NPTまた決裂 英国は沈黙、欧州は「軍縮」より核抑止へ
核不拡散条約(NPT)の第11回再検討会議が22日、米ニューヨークの国連本部で閉幕した。成果文書の全会一致採択はできず、2015年、2022年に続く3回連続の決裂となった。
ロシアの核威嚇、中国の核戦力拡大、イラン核問題――。核をめぐる対立が深まるなか、会議は各国の溝を埋めることができないままに終わった。
一方で、欧州側にも大きな変化が起きている。ロシアのウクライナ侵攻以降、欧州では「核軍縮」よりも「核抑止」を重視する空気が強まっている。NPT体制への支持は維持しながらも、安全保障環境の悪化を前に、各国は核戦力強化へと傾きつつある。
ロンドンから会議の動きを追っていると、その変化ははっきり見えた。
「条約は重要だが、会議は機能不全」
「NPTという条約そのものは重要だ。しかし再検討会議は、もはや機能していない」
会議最終日、現地入りしていたある専門家はそう語った。
NPTは1970年に発効し、日本を含む191か国が加盟する。核兵器の拡散を防ぐ国際秩序の中核であり、米国、ロシア、中国、英国、フランスの5か国だけを「核兵器国」と認めている。
一方、インド、パキスタン、イスラエルは加盟しておらず、北朝鮮は脱退後に核実験を繰り返している。核兵器を持つ国をすべて取り込めていないことが、NPT体制の課題でもある。
5年ごとに開かれる再検討会議は、条約の履行状況を確認し、核軍縮や不拡散の方向性を話し合う場だ。しかし今回は、会議終盤まで残ったイラン核問題をめぐる対立が最後まで解けなかった。
議長を務めたベトナムのヴィエット国連大使は閉幕後、「特定の国だけが合意を妨げたわけではない」と述べた。そのうえで、「イランは核兵器を取得してはならない」とする文言が大きな争点だったことを認めた。
米シンクタンク「アームズ・コントロール・アソシエーション(ACA)」のダリル・キンボール事務局長によると、米国はイラン名指しを譲らず、イラン側は逆に、自国を攻撃した米国とイスラエルへの非難を求めたという。
最終草案は当初13ページあったが、妥協を重ねて7ページまで縮小された。それでも合意には届かなかった。
英国政府は「沈黙」 軍縮より抑止が優先に
今回、ロンドンから会議を追っていて印象的だったのは、英国政府とメディアの反応の薄さだった。
会議開幕日の4月27日、英国のドーティ欧州・北米担当外務副大臣は演説し、「50年以上にわたり、NPTは国際平和と安全保障の重要な柱であり続けてきた」と述べた。
同時に、イランが国際原子力機関(IAEA)への核活動に関する説明や査察協力を十分果たしていないと批判し、中国の核戦力拡大にも懸念を示した。内容としては、従来通りの「NPT支持」と「不拡散重視」を組み合わせた外交声明だった。
しかし閉幕後、英国政府は成果文書不採択について目立った声明を出していない。英国主要メディアでも、会議決裂はほとんど報じられなかった。英国に住む人のほとんどは、このような会議があったことさえ知らないといえるだろう。
背景には、ウクライナ戦争後の欧州の安全保障環境の変化がある。
ロシアの核威嚇が繰り返されるなか、英国では核抑止強化を当然視する空気が強まっている。NPT会議の失敗そのものが、大きな政治問題として扱われにくくなっている。
実際、英国政府は2021年、核弾頭保有数の上限を引き上げる方針を決定した。核軍縮を求めるNPT第6条との整合性については、国内外から懸念も出た。
英国のNGO「英国国連協会(UNA-UK)」は、核軍縮を訴えながら自国は核戦力を強化する英国政府の姿勢が、国際社会での説得力を弱めていると指摘している。
専門家は米ロ双方を批判
政府が沈黙する一方、英国の軍縮専門家からは厳しい声が上がった。
ロンドン拠点の「アクロニム軍縮外交研究所」のレベッカ・ジョンソン創設所長は、AP通信に対し、米国とロシア双方を批判した。「核の脅威を強め、NPTの軍縮義務を弱体化させている」。
ジョンソン氏は、2017年にノーベル平和賞を受賞した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」の共同創設者の一人でもあり、長年にわたり英国の核政策を批判してきた。
フランスも核抑止強化 欧州で進む「核回帰」
欧州全体を見ても、「軍縮」より「抑止」を優先する流れは鮮明だ。
フランスのマクロン大統領は今年3月、核弾頭数を増やす方針を表明した。実現すれば1992年以来初めての増加となる。具体的な数は明かしていないが、「欧州最大の核保有国として抑止力を維持・強化する」と説明した。
背景にあるのは、ロシアへの警戒感と、米国の欧州防衛への不安だ。
トランプ米政権の復帰後、欧州では「米国は本当に欧州防衛に関与し続けるのか」という懸念が再燃している。マクロン氏は近年、「欧州独自の核抑止」を意識した発言を繰り返してきた。
北大西洋条約機構(NATO)には、米国の核兵器を加盟国領内に配備し共同運用する「核共有」の仕組みもある。今回のNPT会議では、中国とロシアが、この核共有体制の拡大に懸念を示した。
2023年にNATOへ加盟したフィンランドでは今年、核兵器持ち込み禁止法を改正する法案が提出された。冷戦後の欧州で遠ざけられてきた「核との距離の近さ」が、再び戻りつつある。
「軍縮の場」から「抑止の場」へ
欧州連合(EU)は会議開幕時、「検証可能な軍備管理が失われれば、誤算と軍拡競争の危険が高まる」と警告し、米ロ間の新たな軍備管理枠組みを求めた。
だが現実には、欧州自身も抑止力強化へと傾いている。
NPT体制そのものを壊したいわけではない。しかし、ロシアや中国への警戒が強まるなか、「核兵器を減らす」という理想より、「核兵器で抑止する」という現実論が優先され始めている。
今回の再検討会議は、そうした国際社会の変化を改めて浮き彫りにした。
ACAのキンボール事務局長は、「NPTへの支持は依然強い」と指摘する。ただ、「米国やロシアなど主要国が対立を深め、柔軟な対応を取れなくなっていることで、体制そのものが弱まりつつある」と懸念を示した。
専門家の間では、韓国やサウジアラビアなど、新たな核保有国が将来的に現れる可能性への懸念も語られている。
一方、核兵器を全面禁止する核兵器禁止条約(TPNW)は2021年に発効し、批准国は70か国を超えた。ただし、米国、英国、フランス、ロシア、中国など核保有国は加盟しておらず、日本も署名していない。
欧州でも加盟国はオーストリア、アイルランド、マルタ、サンマリノ、バチカンに限られる。
今年11月30日から12月4日、ニューヨークの国連本部でTPNWの第1回再検討会議が開催される。NPT体制が停滞するなか、TPNWが核軍縮議論の新たな受け皿となれるのかも焦点となる。
ただ、核保有国が参加しないまま、TPNWだけで実際の核軍縮を進められるのかについては、欧州外交筋の間でも懐疑的な見方が根強い。
軍縮の理想と抑止の現実をどう両立させるのか。欧州はその答えをまだ見いだせていない。
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参考:Arms Control Association、ICAN、UNA-UK、AP通信、英国外務省公式声明、国連軍縮局(UNODA)、スタンレー・センター・フォー・ピース・アンド・セキュリティによる、NPT再検討会議 最終日ブリーフィング




