デンマーク風刺画 英風刺画家はどう見たか?
(デンマークの風刺画がどんなものかを示すため、便宜的にオランダの右派政治家のウエブのアドレスを左に載せていますが、オランダ内のイスラム教過激派から殺害予告が40通届いているというニュースを、ラジオ・ネザーランズというところのウエブサイトで知りました。また、Center for Information and Documenation on Israelというオランダのグループが、Arab-European Leagueという団体が反ユダヤ主義である、として、抗議をした、ということです。この団体のウエブサイトの一部に、アンネ・フランクとヒットラーが、ベッドインしている画像があったということです。今は取られたようですが、考えるだけでも恐ろしい画像だったような気がします。日本にいらっしゃる方を不必要に怖がらせる気持ちはありませんが、これほど緊張感あるいは憎しみが強い、というか、そういう雰囲気がある、という一例です。)
英国の新聞は今のところ、問題となったデンマークの風刺画を直接は載せていない。
インディペンデントの6日号が、英国の数名の風刺画家に、これまで自分の描いた風刺画が問題を起こしたことがあるかどうか、デンマークの風刺画問題をどう思うか?を聞いている。
以下、写真を紙面から撮った。やや見にくいと思うが、お許し願いたい。

保守系タイムズ紙の風刺画家、ピーター・ブルックス氏の「問題」風刺画。「間違いを探せ」という文句の下に、一人は自爆テロの格好をした人物、もう一人米軍高官らしい人が立っている。爆弾には、「都市の中心部に向けた無差別殺人者」と同じ文句が書かれてある。
「これまで問題になった風刺画は2つで、1つは政治家デビッド・ブランケット氏を描いたもの。競走馬に見立てて書いたもので、競馬ファンから苦情が来た。(略)
もう1つは昨年7月7日のロンドン同時テロを扱ったもの。傷つけられたと感じた読者からたくさん手紙が来た。誰かを挑発することになるだろうな、というのは分かっていた。議論を起こすような、センシティブな領域を扱っていたからだ。自分自身が入れ込んでいたトピックでもあった。たった一人の人の命も、複数が亡くなった場合同様、ひどい、ということを言いたかった。
それと、2003年にイラク戦争を起こしていなければ、7月のテロもなかっただろう、という関連付けもしたかったが、気に入らなかった人もいたということだ。
編集権についていうと、検閲されたことはない。私の立場が新聞の立場と同じという意味ではない。あくまでもコメンテーターとしての自分の立場が先に来る。先にどういう編集方針にするかが決まっていて、それにあわせて作るのは、はるかに簡単だ。一枚で、独立して何かを語る風刺画を描くとき、醍醐味がある。
デンマークの新聞のように、ある編集方針の下で描くというのは簡単だ。先にアイデアがあってそれにしたがって描くだけだ。
例の風刺画は好きではなかった。あいまいだと思ったからだ。あいまいな風刺画を、私は悪い風刺画だと思う。いろいろな違う意味に受け取れるように見えた。十分に練って描かれたものでもない。とはいっても、オフ・リミットするようなトピックはあるべきではないと思っている。個人の嗜好による。
風刺画家には、自分の意見を表明する完全な自由が与えられるべきだ。自分が強く感じていることを、信じることのために、明確で、焦点があった議論を示すこと、だ。
7月のテロの風刺画には強いメッセージがあったと思う。だから良い風刺画だったと思う。

オブザーバー紙の風刺画家クリス・リデル氏。
(吹き出しのせりふがやや読みにくくて恐縮だが、小さい文字で、「ごめんよ sorry」と書かれている。)
「これを描いたのはイラクのアブグレイブ刑務所の虐待のニュースが報道されだした頃だ。米国の上層部は下士官が悪いと言っていたが、半分謝罪のようなことを言った。これほど悪いことをして、ソーリーと言うのは、何と情けないことだろうか。イラクについてはこれを含めてたくさん描いており、アブグレイグに関してもこの後も何度か描いた。(略)
「誰かが大使館に押しかけるほど問題となった風刺画を描いたことはないように思う。一番議論を呼んだのは、ユーゴスラビアが分裂したときのものだ。セルビア人の外交官が押しかけてきて、抗議をしたと聞いた。
どんな風刺画を描くのでも、何が言いたいのかを決めて、それを言ってしまうことだ。風刺画が失敗するのは、画家があることを言っているのにそれを具体化する手段があっていないときだ。そうすると、誰かの感情を害することがある。感情を害するようなことはしてはいけない、というのではないが、十分に考えるべきだ。
風刺画家には、他の編集スタッフと同様の程度の自由裁量件がある。しかし、最終的な裁定者は常に編集長だ。編集長が何かおかしいと思えば、どうにかしないといけない。私が描こうとしているのは、特定の、一貫性を持った、よく考えられた風刺画だ。編集部内で反対意見が出れば、やり直す。ある一定の方向に合わせるために、既にできている風刺画を変えることはできない。
デンマークの風刺画を見たけど、ターバンと爆弾がつながっているものは、出来が悪いと思った。風刺画が引きおこした騒動には驚いていない。預言者ムハンマドを描けば、そうなることもある。
(略)本気でなければ、こういうことをする価値はない。

インディペンデント紙のデーブ・ブラウン氏
(イスラエルのシャロン首相の風刺画。左の吹き出しには、「シャロンに投票を」とあり、右のシャロンの吹き出しには、「どうかしたのか?赤ちゃんにキスをしている政治家を見たことがないのか」とある。股間にある襟飾りには、シャロン氏の「リクード党に投票を」と書いてある。赤ん坊を食べている様子は、個人的にはあまりにもグロテスクだと思うが、どうであろうか?)
「シャロン首相の風刺画が、これまでで一番議論を呼んだ風刺画だった。イスラエル大使館が抗議をしたので、議論が2倍に広がった。イスラエル大使館の抗議キャンペーンによって、最後には、風刺画を見たことがない人まで怒っていた。
デンマークの風刺画事件もこれと似ているのではないか。イスラム教徒たちに携帯のメールや電話で抗議が広がっているのでは。
この風刺画を描いたのは、イスラエルで選挙が始まる2,3日前だった。パレスチナ側ではその時期しばらく爆撃がなく、シャロンは「ターゲットを絞った」殺戮を開始した。テロリストを攻撃するはずだったが、多くの女性と子供達を殺していた。あくまで選挙運動の一環だと思った。私から見れば、非常におかしなやり方だと思ったし、この爆撃と、英国の選挙運動とを結び付けようとした。
英国では、選挙運動中に、候補者たちが赤ん坊にキスをするという場面がある。ゴヤの絵画も頭に浮かんだ。その結果、この風刺画ができた。
新聞の風刺画家は、コメンテーターに与えられる程度と同程度の自由を持っていると思う。風刺画はインパクトを与えるのでもっと大きな自由を持っていると思うかもしれないが。挑発的であることは、風刺画の仕事の中に入っていないと思う。しかし、人の感情を害するうな風刺画を描く権利はあると思う。
この点から、デンマークの風刺画のケースを見ていると頭に来る。誰しもが、「他人の信仰に敬意を払うべきだ」という。間違ってる。自分の信仰を表現する権利に対して、敬意を払うべきだ。ばかげていると思えるような信仰もある。それを指摘して、嘲笑する権利を持つ必要があると思う。
私は人種差別が嫌いなので人種差別に通じることは描かない。しかし、何を描くべきではない、という制限はあるべきではないと思う。
唯一の判断は、風刺画が公正な意見の表明かどうか?だ。信じていないことを決して描いてはいけない」。
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今のところ、英国の新聞はデンマーク及び風刺画を掲載したほかの欧州の新聞に対して、冷ややかな見方をとっている。何故掲載しないのか?に関して、6日付のインディペンデントのコラムニスト、スティーブ・グラバー氏は、憶測レベルの見方だが、競争の激しい英新聞業界は、他の欧州の新聞界よりも、お金儲けというか、ビジネスに目が行っている、としている。つまり、イスラム教徒の読者を中心に、読者が新聞をボイコットしたり、宅配率が低い(10数パーセント)ので、殆どの新聞は新聞スタンドや小さなニュースエージェントと呼ばれている酒屋プラス雑貨屋のようなところで販売されているが、このニュースエージェントの運営にイスラム教徒の国民が多い。こうした販売店が、新聞のボイコットをしても困る、のである。
掲載しない理由の真相は不明だが(もちろん、社説で様々な理由を挙げてはいるのだが、それだけではないと考えるのが普通であろう)、とにかく、6日の時点で紙媒体での掲載はない。