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小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

核不拡散条約の岐路 米ロ対立・イラン攻撃・欧州の核抑止論 NPT再検討会議が問いかけるもの

なぜ今、欧州にとってNPT再検討会議が重要なのか

 4月27日、国連本部でNPT(核不拡散条約)第11回再検討会議が開幕した。

 核安全保障をめぐる最重要の多国間会議がこの時期に開かれることは、欧州にとって特別な意味を持つ。

 ロシアによるウクライナへの侵攻が続き、欧州最大の原子力発電所であるザポリージャ原発はロシアの不法占拠下に置かれたままだ。フランスのマクロン大統領は2026年3月、核弾頭を増やす方針を発表し、欧州における核抑止の議論に火をつけた。かつて軍縮の旗手だった欧州諸国の中にも、核兵器との関係を見直す動きが生まれている。米ロ間で核弾頭数を規律してきた「新START条約」は2026年2月に失効し、両国の核兵器計画を縛る条約は今や存在しない。

 NPTが欧州の安全保障を本当に守れるのか。この問いは、ウクライナだけでなく欧州全体に影響が及ぶ現実である。

 開幕日の27日、米ジャーナリスト、マーク・レオン・ゴールドバーグ氏が司会するポッドキャスト「Global Dispatches」がケルシー・ダベンポート氏(軍備管理協会・不拡散政策ディレクターにインタビューした。以下はその概要である。

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NPT(核不拡散条約)とは

 NPTは、核兵器をめぐる国際的な取り決めの根幹をなす条約です。1970年に発効し、現在191カ国が加盟しています(インド、パキスタン、イスラエル、南スーダンなどは非加盟)。

 条約の目的は三本柱から成っています。

 第一に「軍縮」——条約締結以前に核実験を行った米国、ロシア(旧ソ連)、中国、英国、フランスの5カ国が核軍拡競争を停止し、核兵器廃絶に向けた交渉を行うことを約束するものです。

 第二に「不拡散」——核兵器を保有せずに条約に加盟したすべての国が、核兵器の開発・取得を控えることを誓います。

 第三に「平和利用」——国際原子力機関(IAEA)の保障措置を条件に、発電や医療用同位体製造など、民生目的の核技術へのアクセスをすべての加盟国に保障します。

 不拡散という点では著しい成功を収めてきました。条約の交渉を機に、核兵器開発に関心を持っていた複数の国が計画を放棄し、NPTに加盟しました。IAEAが各国への立ち入りを可能にする仕組みも機能し、イラクの大量破壊兵器計画の発覚など、違法な核活動の検知にも貢献してきました。

 しかし問題もあります。特にここ10年ほどで、多くの非核兵器国が核兵器国の軍縮約束の不履行を批判するようになっています。冷戦中・冷戦後を通じて米国とロシアは核弾頭数を大幅に削減してきましたが、その流れは逆転しました。今や全ての核武装国が新たな核運搬システムに投資しており、一部の国は核弾頭数を増やしてさえいます。「NPTは本当に安全保障上の恩恵をもたらすのか」という問いが、かつてないほど重くなっています。


最大の争点は?

 率直に言って、論争にならない議題を探すほうが難しい状況です。

 最大の争点は「軍縮の柱」の崩壊です。米ロ間で核弾頭数を規律してきた最後の条約、新START条約が2026年2月に失効し、両国の核兵器計画を縛る国際条約はもはや存在しません。中国は核弾頭の備蓄を増やし続けており、全ての核武装国が新システムに投資しています。

 多くの非核兵器国はこれを、NPT第6条の軍縮義務に対する違反とみなしています。その怒りは、単なる法的解釈の問題ではありません。核兵器国ロシアがウクライナに対して違法な侵略戦争を仕掛け、米国とイスラエルがイランの核施設を違法に攻撃している——そういった現実の安全保障環境の中で、「核兵器を持たない選択」が本当に自国を守るのかという問いが、非核兵器国の間で広がっているのです。


保障措置が適用された核施設への攻撃とは

 二つの深刻な問題が絡んでいます。

 一つは、ロシアがウクライナのザポリージャ原子力発電所——欧州最大——を不法占拠し続けていることです。施設そのものへの攻撃だけでなく、送電線や冷却システムへの攻撃が繰り返され、IAEA事務局長のラファエル・マリアノ・グロッシ氏は安全上の懸念を繰り返し表明しています。

 もう一つは、米国が2025年6月にイランの保障措置対象核施設に対して軍事攻撃を行い、2026年2月28日以降も同様の攻撃を続けていることです。IAEAが「イランは核兵器化の決定を下したという証拠がない」と認定しているにもかかわらず、です。

 こうした事態から、NPTに加盟していれば自国の核施設が保護されるという前提が崩れつつあります。再検討会議では、イランが米国への非難を求め、ウクライナがロシアのザポリージャ占拠に関する文書化を求めると予想されます。「侵略国を具体的に名指しするかどうか」が対立の焦点になる可能性があります。2022年の再検討会議でも、ロシアのザポリージャへの侵略行為の名指しが最終合意文書の採択を妨げました。


核エネルギーの拡大と核拡散の懸念はどう関連するのか

 核エネルギーへの関心が世界で高まる中、濃縮ウランやプルトニウムといった「核分裂性物質」の製造技術を持とうとする国々が増えており、核拡散への懸念が高まっています。

 韓国はウラン濃縮を支持する内容の合意に米国と達しており、国内では北朝鮮を抑止するための核兵器開発をめぐる議論も起きています。また、米国はサウジアラビアが厳格なIAEA保障措置なしに国内ウラン濃縮プログラムを持つことを支持する方向にあるようです。

 こうした動きは、「平和利用」の名の下で核兵器開発能力に近づこうとする動きではないかという疑念を生んでいます。「追加議定書」と呼ばれるより厳格な保障措置の普遍化をこの会議の課題とすべきです。


イランをめぐる状況が会議に影響を与えるか

 非常に大きな影響を与えます。現在イランではNPTからの脱退をめぐる議論が活発化しており、イラン国会にはNPT脱退を義務づける法案が提出されています(まだ成立していませんが)。米国やイスラエルからの攻撃への反発として、核兵器化を支持する声が力を増しています。

 再検討会議の開催中にイランのNPT脱退議論が一段と高まる懸念があります。問題はイラン一国にとどまりません。もしイランがNPTを脱退しても国際社会から意味ある結果に直面しなければ、他の国々の脱退を招きかねないからです。

 かつては北朝鮮問題やイランの核合意交渉でも、安全保障理事会が結束して制裁を科すことで「NPT違反には結果が伴う」という規範を維持してきました。しかし今や、欧州・米国とロシアの対立が深まり、安保理がNPTを執行する保証はありません。各国がこの分断を利用しながら、核兵器化の瀬戸際まで核計画を進めるリスクが現実のものとなっています。


米国代表団はどのような姿勢で臨むのか

 トランプ政権の動向は予測が難しいのですが、気になる兆候があります。過去6カ月間の米国の言動から、国際的な場での孤立や名指し批判に以前より抵抗感を示さなくなっているようです。中国の核増強や、「中国が核実験を実施した」という米国の主張など、敵対国を批判する場として再検討会議を利用しようとする懸念があります。

もし米国が特定国を名指し批判する場として会議に臨むならば、最終合意文書の採択はほぼ不可能になるでしょう。

 もう一点、米国は国内外で核エネルギーの積極的な拡大を推進しています。しかしトランプ政権が保障措置の強化やIAEAの厳格な監視・検証を優先している兆候は見当たりません。核エネルギー拡大を推進する米国と、保障措置の普遍化・強化を求める他の国々との間で緊張が生じる可能性があります。


最終合意文書の採択 

 最終文書は重要ですが、それだけが成否の尺度ではありません。ただ今回は、前回(2022年)と前々回(2015年)と2度続けて最終文書の採択に失敗している経緯があり、3度目の失敗はNPTへの支持低下と条約全体の空洞化と受け止められかねません。例年以上に採択への圧力は高いと言えます。

 「骨抜きの合意と無合意のどちらが望ましいか」という問いについては慎重です。対処されなければNPT体制を侵食し続けるような争点をあいまいにして合意を優先すれば、「NPTはもはや安全保障の役に立たない」という全体的な不満を助長するリスクがあります。一方で、特定の国を名指しで非難する場に会議をするのも、条約の推進という観点から意味があるとは思えません。

 理想は、現代的な懸念事項に対処しながら、具体的な前進への道を示す措置——過去に各国が合意した措置も含め——を盛り込んだ文書です。「名指し批判会議」と「コミットメントを欠いた骨抜き文書」の中間を探ることが、今回の会議に求められています。


最後に・・・

 核不拡散条約は、核兵器の使用と拡散を防ぐために依然として不可欠な存在です。軍縮の停滞、核施設への攻撃、イランの脱退議論、保障措置と核エネルギー拡大の矛盾——NPTは今、複数の方向から同時に圧力を受けています。各国が誠実に、そして柔軟に交渉に臨むならば、この条約を前進させる道は必ず存在します。

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 欧州にとっても、ウクライナ危機とロシアの核の脅しが続く今こそ、NPTを守り強化することが安全保障の基盤を守ることに直結している。

 (本稿はポッドキャスト 「Global Dispatches 」の書き起こしをもとに構成した。)


by polimediauk | 2026-05-02 19:18 | 政治とメディア