BBC、次期トップにに元グーグル経営陣のマット・ブリティン氏が就任へ
英公共放送BBCの次期経営陣トップに、元グーグル欧州責任者マット・ブリティン氏が就任することになった。3月25日、BBCが発表した。
BBCは、報道番組「パノラマ」を巡る編集上の問題で批判を受け、昨年11月、経営陣トップ「ディレクター・ジェネラル」職のティム・デイビー氏が退任を表明した(正式退任は来月)。同時に、ニュース部門責任者デボラ・ターネス氏も辞任を表明。BBCは、経営トップと報道トップの二人を同時に失う前代未聞の事態となっていた。
ブリティン氏の就任は、BBC内部の信頼回復と組織改革を進める重要な局面での動きとなる。
放送業界ではなくテック業界出身の人物がディレクター・ジェネラルに就任するのは、BBCの100年以上の歴史の中で初めて。放送からデジタルへの移行という時代の変化を体現した動きともいえる。
ブリティン氏とは
英南部サリー州ウォルトン・オン・テムズ生まれ、現在57歳。ケンブリッジ大学で学び、ボートレースに3回出場。1989年の世界選手権では銅メダルを獲得した。その後、ロンドン・ビジネススクールで修士号を取得。複合メディア企業トリニティ・ミラー社で商業・戦略部門を担当した後、2007年にグーグルに入社した。
2014年には欧州・中東・アフリカ担当社長に就任。2024年末に退社し、約1年間の「ミニ・ギャップイヤー」を取った。
「ギャップイヤー」とは、学校卒業や就職前後に経験や視野を広げるための休暇で、海外では旅行やボランティア、インターンなどに充てられることが多い。この間、同氏はガーデニングやスキューバダイビングを楽しむ一方、ガーディアン・メディア・グループの非常勤取締役も務めた。今年1月には、テクノロジーとデジタルスキルへの貢献により、CBE(大英勲章)を受章している。
ブリティン氏はグーグル在籍時、欧州での規制対応や広告問題の対応など難題を乗り越えた実績があり、関係者からは「冷静かつ戦略的で、チームをまとめる力に長けている」と評価されている。一方、公共放送での経験はなく、伝統的な編集権限や報道倫理にどう対応するかが今後の注目点だ。
課題と挑戦
ブリティン氏の直面する課題は多岐にわたる。
まず、トランプ米大統領によるBBC「パノラマ」番組の誤編集に関する名誉毀損訴訟(約1兆6000億円規模)への対応である。番組では2021年1月6日のトランプ氏の演説映像が不適切に編集され、BBCは謝罪した。訴訟は来年フロリダ州で裁判が行われる予定で、BBCは棄却を求めている。
さらに、辞任したターネス氏の後任となるニュース部門責任者の選定や、副ディレクター・ジェネラル職の新設も急務で、組織内部の安定を確保しながら改革を進めることが求められる。BBCは、放送とオンライン配信を統合する「iPlayer」やデジタル戦略を強化する必要があり、米国のプラットフォームとの競争も激しい。
また、BBCの存立と運営方針を定める「王立憲章」が2027年末に期限を迎える。更新に向けて政府との交渉を進める必要があり、NHKの放送受信料に相当する「テレビライセンス」制度の将来も議論の焦点だ。過去10年間でBBCは実質的に予算を3分の1近く削減しており、経営基盤の見直しも急務となっている。
ブリティン氏のテック業界での経験は、デジタル化の加速や組織改革において大きな強みとなる。BBC内部では、同氏の戦略的思考や危機管理能力に期待する声が出ているという。
新ディレクター・ジェネラルとしての年俸は565000ポンド(約1億2000万円)。就任は5月で、BBCにとっては新体制での信頼回復とデジタル競争力強化の時となりそうだ。




