――運が良くても数か月程度しか維持できない」。
代替案として真剣に検討されたのは、垂直発射ミサイル管を備えた攻撃型潜水艦12隻の艦隊、あるいは空中発射巡航ミサイルを搭載する戦闘機・爆撃機の二つの選択肢だった。しかしいずれも、はるかに能力の低いシステムに対して同等のコストがかかるという結論だった。
「英国が弾道ミサイル搭載熱核弾頭(水素爆弾方式の核弾頭)を独自に設計・開発・製造するのに現状でも17年かかる。代替システム用の熱核弾頭を完成させるとなると約24年、コストは3〜4倍になる。そして現在のドレッドノート計画の遅延を考慮すれば、このタイムラインはさらに延びるのは確実だ」
「もし今日、英国のエリート層が外交政策の最優先姿勢を転換し、それでもなお核兵器を保持しようとするなら、おそらく30年程度かかるだろう。まる一世代の間、ドレッドノート・システムと米国に依存し続けなければならない。これではまったく意味をなさない」。
カレン氏とイングラム氏の発言の後、ズーム会議は質疑応答に入った。
AIと核兵器――見えない脅威
最初の質問はAIと核兵器の関係についてだった。参加者から、米国防省とAI企業がイランへの攻撃において情報評価・目標識別・戦闘シミュレーションにAIツールを使用したという指摘があった。
イングラム氏はこう答えている。
「核の指揮統制へのAI活用については多くの議論がある。核保有国はいまだ何らの合意にも達していない。『人間が意思決定に関与すべき』という点では一致しているが、実際には速度と複雑さゆえに人間が合理的に評価することが不可能なセンサーデータを取り込んだAIが、『今すぐ核兵器を発射すべき確率は85%です』といった判断を示すことに過ぎない。AIシステムに核危機の意思決定を委ねた仮想演習(ウォーゲーム)では、AI同士が判断をエスカレートさせ、全面核戦争に至る確率が95%に達するという研究結果もある」。
カレン氏はより実務的な懸念を示した。
「私が心配しているのはロボットが世界を支配することではない。AIモデルが喧伝されているほど賢くないにもかかわらず、政府がそれを本来近づけてはならないシステムの制御に使おうとしていることを心配している。ガザにおけるイスラエルの行動を見れば、AIを標的識別に使った場合に何が起きるかは明らかだ――人が死ぬのである」。
核態勢見直しを行わないトランプ政権
次の質問は、トランプ政権が「核態勢見直し(Nuclear Posture Review)を実施しない」という決定についてだった。核態勢見直しとは米国が定期的に行う核兵器政策の包括的な見直しで、歴代政権はほぼ就任後に実施してきたが、トランプ第二期政権はこれを行っていない。
カレン氏は「トランプ氏はあまりに気まぐれで予測不可能であり、そのような人物をトップに戴いて戦略を書くというのはほとんど無意味な作業だ。核態勢見直しを誰も書こうとしなかったのではないかとも思う」と述べた。
NATO核共有参加の意味
英国がNATOの核共有に参加した意味について問われると、両者は批判的な見解を示した。
そもそもNATOの「核共有」とはどういう仕組みか。
米国がベルギー・オランダ・ドイツ・イタリア・トルコの5か国の空軍基地に核爆弾を預け、有事の際にはその国のパイロットが米国の核爆弾を自国の戦闘機に搭載して投下する任務を担う――これが核共有の取り決めだ。現在配備されているのはB61-12という重力爆弾(航空機から投下するタイプの核爆弾)である。
ただし核爆弾の所有権と使用の最終決定権は常に米国にある。各国のパイロットが「運ぶ役割」を担うだけで、米大統領の承認なしに使用することはできない。つまり「その国が自由に使える核兵器」ではまったくない。
この核共有に参加するための条件が、B61-12を搭載できる航空機を保有することだ。現在参加している国はいずれも、B61-12の搭載が認証された戦闘機(F-35AまたはF-16)を運用している。
英国はもともと独自の核兵器(トライデント)を持っているため、これまでこの核共有ミッションには参加していなかった。
しかしスターマー英首相は昨年6月、オランダ・ハーグで開催されたNATOサミットの場で、レーダーに探知されにくい「ステルス戦闘機」F-35の発注の一部を、空母搭載型(F-35B)から陸上基地型(F-35A)に切り替えると発表した。米ロッキード・マーティン社製のF-35Aは、F-35Bとは異なりB61-12核爆弾の搭載・投下が可能だ。購入するのは12機である。
つまりF-35Aを持つことで、英国は初めてB61-12を運搬できる航空機を手にする。これが英国の核共有参加を意味する。
英国政府はこれを「一世代で最大の核態勢強化」と称した。英国空軍が核搭載航空機を運用するのは、冷戦終結後の1998年に空中投下型核爆弾を退役させて以来、実に27年ぶりのことだ。
しかしカレン氏はこの発表の実態を冷静に分析する。
「核共有とF-35A切り替えの発表は、英国が新たな核兵器能力を獲得しているという印象を与えるよう意図されていた。しかし実際には英国は新たな核兵器能力を獲得していない。核兵器は米国の管理下に置かれたままだ」。
実際、F-35Aに搭載されるB61-12核爆弾の所有権は米国にあり、使用するには米大統領の明示的な承認が必要だ。英国が単独で使用を決定することはできない。
さらにF-35Aはまだ英国に存在せず、現時点で英空軍レイクンヒース基地に配備されたとみられる核爆弾を運搬できるのは、同基地に駐留する米空軍の航空機だけだ。
イングランド東部サフォーク州にあるレイクンヒース基地は、名称こそ「英国空軍基地」だが、実際には英国最大の米空軍駐留基地であり、冷戦以来、米軍が使用し続けている。
イングラム氏はさらに踏み込んで、核共有の軍事的意義そのものを否定した。
「核共有の取り決めは、受け入れ国のいずれにとっても、軍事的な意味をまったく持たない。それは常に、自国では核兵器を持たないNATO加盟国が『われわれもNATOの核抑止戦略を支持し、その責任を共に担う』という意思を示すための、純粋に政治的な取り決めに過ぎない。われわれはかつてこれを『血に手を染める』と呼んでいた――核兵器の使用に加担する側に立つという意味だ。英国はすでに独自の核兵器(トライデント)を持っているのだから、この参加はなおさら奇妙だ――英国はすでに肘まで血に浸かっているのだから」。
個人的な見立てとしてイングラム氏はこう述べた。
「F-35A切り替えはもともと、英国空軍が訓練目的により適した航空機を取得しようとした実務的な決断に過ぎない。スターマー首相はその機会を捉えて、核共有参加と抱き合わせにすることで『私は核に関して真剣な指導者だ』と示す材料にしたのだと思う。これらは政治的兵器だ――核兵器はその本質において政治的兵器である」。
潜水艦は時代遅れになりつつある
イングラム氏はさらに、核抑止の将来について根本的な疑問を呈した。
「対潜水艦戦技術は急速に発展している。海中を自動で探索する無人潜水機、海底に大量展開できる安価な探知センサー、AIによるビッグデータ解析、そして音に頼らず磁気やレーザーで潜水艦を探知する新技術――これらが組み合わさることで、『海中に潜んでいれば見つからない』という潜水艦の最大の強みが失われつつある」
「ドレッドノートがどれほど優秀な潜水艦であっても、敵の探知技術が向上すれば、隠密性という前提そのものが崩れる。潜水艦が撃沈されても英国側はそれを知らないまま危機的状況に陥りかねない。潜水艦だけに核抑止力を依存している国は、非常に大きなリスクを冒していると言える」。
英国核抑止の「独立性」は幻想か
英国が主張する「作戦上の独立性」の実態について問われると、カレン氏もイングラム氏もともに懐疑的な見方を示した。
イングラム氏は「確かに高度な統合があるが、一定の独立性も存在する。精度は大幅に低下するが、理論上は発射して目標に到達させることは可能だ。しかし完全に切り離すことは非常に難しい。貸与されたトライデントに米国が遠隔停止装置(キルスイッチ)を設置している可能性が非常に高い。F-35にも遠隔制御できる機能がある可能性は非常に高いと思う」。
カレン氏は「技術的な独立性」と「政治的な独立性」は全く別物だと指摘した。
「英国は理論上、月曜日に核ミサイルを発射できるかもしれない。しかしそれを気に入らなかった米国が、火曜日・水曜日・木曜日にミサイルの供給停止・条約破棄・経済制裁など、あらゆる報復手段を取るとしたら――果たして核ボタンを押せるだろうか。結局のところ、独立性は幻想に過ぎない」。
核抑止は失敗しているのか
最後の質問は本質的な問いだった。核兵器を保有しているにもかかわらず攻撃を受け続けているイスラエルの状況は、核抑止理論への有力な反論ではないかというものだ。
イングラム氏は「そうだ、これは有力な論拠だ」と明確に答えた上で、さらに踏み込んだ指摘をした。核保有国はいずれも世界規模で軍事力を行使してきた歴史を持つ。「核兵器を持つことで、強国は相手からの全面的な報復を恐れずに海外での軍事行動を取れるようになる。核兵器は戦争を防ぐためではなく、むしろ強国が弱国に介入しやすくする道具になっている可能性がある」。
カレン氏は「暴力の連鎖と地域の不安定化を深く憂慮している。しかしこの紛争の核的側面については、それほど懸念していない。イスラエルの核能力は、敵対的な隣国による地上侵攻の脅威が現実的だった20世紀半ばの文脈で開発されたものであり、その脅威はすでに大きく薄れている」と答えた。
チャーチルでさえ選んだ道の果てに
今回の会議が明らかにしたのは、英国の核政策が抱える複合的かつ深刻な矛盾だった。
ドレッドノート計画は深刻な遅延とコスト超過に見舞われ、その最大の障害を作り出すロールス・ロイスには代替がない。核兵器関連の支出は防衛予算を圧迫し続ける。ミサイルは米国からの借り物、潜水艦の心臓部は米国設計、弾頭は米国との共同開発――英国が「独立した核抑止力」と称するものは、実態においては米国の承認と支援なしには機能しない。そして米国から独立した核システムを構築するには30年以上と天文学的なコストが必要であり、現実的な選択肢とは言えない。
技術的・財政的な現実を直視すれば、両講演者が一致して導き出す結論は一つだ。英国の合理的な選択は核兵器の放棄である。しかし同時に、英国のエリート層がその選択をする見込みはほとんどないとも述べた。英国は当面、米国依存の深化という道を歩み続けるだろう。
トランプ大統領が「チャーチルではない」と言ったとき、彼はおそらく英国の弱腰を批判したつもりだっただろう。しかし歴史を辿れば、皮肉なことに米国への核依存の道を最初に選んだのは、他ならぬチャーチル自身だったのかもしれない。
1943年のケベック協定で、チャーチルは英国の核開発を米国のマンハッタン計画に統合し、核兵器の使用には両国の合意が必要という条件を受け入れた。
スエズ危機はその選択をさらに深めただけに過ぎない。
チャーチルでさえ、核開発において米国との統合を選んだ。その道の果てに、今日の英国がある。
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本稿(第一部・第二部)は、3月5日に開催された英国パグウォッシュ協会のズーム会議の記録をもとに作成した。




